氷の国のアマリリス (電撃文庫)

【氷の国のアマリリス】 松山剛/パセリ 電撃文庫

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氷河期が訪れ、全ては氷の下に閉ざされた世界。人類は『白雪姫』という冷凍睡眠施設で眠り続け、そして、それを守るロボットたちが小さな村を形成し、細々と地下での生活を続けていた。副村長の少女ロボット・アマリリスは崩落事故による『白雪姫』の損傷や、年々パーツが劣化する村人たちのケアに心を砕く日々を送っていた。全ては―再び“人間”と共に歩む未来のために。しかしある時、村長の発した言葉に、アマリリスと仲間たちは戦慄する。「―人類は滅亡すべきだと思う」果たしてアマリリスたちが下す決断とは―!?機械たちの『生き方』を描く感動の物語。
雨の日のアイリスでもそうだったのだけれど、この人の描くロボットはあまりにも人間に近すぎる。ただ身体が機械で出来ているという以外に何が人間と異なっているのか。そんな余りにも人間に近い存在が、モノのように扱われ廃棄されることを当然としている様子には、相変わらずゾッとさせられる。
幸いにも、この村で暮らすロボットたちは、アマリリスを含めて人の愛情に触れ、人に与えられるのと同等の愛を注がれた経験のあるものが多い。でも、だからこそなのかもしれない、彼らが身を削ってまで眠れる人類に尽くそうとするのは。人に尽くすために創られたから、ではなく、人に愛されたから人に尽くすのだとしたら、その幼気なまでの献身を自分は人としてどう捉えたらいいのだろう、と深刻に呻いてしまった。
それを美しいものとして讃えるのがいいのか? 純真無垢なその精神を称えればいいのか。むしろ、自分は人が彼らを讃えるなどしていいものかとすら思えてならない。自分たちを差し置いて彼らを讃えるなど、何様だと思ってしまう。彼らロボットをあんなにも健気な存在として作り出してしまった人間たちに、業の深さすら感じる。
だからなのだろう。現状の維持が不可能となり、破綻に向かって決壊が起こった時に村長が主張した「人類は滅亡すべき」という言葉に共感を覚え、この優しいロボットたちに生き残って欲しいと願った村長の思いに頷いてしまったのは。
それでも、一縷の望みを託して彼らが人との共存を望んだのは、今まで彼らが積み上げてきた百年を無駄にしたくないから。これまで倒れてきた同胞たちの行為や想いを無為にしたくないから。そして、かつて彼らが与えられた愛が本物だと信じていたから。自分たちが胸に秘める想いが本物の愛であり心だと信じているから。
足りないものを分け合う半分この精神をかつてアマリリスは尊敬する人間の園長さんから学び、ずっと実践して来ました。そうして、アマリリスはアイスバーンと余りにも多くのものを受け取り、余りにも多くのものを与える半分こを実践し、未来に二人の間に芽生えたものを繋いでいきます。
……でも、果たして人類は、これほどまでに多くのものを与えてくれたロボットたちに、それに匹敵するだけのもう半分を分け与える事が出来るのでしょうか。
【雨の日のアイリス】に比べて、この作品の人間たちは決してロボットを虐げたり蔑ろに扱ったりはしていません。むしろ凍りづけにされる前の世界でもロボットたちはわりと大切に扱われ、ラストにおいても使い捨ての機械ではなく、人を守り続けたものとしてキチンと報われた対応をされています。
それでもなお、余りにも大きすぎるロボットたちの献身は一体何を以って報えばいいのかわからないほど健気で、わけの分からない罪悪感に苛まれるばかりでした。
人間は、果たしてこれほどまでに純粋な存在に、真正面から向き合えるのでしょうか。無理じゃないかな、と思えてくる。人間は、彼らの主人になれるほど聖なる存在とは成り得ないのではないでしょうか。その無垢な瞳に見つめられ、微笑みかけられることに、人類はいつしか耐えられなくなるのではないかと、新たな希望の未来が始まったにも関わらず、決して晴れ渡るような心地にはなれなかった読後感でした。

そう、言うなれば 「愛が重い」。

松山剛作品感想