疾走れ、撃て! 8 (MF文庫J)

【疾走れ、撃て! 8】 神野オキナ/refeia MF文庫J

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クリスマスイブの激戦の後、学生兵士たちは短い休暇となったが、帰る場所のない田神理宇は(そしてミヅキも)虎紅の采配で兵舎に残留することになる。総員がかりで駐屯地恒例?の正月の餅飾りのための餅つき大会をした過日の賑やかさも消え、兵舎の静けさに包まれたミヅキと虎紅は理宇の様子を気にかける。一方、兵舎を出た鷹乃や深冬たちは、束の間、家族との幸福な日常を噛み締めていた。ただし「第二級戦闘警戒態勢」発令中のために銃は携行していたが。――そして、残り少ない平穏な時間は終わろうとしていた。嵐を予兆させる第8巻!
加ww藤ww教www官www!! いかん、思わず草を生やしてしまった(笑
でもそれくらい、加藤夏華の求婚活動が決死戦すぎて、わらた。今回、理宇たちの人間関係や陸軍の政治勢力の激変など嵐の前の静けさながらも大きな動きが多々あったにも関わらず、なんか加藤教官の必死過ぎる戦いに存在感を全部持っていかれてしまった感がある。ミヅキと虎紅に加藤教官が、何甘いことちんたらやってんだ、恋愛に正々堂々なんて存在しねえ、勝利こそが正義だ、ありとあらゆる手段を駆使して恋敵を蹴落として目的の男を奪取するんだよっ、という趣旨の演説を泥酔しながら熱烈にぶってしまっていたシーンには、いろいろな意味で頭を抱えてしまった。
「洒落や冗談では決して無いんですけれども、ご苦労なさってらっしゃるンですね」
十代の少女たちにしみじみと気遣われてしまうアラサーw そんな風に気遣わないであげてっ!
いやあ、まだ夏華さん、そこまで焦るほど年齢的にも切羽詰まってないと思うんですけれど、相手があの伊達教官というラブコメ主人公もかくやという鈍感男となると、なるほどここまでデス・マーチを敢行しないと通用しないのか。加藤教官は、ぶっちゃけそこまで肉食系じゃなくむしろその挙措は控え目な女性だと思うので、そんな女性にあそこまでさせるという意味では、伊達教官も悪い男よのぉ。翌朝の、彼女のやり切った、という達成感に満ちた穏やかな笑顔には、もうこちらも満面の苦笑である。
「そ、その、じ、自分は何もするつもりはなく……」
「はい、何もしてないのは存じております」
 ほほえみを崩さないまま、夏華は続けた。
でも、あけまして、おめでとうございます、伊達教官」
わはははははは……年貢の納め時ですよ、伊達さん。

一方で、ついにラインを踏み越えて理宇に好意を伝えてしまったミヅキと虎紅。突然、身近な二人に告白され、猶予期間は与えられたもののどちらかを選べと迫られて追い詰められる理宇。いきなり、どっちか選べと言われてもねえ、そりゃあ困る。意外とちゃんと主人公がこういう決断を強いられる展開というのはなかったりするので、理宇がどうするかは興味津々ではあるんだけれど、同情も湧いてしまう。ミヅキと虎紅の二人についてはお互いに恋敵かつ戦友として交流を深め、今や敵というよりも親友という関係にまで深まり、散々気持ちも盛り上がっていたのに対して、理宇については彼女たちが自分に向ける感情については完全に青天の霹靂だったんですよね。身近に居たミヅキについては、勘違いから親友の裕也と交際していると思い込んでいて、異性として見ることを必死で避けていたわけですから、いきなりそれが誤解であり実は前から自分を好きだったと言われては、まず気持ちを整理するところから始めなければならず、精神的に何の準備も整っていなかったところに一人どころか二人両側面から完全奇襲ですから、もう為す術なしですよ、これは。それとなく、雰囲気が盛りがっていたならともかくねえ。ミヅキとしても、今回の告白は偶発的なもので、決して場が整っていたわけではなく、かなりなし崩しに開戦してしまった、という体たらくでしたから、虎紅がうまく状況を纏めてくれたとはいえ、これはややも拗れるかもしれません。
そう、もう悠長に構えている時間はないのですから。

決戦前の最後の猶予期間。中央では、陸軍は政治の季節真っ盛り。幸か不幸か、対立する溝呂木と馬上、この二人は権力志向の俗物ではなく、純粋に軍人として現状を打破する為に全力を尽くしている優秀な人物なのですが……。だからこそ、拗れているとも言えるのか。溝呂木中将も吸血鬼なんて異名とは裏腹に、学兵を気遣い権力の乱用を嫌う非常に健全で厳格な軍人ですし、馬上さんも派閥をつくらず公平に物事を判断する真っ当な軍人、そして軍人という枠を離れて一人の人間としてみると、二人とも優しい心を持ったとてもマトモな人間なんですが……優秀な司令官というのは、兵をうまく殺せるという意味でもあるんですよね。本当に大事な時、ためらうことはしないはず。それに、頭が健全であっても、カリスマであるということは下が信奉するあまりに暴走してしまうという事が多々あるわけで、その為に起こる悲劇が既に乱発されている。
誰が悪いというのではなく、各々が自分の信じた道を選び、断固として進軍している。その信じた道というのは決して大きく違っているわけではなく、ともすれば重なることもあるはずなのに、何故かどうしてかそこには対立や反発が生まれ、意味のない軋轢や誤解、暴走が介在してしまう。基本的に、どこにも誰にも独り善がりの野心や悪意は見当たらず、みんな悪い人じゃないだけに、一致協力できない現状というのはどうにももどかしくて仕方ない。
最後の理宇たちを助けに来た混成軍なんて、ある意味象徴的なんですよね。矛盾と錯誤のその先にある、人間としての純朴な有り様に殉じた結果としても。
何にせよ、生き残ることこそ肝心なのでしょう。本当の混沌は、まさにここからはじまるわけですから。

シリーズ感想