なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る (メディアワークス文庫)

【なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る】 野崎まど/戸部淑 メディアワークス文庫

Amazon

お人好しの青年・波多野ゆかりくんは、あるとき謎の白うさぎと出会いました。いきなり喋ったその「うさぎさん」は、なんとその自慢の長い耳で人の『縁』の紐を結んだり、ハサミのようにちょきんとやったり出来るのだそうです。さらにうさぎさんは、ゆかりくんにもその『縁』を見る力があると言います。そうして一人と一匹は、恋人や親友、家族などの『縁』をめぐるトラブルに巻き込まれ…?人と人との“こころのつながり”を描いた、ハートウォーミング・ストーリー。
この作者のことだから、さあどこで卓袱台返しが待ってるんだ? とおもいっきり構えてたら、最後まで揺るぎなくハートウォーミング・ストーリーでした……なんですと!?
さすがに、第一話を読んだ時点でこれは少なくとも最終章までは安心して見ていられそうだな、と察せられたので油断しきって読んでいたのですが……いや、本当に油断していたので途中で崖下に突き飛ばされていたら全く抵抗できずに滑落していたでしょうから、危ないところでした。いやいや、だから全然危なくないとても安全なハートウォーミングだったんですけどね。危ないハートウォーミングってなんだよ、という話ですが、一度安全だったからといって野崎まどを読むにあたって油断などもってのほかと、改めて心構えを律する次第でありました。って、普通に心温まっておけよ、という話なんですが。
まあね、第一話ってあれハートウォーミングなのかと言われると何気に微妙じゃありませんか? 一途に想いを寄せてる女の子と、相手の男性には残念ながら縁の紐が繋がっていなくって、紐が見えてしまうゆかりくんが苦悩するお話なのですが……あの縁が繋がったシーンって冷静になって見なおしてみると私としては相当に怖いんですけれど。少なくとも、自分の絵を無数に描いて飾ってる女の子の部屋を覗いてしまったら、と想像するとわりとドン引きなんですがw 絵だからあれですけれど、これが写真だったりすると立派にストーカー……w
ま、まあ本人同士がよろしければよろしいんじゃありません?
それに、第二話は掛け値なしにほろりと胸の熱くなる友情話でありました。ただの男の子同士、女の子同士じゃなくて、女一人に男三人の大学生が恋愛感情抜きで、というのがまた良かった。四人はサークル費もマトモにもらえない弱小自転車部のメンバーなのだけれど、その中の唯一の女性部員の娘が、家庭の事情から大学を辞めて実家に帰ることになり、その娘の為に彼女が温めていた夢の可愛い自転車を実際に作って贈ろうとする男三人とそれに関わることになったゆかりくんの奮闘記で、これがまた泣かせるんだ。四編あるお話の中で、自分はこれが一番好きでした。仲良し四人組は、離れ離れになってもずっと大切な友達同士。男女に友情は存在しないというけれど、こういう男女だからこその友情ってのもアリじゃないかなあ。

第三話はシングルマザーとその出来た一人息子の家族の縁のお話。
ここで出てくる少年は、ちょっと子供らしくなさすぎるくらい出来た男の子なんですけれど、礼儀正しくお母さん想いで誠実で、と確かにこんな出来た子が育つならゆとり教育って大変なシロモノですよね。完全にお母さんの教育の賜物なんでしょうけれど。でも、聡い子だからこそ頭がよく周り世間や自分の環境のことをよく理解できるからこそ、余計なことまで考えてしまうというのは、子供らしく無邪気で居られないという意味ではしんどいことなんだろうなあ。でも、そんな彼が抱いてしまう不安を、このお母さんは真っ向から吹き飛ばしてくれたので、読み終えたあとは笑顔笑顔。自分の都合や予定を諦めかなぐり捨ててまで、この男の子をひとりきりに放置せず、最後まで付き合ったゆかりくんもまた、素直にカッコ良かったです。あれはなかなか出来んですよ。そして、ウサギのうざいことうざいこと。このおっさん、煮物にして食ってしまえば良いんでないか?

第四話は、作品通してのヒロインではないかと目していたこの大学の屋台骨として機能している才媛・
西院さんが囚われてる死者との縁のお話。
てっきり、ゆかりくんが第一話でバッサリとぞんざいに大した理由もなくその場の空気でうさぎさんに切られてしまった彼と繋がる縁が、実は西院さんと繋がっていて、それが結ばれてめでたしめでたしハッピーエンド、という油断しきったお話になるのかと緩みきっていたら、これがどうしてかなりヘヴィーな過去が彼女にはあり、それが現在もなお彼女の時間を止める形で縛り付けていたのでした。
ここで立ちすくまないのは、ゆかりくんのイイトコロ。このゆかりくん、決して能動的じゃなくてすっとぼけたところはあるけれど、温厚篤実で大人しい感じの青年にも関わらず、此処ぞという時に立ち止まらずに気がつけば動いている、というあたり大した男だと思うのです。まあ何気に、それはあの人イイ人だね、で止まってしまうようなキャラクターな気もするし、動いているわりにフラグがあんまり立たないという自然体の持ち主という事でもあるのですが。
あれだけガツンと、動けなくなっている西院さんを励まし急き立て背中を押して、彼女を縛っていた因果を振り払う手伝いをして、彼女が気持も新たに未来へと歩いていけるだけの手助けをしたにも関わらず、殆どフラグらしいフラグが立たなかったのはある意味奇跡的とすらいえるくらい……人畜無害?
でも、もし続きものだったら、ここからもう一度西院さんとの縁を繋げて育んでいってほしいなあ、と思ったり思わなかったり。西院さんはあくまで憧れの先輩ポディションで、という欲求も無きにしもあらず。何にせよ、ヒロインが新しく出てきてくれないことにはねえ……何しろ、現状うさぎさんとの縁が鬱陶しいくらいに太すぎて、鬱陶しい鬱陶しい(苦笑
あれでうさぎさんが実は女の子でした、なら実にライトノベルらしいんですけれど、声や生活態度からしておっさんだしな、このウサギ。おっさんとの縁がしめ縄みたいに太くて祝われてるって、なんか嫌だ。相手が可愛らしいうさぎさんでも、おっさんは嫌だw

野崎まど作品感想