はたらく魔王さま! (8) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 8】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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恵美がエンテ・イスラの実家へ帰省すると言い出した。心配する千穂、羽を伸ばす芦屋。一方魔王は、マグロナルドの新業態のため、免許取得を目指していた。しかし、戻るはずの予定日を過ぎても、恵美は東京に帰ってこなかった。動揺しつつも平常心を保とうとする魔王は、連絡を取る方法を探す鈴乃を後目に、試験を受けるため東京・府中の運転免許試験場へと向かう。道中、魔王はバスで謎の二人組と出会い…?その頃、千穂の通う高校でも問題が勃発していた。勇者不在の中、果たして笹塚の平和は守られるのか!?緊迫のシリーズ第8弾。
表紙絵が公開されたときに、まさかアラス・ラムスが成長してしまうのか、と危惧したのですが良かったのか悪かったのか、アラス・ラムスではない別人でした。彼女が成長しちゃうと、育児生活が終わっちゃうもんなあ。魔王と勇者の育児生活日記は現在のこの作品の醍醐味みたいなものなので、それが失われてしまうのは避けてほしい所だったので良かったのでしょう。とは言え、今回お母さんの勇者は実家に帰り、アラス・ラムスもそれに伴って一緒に実家に帰省することになったので、育児日記はお預けになってしまったのですが。
しかし、冒頭の一同が揃ってあの魔王城でお昼ごはんを食べているシーンを見てると……和むなあ。ちょうどアニメがはじまったばかりで、恵美が部屋の隅っこに転がって寝てるくらいの男二人で家具や家電も何もないというやや寂しいというか侘しい感のある魔王城を目の当たりにしているだけに、こんなふうに賑やかに家族の団欒するようになるんだなあ、とちと感慨深いです。
「じゃあアラス・ラムスのお豆腐のミョウガは、ぱぱに食べてもらいましょうね」
恵美さん、もう真奥のことパパとして遇するのに何の躊躇いもなくなりましたね。完全に普通のママじゃん(笑
ちょっと前まで離婚係争中で別居状態、嫌々仕方なく義務的に赤ん坊を父親に合わせる若い母親、という風情だったのに、そろそろよりを戻したんじゃないか、というくらいになってきてますよ? 一緒にアラス・ラムスの布団を買いに行ったのがトドメになってしまったのか。
帰り道でのなんてことはない身の回りの事についての世間話に雑談が高じて、ついつい長話してしまう、というところがなんかねー、すごくニヤニヤしてしまいました。駅についてもう別れるという段になっても、ちょっとパパさんだけ除け者かつダシにされながら、いくら話しても話が尽きないという感じの恵美に千穂に鈴乃の三人娘。
これまでいろんな生活臭を感じさせる描写が数々在りましたけれど、こういう目的地についたけれども話が終わらなくてついつい立ち話が長引いて、というのもまたあるある、と日常を感じさせるシーンだったりするんですよね。
その日常をひしひしと感じさせる別れのシーンが、そのままこれまでの日常に別れを告げるシーンになってしまうとは思わなかったわけですけれど。
……エミリア、時給1700円ももらってるんかよ。すげえな、全然敵わんよ。あと、真奥さん、世界征服するためにのし上がるなら、車の免許は必須やでぇ。まあ東京近辺に住んでるなら自動車の必要性はあんまり実感しなくて済むんだろうけれど。

帰還予定日を過ぎても帰ってこないどころか連絡一つよこさないエミリア。これ、ちーちゃんが取り乱すのもよく分かるんですよね。この辺りはまだ真奥はやや一般的な日本人の感覚に馴染んでいないのかもしれないけれど、普通こんなふうに一切連絡取れなくなることって、現代日本じゃまず滅多とないんですよ。よっぽどの何かに巻き込まれたか、でないと。今の時代、何かしらの連絡ツールは携えてるもんですしね。
そもそも、仕事が無断欠勤なっちゃうじゃないですか。無断欠勤ですよ、無断欠勤。その時点で大事です、普通ありえないです、無断欠勤なんて。考えただけで冷や汗モノです。洒落になりません。読んでてこのふつふつと沸き上がってきた焦燥感は、エミリアがエンテ・イスラで無事なのか、今どうしているのか、という安否についてではなく、早く帰ってこないと職場のほうが大変なことになってるんじゃないか。無断欠勤で大騒ぎになってるんじゃないか、という方向のことばかりだった気がします。
梨香が先に芦屋たちに状況を聞きに来てくれたから良かったものの、こういうケースでは職場の方から警察の方に通報があってもおかしくなかったんじゃないだろうか。まあ普通は家族親族が行方不明の捜索願を出さないと受理されないのかもしれませんけど。

これまで、恵美や鈴乃の方からの歩み寄りは千穂が解説してくれたように、真奥たちへの信頼感が大きくなっていることは明らかになってましたけれど、翻って真奥の方は具体的に恵美たちにどういうスタンスなのか、という点については、以前彼女らを悪魔大元帥に任命して一緒にやってこうぜ、みたいなことは言ってたものの、もうちょっと踏み込んだ所で彼女たち個人をどう思っているのか、についてはまだ中々こころの中を見せてくれなかったのですが、エミリアが行方不明になったことで図らずも真奥の動揺と焦りを通じて、彼も何だかんだとエミリアの事を本気で心配し、案じるようになっていたんだとちょっとほっこり。真奥にとっても、恵美はアラス・ラムスのママだったわけだ。
戻った実家でトラブルに巻き込まれ帰るに帰れなくなった奥さんを迎えに行くのは、旦那さんの役目でしょう。いったい何を人質に取られて逃げられなくなっているのか、さすがにあの描写では全然わかんなかったんだが、エミリアが囚われのお姫様(娘付き)になってしまったのは間違いないようで、これはちょっと本気で恵美がメインヒロインみたいな展開になって来ましたよっと。これで、真奥が助けることになったら、マジで仲が進展しちゃうんじゃね?w

というわけで、お話はついにエンテ・イスラに移行するのか。リアルな生活感を持ち味として前面に出してきたシリーズとしては、わりとターニング・ポイントなところになってきたのかも。

シリーズ感想