薔薇のマリア    18.光の中できみが笑う今は遠くて (角川スニーカー文庫)

【薔薇のマリア 18.光の中できみが笑う今は遠くて】 十文字青/BUNBUN 角川スニーカー文庫

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苦難の旅を乗り越え、城塞都市シャッコーでZOOの仲間たちとようやく再会したマリアローズ。しかし、トマトクンは死の淵にあった。ボロボロの身体には治療の効果もなく、もはや最期の瞬間まで見守ることしかできないのかと思われた時、彼を救う最終手段が提示される。そのわずかな希望を手に入れるには異界の最深部“獄の獄”に行く必要があると告げられ―トマトクンを救うため、マリアと仲間たちはさらなる苦難へ突き進む。
ただでさえ地上が地獄の釜をひっくり返したようになっている中で、トマトクンを助けるために本物の地獄のその最奥、「獄の獄」に潜ることになったZOOの面々。何よりも感慨深いのが、この余りにも過酷な探索行がマリアたちの独断でトマトクンを助けるために突入したものではなくて、トマトクンからZOOの仲間たちに乞うたものだった、ということでしょう。トマトクンという存在は、これまで仲間であるリーダーであるという以上に、ある種の庇護者みたいな雰囲気があった事は否めない。ジョーカーやトワニングのようにあくまで対等、という人もいるにはいたけれど、みんなどこかしらでトマトクンに対して頼りにして寄りかかる部分はあったし、トマトクンの方もその来歴もあってか、今世に出来たこの大切な仲間たちを自分が守らなければならない、という観念があったように思う。それが、身体が持たずに崩壊しようという瀬戸際になった時に、決死行に等しい獄の獄への突入を自分を助けるために、守ろうとしていた仲間たちに頼り、すべてを託そうとしたトマトクン。その決断にこそ、彼が今のZOOの仲間たちをどれだけ大切に思っているかが、逆に伝わってきた気がします。そこまでして、一緒に居たかったのでしょう。この仲間たちとまだ生きたかったのでしょう。そして、自分のすべてを託すまでに、この地獄行を誰も死なずに成し遂げてくれると仲間たちを信頼したのでしょう。その気持が、なんだか嬉しかったなあ。
多分、マリアたちも嬉しかったのでしょう。一も二もなく、「獄の獄」への突入を決断するZOOの面々。いつもは心にもない愚痴や文句でストレスを発散するマリアも、今回ばかりはそれすらもなく、それどころか今は別の場所にいるカタリにすら思いを馳せ、はっきりと口にはしないものの、この一団となったZOOの中に今カタリがいないことを惜しみ、あとで自慢すらしてやろうと思っているあたりに、マリアにとっての、ZOOにとっての、この冒険がどんな意味合いを持っていたのかが透けて見えるような気がします。
相変わらず、無力なのに自分が皆を先導し、指示を飛ばすサブリーダーとしての役割にプレッシャーを感じ、押しつぶされそうになっているマリアですけれど、それでも以前と比べるといつまでもぐだぐだと凹まないし、仲間たちの目を必要以上に恐れないあたり、成長したというか、昔と比べると仲間たちとの信頼関係が段違いになったよなあ、と感慨深い。ユリカが的確なタイミングでフォローを入れたり、と周りの連中もマリアのメンタルをよく理解し補えるようになってて、実のところ信頼値としては当初からこのクランは高止まりして変わってないと思うんだけれど、お互いをフォローしあう機能性連携力という意味ではほんと、素晴らしい高みまで至っている。
敵は高レベルの悪魔や天使、バケモノばかり。最終ダンジョンどころか、ゲームの全クリ後にオマケで用意されているような隠しダンジョンと言ってもいいような難所であり、最大戦力であるトマトクンが完全に戦力外で、トワニングも彼を背負って戦力外、トマトクンを治療しなきゃいけないために定期的に安全を確保しなきゃいけない、という状況にも関わらず、確かにかなり瀬戸際ギリギリではあるんだけれど、実際はかなり安定感のある行程だったように思う。マリアが判断を迷わないと、たとえ誤断があってもパーティーとしては安心感があるんですよね。はっきり言って超人揃いになってしまったこのパーティーですけれど、マリアという核であり頭が存在してこそこれほど強力になれる、と改めて見せつけられたような気がします。
それでも、この「獄の獄」は余りにも地獄の底の底すぎて、今のZOOをしても突破できない場所であったのですが。あの最終関門は無理ゲーすぎるでしょう!
もうね、そこでマリアが何の躊躇いもなくあの決断をしてしまったことが、なんか衝撃的でした。ショックだった、というのとは違って、ただただインパクトだった、とでも言うのでしょうか。その行為に対して何の感想も思い浮かばないまま、無色の衝撃が通り抜けていった、というか。それだけはやっちゃいけないだろうとか、それしか仕方がなかったとか、そういう考えもなんか塗り潰されてしまって。なんとも不思議な感覚でした。だから、それを止めてひっくり返すのは、やっぱりトマトクン以外居なかったんでしょうね。マリアにとってのトマトクンの大きさがそれを為したのなら、それに対して何かを物申せるのも行動できるのも、トマトクンの大きさだけだったのでしょう。
これが、存在感ってやつだわなあ。
だからこそ、復活したトマトクンの巨大さが、より実感できるわけで。
本物のディオロット・マックスペインの復活に、何か体の芯から身震いするような興奮が沸き上がってきました。この地獄の蓋が開き、人間と悪魔が闘争を繰り広げる阿鼻叫喚の地獄絵図に、ついに光が差し込んだような。

今なお各地で悪魔の侵攻に抵抗を続ける人類各位。その勇戦は、相いれぬはずの宿敵同士を結びつけ、また新たに幼い命も産み出すに至っている。
ジョーカーが守る城塞都市シャッコーこそ陥落の危機を迎えているけれど、それこそ底の底はここだった、と信じたい。

十文字青作品感想