アリストクライシI for Elise (ファミ通文庫)

【アリストクライシ 1. for Elise】 綾里けいし/るろお ファミ通文庫

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綾里けいし×るろおで紡ぐ、化け物達の物語。

生きたまま埋葬された青年を掘り出したのは、一人の美しい少女だった。心を持たないからと、人間から忌み嫌われ『名前のない化け物』と呼ばれた彼に、少女エリーゼは微笑み手を差しのべ、告げる「私はずっと、貴方を探していたのかもしれませんね」。彼女もまた『穴蔵の悪魔』と呼ばれる別種の化け物だった。だが彼女は、一族を激しく憎み『穴蔵の悪魔』を殺すためだけに生きていた――儚く哀しい化け物達の闘争を描いたダーク・ファンタジー開幕!
閉じた世界が広がる物語もまた素晴らしいけれど、世界に弾かれこの世にただ二人きりという物語もまた、ある種の美しさを秘めている。
拒絶し拒絶され、否定され憎まれ突き放され、自分以外の何物をも喪った者が切に求めた掛け替えの無い相手。人になれず、しかし怪物に堕ちることもなく、故に日の当たる世界に住む事も能わず、闇に沈んだ夜の世界にも背を向けて、その狭間を旅する二人の化け物。他に属する余地がないからこそ、大切なモノをすべて奪われ、置き去りにしてきた二人だからこそ、寄る辺なき二人だからこそ、お互いの存在こそが唯一であり無二。
そんな二人の関係を一言で言い表すのは困難を極める。だけれど、この物語を表すのならばラブストーリーと言わずして何と言うのだろうか。無論、愛の形は様々である。性愛、友愛、親愛、家族愛。その有り様は多岐に渡る。しかし、総じてそれを愛というのならば、エリーゼとグランの関係もまた愛という言葉に集約させられるのではないだろうか。
お互いの存在を求め合い、しかしそれ以外の何も求めず、自らを与えることをただ望む。それをこそ、無償の愛と言うのではないだろうか。

「for Elise」――その意を「エリーゼの為に」

献身と呼ぶのもおこがましい、グランのその剥き出しに曝け出された真摯な言葉を目の当たりにして、どうして彼を心無い化け物と思えるだろう。
二人は、他にもう何もない二人きりかもしれないけれど、エリーゼにはグランが、グランにはエリーゼが居る限り、側で寄り添い合う限り、孤独ではなく寂しくはない。その優しい事実がただただ切なく安堵を覚える。
寂しくないのなら、ぬくもりを感じていられるのなら、それは幸いなのですから。

ひたすらにグロテスクな、歪んだ美しさに徹している【B.A.D.】に比べて、この【アリストクライシ】はダークながらもどこか透明な美しさに至っている。悪夢の中にあっても信じられるお互いを有しているこの物語は、痛みの中にも安らぎを感じられる。綾里さんの作品としては【B.A.D.】と本作は随分と似ているようで、また随分と異なる様相を歩んでいると思っていいのではないでしょうか。
さらには、エリーゼのヒロインとしてのキャラクターも、これまでの綾里作品では見たことのタイプ。そう、この娘、居丈高で頑固で聡明だけれど、それにもましてややもチョロい傾向があるんですよね。色んな意味でチョロいというか脇が甘いというか。その分、親しみやすい、心の寄せやすいヒロインなのではないでしょうか。その抱える痛みも、寂しさも、強さも、強がりに彩られた弱さも、儚さも、優しさも。
グランに寄せる思いの強さも。

ああ、染み入る。その美しさが、閉じているがゆえに余分が削ぎ落とされ、磨き上げられ輝く儚げな美しさが心の響く、溜息の出るような物語でした。すごく、好きなんですよね、こういうの。
デビュー作の【B.A.D.】以外では初めてとなる作者の新作でしたが、期待以上でありました。堪能。

綾里けいし作品感想