Fランクの暴君 (1) ―堕ちた天才の凱旋― (電撃文庫)

【Fランクの暴君 1.堕ちた天才の凱旋】 御影瑛路/南方純 電撃文庫

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在籍する生徒の成績は超優秀、あらゆる部活は全国制覇を成し遂げる。夜空に輝く星のような私立七星学園。しかしその実体は、厳格なランク制度と、生徒の容姿までステータス化されるシステムで生徒たちを管理する、別名『弱肉強食学園』。そこは絶対的な強者が支配していた。派閥“アーバンライオン”を率いる、“傲慢”の神楽坂エリカ。彼女を打倒し、『頂点』に立ち、『暴君』として君臨する―。危険な野望を抱いた“堕ちた天才”藤白カンナは、Fランクの教室に居た…。知能と知能がぶつかり合う下克上ストーリー、開幕。
うむむむ、これってエリカ様の敗因って文字通り心を許してしまったからなんじゃ……。そうだとすると、彼女に施された思想の否定ではなく肯定になってしまうわけで、なかなかに業深い内容である。しかし、勝利することが全てではなく、敗北することで解放されるものがあるとすれば、カンナは勝って彼女の語る思想を肯定することで、逆に、そんな思想が肯定される現実に敢えて自分が踏み込むことで喧嘩を売った、とも言えるわけで。うーん、でも彼自身は孤高の虜であることの肯定派でもあるわけで、彼自身矛盾を抱えているようにも見える。
全部終わってから振り返ると、完全無欠に思われたエリカ様の石膏のように塗り固められた固さと脆さが浮かび上がってくる。彼女自身の意志で絶対女王になったわけではなく、彼女の置かれた環境が彼女にそうなることを強いたのでしょう。勿論、それを実現できる彼女の天才性はなんら否定されるものではありませんけれど、彼女の冷徹さが自動的であり、そこに毅然とした意志と覚悟がなかったが故に、その隙間に弱さが生まれ、カンナとの関係性に特別を見出してしまい、最後の油断に繋がってしまったように見える。彼女は、そう心は許していなかったかもしれない。心を預けてもいなかったのだろう。でも、その凍りついた心を、カンナにだけは「寄せていた」のです。
心を寄せ受け入れていたカンナに突き放されることで、絶対女王の呪縛から解き放たれたエリカ。堕ちた女王となった彼女の心のうちは何も語られていません。その心にあるのは復讐か、未練か、拠り所を失った恐怖か、新たな境地に立ったのか。
一端、フィールドの外に置かれることになってしまった彼女ですけれど、とてもじゃないけれどこのままフェイドアウトするとは思えないのです。カンナにとってのエリカも、エリカにとってのカンナも、余りにも絶対的過ぎました。故にこそ、離れることになった二人ですけれど、その断絶が永続的になるとは思えないのです。いずれ再び、彼女は現れるのでしょう。その時カンナの立つ位置は何処に在るかはわかるません。もしかしたらかつてのエリカと同じ君臨者であるかもしれないし、未だ挑戦者であるかもしれなく、またすべてを破壊する革命家のままかもしれません。一方で、エリカもまた再び敵として現れるのか、味方として現れるのかわかりませんが、敵であろうと味方であろうと、やはり彼女こそがカンナにとってのラスボスとなる事に確信めいたものすらあるのです。この二人以外は、余技に近い気がします。唯一、そこに楔を打ち込んでくる人が居るとしたら、七星七海その人でしょう。彼女は決して知能に優れているわけでもないのですけれど、物事の真理を見抜く勘所はちょっと神がかったところがあります。カンナがエリカ以外に唯一、選択や判断を預ける可能性があるのは多分、彼女だけでしょう。影響力としては見逃せない重たいものを持ち合わせている。尤も、彼女はどこかしら傍観者的な立ち位置から外れなさそうな気もしますけれど。何にせよ、注目を外せない面白い人物です。
ヒロインを救うのは主人公の特権ですが、主人公を救うのもまたヒロインの特権。救いは決して幸福とイコールではありませんし、得てして救済は敵対という形を伴う場合も少なくありません。思えば、この作者の代表作である【空ろの箱と零のマリア】でも、主人公とヒロインがお互いを救うために相容れぬ敵として争っていることを思うと、コチラの構図もぼんやりと浮かび上がってくる気がするんですよね。つまるところ、自分はそれだけエリカ様に期待を寄せている、ということなのかもしれません。

御影瑛路作品感想