よろず屋退魔士の返済計画 1 100億の契約書 (オーバーラップ文庫)

【よろず屋退魔士の返済計画 1.100億の契約書】 SOW/蔓木 鋼音 オーバーラップ文庫

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再会した幼馴染は借金取り! ? 死者専門の何でも屋、はじめました

「おめでとう、わたしの一生をかけて、オマエを使い尽くしてあげよう」
退魔の名門「神堂家」から破門され、かつて住んだ家に戻った追儺狗朗を待っていたのは幼馴染の九十九みぎりと100億円という莫大な借金だった。
破門された身のため、退魔士として依頼を受けることができない狗朗だったが、みぎりの発案により「死者専門の何でも屋」を開業することに。
しかし舞い込む依頼は死者のしょうもない心残りなど、どれもひとクセあるものばかり。
更には神堂家からも後輩にあたる退魔士、葛が追いかけてきて! ?
退魔士の少年と暴君少女が始める借金返済コメディ、ここに開幕!
あー、これは掛け値なしに面白いわ。実のところ、設定やお話の展開についてはかなり王道路線で特別珍しい事は何もしていないのだけれど、それでこれだけ面白いのだから余程土台の段階でしっかりしているのでしょう。
退魔師業界の雰囲気としては、【いぬかみっ!】や【ラッキーチャンス!】の有沢まみずさんが描いてるあんな感じを想起するとわかりやすいかと。まあ、あんな変態連中は出てこないのでその意味では安心ではあるのですけれど。
しかしこれ、多少見鬼の能力はあっても基本的に退魔の力を何も持たないヒロインのみぎりが牽引役で、辣腕の退魔師崩れである狗朗が言われるがままひーこらこき使われる、という構図は考えてみるとこれはこれで珍しいのかもしれない。つまるところ、この構図は退魔業界の常識に則っている狗朗ではなく、素人であるが故に発想が自由であるみぎりが主体となって依頼をこなしていく、という事でもありますしね。尤も、まだそこまで素人故の奇抜さが事態を打開した、という懸案はないのですけれど、そもそも死者から依頼を受けるという発想こそが行き詰まっていた狗朗の現状をひっくり返したという意味では、大本の段階で素人故の発想が生きているのかな。それに、変にバトルものに走らないのもいいんですよね。依頼の内容は死者特有のものではあるんですけれど、同時にすっとぼけた日常ならではのあんまり危険のない依頼ばかりで、文字通りの何でも屋という雰囲気で、屈託のないコメディの中に結構人情モノの要素もあって、ほろりと泣かせてくれるような、胸を熱くさせてくれるような話もあって、いやあこういうの好きなんですよ。
ラストの大物との対決も、結局バトルではなく相手の名前を探し出す、という命を賭けつつも、力ではなく絆をこそ試させる流れでしたし。ところで、あの鬼哭姫の元ネタはやっぱり戸隠の鬼女紅葉伝説なんだろうか。

みぎりと狗朗の関係も、何だかんだとお互い信頼し切った大切にし合ってる関係で見ててもほっこりさせられる。みぎりときたら債権者を気取って無茶苦茶振り回してくるけれど、視点を変えると自分の人生丸ごと狗朗に捧げてるとも言えるんですよね。何だかんだとその行動の殆どは狗朗の為ですし。一方で狗朗は狗朗で、百億の借金という建前はありますけれど、ホントそれって建前だけで自分の心身をみぎりに預けきっているように見えたのは決して自暴自棄ではなかったはず。最後のエピソードは、そんな二人の関係を……つまり「自分が生きるのはアナタのため」という相手の存在が生きる理由そのものになっているということを改めて各自に自覚させるという意味で、実のところ葛はあのエピでかなり突き放されてるんですよね、可哀想に。
そして、ありきたりではあるんですけれど、あの世の境界で狗朗が生まれたことを全肯定されるシーンは思わず目尻が熱くなってしまいました。ああいうの弱いんですって。
善き哉善き哉。大変面白かったので、次回以降も積極的に追いかけていきたいと思います。さらにみぎりのラブ寄せを期待しつつ。