偽悪の王 Blade, Blaze and Sweet Ballade (MF文庫J)

【偽悪の王 Blade, Blaze and Sweet Ballade】 二階堂紘嗣/vane MF文庫J

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異形都市ダイロン。古より伝わる魔法と、最新の科学技術とが融合した都である。由緒正しきグライムス魔法学院には若き才能が魔力・知力の厳しい選抜をくぐり抜け入学してくるが、レインは学院で一人、魔力を持たないただの人間だった。しかし――
「あなたに決闘を申しこむわ! 」魔銃剣を突きつけた転入生リリアはレインに次ぐ、LEVEL0の少女だった!
『ぼくは、ぼくの国をつくる』。
とある契約と枷を持つレインが『彼女』たちと出会った時、全ての歯車は廻り、その牙は正義をも欺いてゆく――。絶対的マギ・ファンタジア開幕!

正義では報われない痛みがある。正しさによってつけられた傷がある。そんな絶望を前にして、少年が選んだのは、正しさで救われないものがあるのなら、正しさに背を向けてでも欲するものを手に入れようという覚悟。
世界を救おうという悪である。
得てして、正義と理想は対立する。ならば、理想を追い求めるものは秩序の破壊者であり、現実を破綻させる者なのだろう。それは時として独裁者となり絶対王権の担い手となり、革命家であり名君となる。それがただ破壊する者となるか新しい世界を創造する者となるかは……さて、理想を諦められるか次第だ、などと言っては度が過ぎるだろうか。
少なくとも、魂に負った傷にのたうち回りながら、血反吐を吐いて前進を続ける主人公レインの辿る道は、余りにも破滅の匂いが濃い。彼が夢見る理想は、結局傷の痛みの代償行為であり、決して未来に希望を抱いているようには見えない。絶望の果ての、尊い足掻きのようにすら見える。同じく破綻しきったイブリンとの共犯共謀関係もまた、お互いの破滅を絡めあい微睡んでいるかのようだ。
そんな中で現れたリリアという存在は、果たしてどう作用してくるのだろう。レインと同じく自身にまつわる全てを奪われ打ち捨てられたという絶望を抱える彼女は、その一旦、真実を取り戻すためになりふり構わずグライムス魔法学院という戦場に飛び込んできた、しかし結局ナニも知らない迷い子のような存在だ。しかし、彼女は痛みを知っている。レインの傷を、自分のことのように理解できる。そんな彼女を求めたレインは、決してその能力に利用価値を認めたのみではないのだろう。痛みは、どうしたって耐え難いものだ。どれほどその傷が大事なものであっても、痛みがもたらす苦しみからは逃れたいと思うのが本能だ。癒されたい、救われたいという祈りは、決して消し去れない。
視点を変えよう。物語の主体は主人公であるレインだろう。しかし、キャラクターとしての主体はむしろリリアにある。魂の傷を以って世界を変えようとする少年の、その傷を少女が癒せるかどうかの、これは偽りの悪を暴く物語なのだと、そう思えば破滅の前が開けてくる。
ラスト、相手に向かって手を伸ばしたのは誰なのかを思えば、そう願うことも出来る気がする。