ドラフィル!〈3〉竜ヶ坂商店街オーケストラの凱旋 (メディアワークス文庫)

【ドラフィル! 3.竜ヶ坂商店街オーケストラの凱旋】 美奈川護 メディアワークス文庫

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再び季節はめぐり、次の竜ヶ坂祭りに向けて練習を続ける『ドラフィル』のメンバーたち。しかしそのさなか、響介のもとにある奇妙な依頼が舞い込んだ。依頼者の名は、七緒の育ての親であり、彼女を見捨てたはずだった女性―一ノ瀬真澄。その内容は真澄の姉であり、世界的ヴァイオリニストの羽田野仁美が所有するヴァイオリンの鑑定であった。所持した者に不幸を呼ぶという呪いのヴァイオリン“チェリーニ”に酷似した、その楽器の正体とは?そしてドラフィルの演奏会の行方は―。

……しばらく、余韻を噛み締めるばかりで放心していました。さて、この物語をして何から触れるべきか。
そもそも、響介がとある演奏会にてある少女の神がかった演奏に遭遇し、音楽と言う魔に取り憑かれたのも、彼の手元に一ノ瀬ゆかりが使っていたランドルフィが訪れたのも、因果を求めていけば羽田野仁美へと辿り着く。
そう、七緒が足の自由と指の感覚を失ったあの事故さえも。羽田野仁美が持つ謎、彼女の真意こそがあの七緒という奔放な女性を今も縛り付け、前に進もうという意志を遮っている。
それこそが、最後の難関。羽田野仁美との対決こそが、このドラフィルという物語に課せられた、最後の障壁であったのだ。
その謎を紐解くためのきっかけとして、もたらされたものこそ「呪い」というキーワードである。“チェリーニ”という、持つものを次々と不幸に陥れてきた伝説の「呪いのヴァイオリン」。かの名器「メサイア」のコピーを携えている羽田野仁美が持つという、もう一つのオリジナルに比肩するコピー“チェリーニ”は、果たしてその「呪い」をも再現しているのか。彼女の持つ「呪い」こそが、彼女の娘である七緒と、妹親子である真澄とゆかりの運命をもねじ曲げてしまったのか。
果たして真実は何処にあるのか。一ノ瀬真澄から託された依頼をきっかけに、響介は自分を七緒に巡りあわせ、そして今なお七緒を縛り付けているものを解き放つために、真相を追い求めていくことになる。
そして、決着は……呪われた王者とドラゴンの対決は直接向き合い音楽を交えることではじまり……終わる。

思い返すとこのドラフィルという物語は……いや、作者の美奈川護さんの描く物語は見送る者と、その背を見守られながら前へと進んでいく者の、往く者と残る者の構図によって成り立つことが多い。それは別離であり、切ない別れであると同時に、再出発であり新たな時間のはじまりでもある。不思議と、残された者も置いていかれた、という感じではないんですよね。残ることもまた選択であり、その別れは最後の心の整理であり、往く者を見送るその心境は道別れたことへの寂寥と共に祝福が込められていて、そこには自分が選んだ道を進んでいく覚悟が得られていく。
一巻のゆかりに贈ったドラフィルの演奏も、二巻の最後に響介の父親に聞かせた演奏も、惜別であり決着であり、新たな出発であった。それはこの三巻も同様で、かつてこのドラフィルでヴァイオリンを弾いていた高柳とのそれも、羽田野仁美とのそれも、同じ意味を持っていたように思う。
そして、ここで描かれた別れが、別れた道が永遠に別れたままではないということも、この三巻では見せてくれた。
「おかえり」

皆が待ち続け、七緒が迎えたその言葉を贈った演者の凱旋は、まさに一度別れたものの帰還であった。そして、倒れた王者もまた、いつか「再生」することを、ドラゴンを率いる男勝りの指揮者は疑いもしていない。今度こそ、同じ音楽を奏でるために。

いつになく弱気だった七緒。彼女が初めて響介に吐露した弱音は、しかし響介の背筋を伸ばすことに繋がったような気がします。指揮者がブレたときこそ、コンマスが支える時。迷い、悩みながらも、ゆかりという七緒を支えるもう一つの支柱に助けられながらも、響介は今回、コンマスとしての本分を、七緒の相棒としての役割を毅然と果たしてくれたのではないでしょうか。七緒とドラフィルが、王者を前にしてもドラゴン足り得たのは、響介がブレずに尽くしたからなのでしょう。
かつて、そして今に足るまで、七緒にとっての英雄は羽田野仁美であり続けました。しかし、羽田野仁美を敗北させた今、彼女の音楽の英雄はどうなったのか。七緒の内面の詳細は、ついに曝け出されることなく終わってしまい、それが微妙に残念なのですが、その辺りは想像の余地あり、ということで。
うん、個人的にはもう少し、響介と七緒の二人の関係について踏み込んでほしい気持ちはあったんですけどね。ラブ寄せとまでは言わなくても。
もっともっと、このアマオケの話は見続けていたかったのですが、これにてこの物語は完成です。素晴らしい、音楽というものの素晴らしさを轟々と浴びせかけてくれた、凄絶なくらいの傑作でした。
次回作もまた、芸術方面で大いに期待したいと思います。

シリーズ感想