一つの大陸の物語 (下) ~アリソンとヴィルとリリアとトレイズとメグとセロンとその他~ (電撃文庫)

【一つの大陸の物語 (下) ~アリソンとヴィルとリリアとトレイズとメグとセロンとその他~】 時雨沢恵一/黒星紅白 電撃文庫


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トラヴァス少佐を乗せた軍用機が突如爆発。制御を失ったその機体は、人里離れたルトニ河に墜落してしまう―。その頃ロクシェ首都では、消息を絶った少佐が麻薬犯罪に関与したという疑惑が持ち上がり、過剰とも思える証拠が次々と明らかになっていくのだった。一方、やんごとなき事情により長年勤めた空軍を追われることになってしまったアリソン。将来に絶望したリリアを新聞部メンバーが助けようとする中…アリソンは「わたし、再婚するんだ!」と陽気に語るのだった。しかも、相手は既に死んでしまったはずのあの人で―。胸躍る“彼らの物語”ここに完結。
ラスト、ラスト。最後は思い切ってアリソンとヴィルで良かったんじゃないか、と思うくらい【アリソン】に回帰して、そこから未来に広がっていくという徹頭徹尾二人がメインのお話でした。いやあ、懐かしい顔ぶれが出てきて、思わずこっちまで「ああっ!!」と声を上げそうになってしまったくらいで。
そうなんだよなあ、ずっと心の何処かには引っかかってたですよね。ヴィルが生きているということはアリソンは知っていたのだけれど、その他のヴィルと親しかった友人たちは知らずに死んだと思ってたはずなんですよね。あれだけ仲の良かった連中とも縁を断ってしまっていたのが、どこかで凝りになって残っていたのかもしれません。
だから、図らずも久闊を叙する展開になったのは嬉しかったなあ。偶然とはいえ、運命の女神様はほんと、粋なことをしやがりますよ。よりによってあの時あの瞬間にこんな再会を用意しているだなんて。
こう言っちゃなんだけれど、これまでどうしてもトラヴィス少佐とヴィルが微妙に重ならない感覚ってのがあったんですよね。立場や年月のせい、というのは解っているから仕方ないとは思っていたんだけれど、アリソンや女王夫婦がいつまでも相変わらずなのに比べて、ヴィルはトラヴィス少佐の皮をもう引き剥がせないほどぴっちりと着こなしてしまっているのがいささかなりとも寂しかったんですよ。それが、彼と顔を合わせた瞬間に、トラヴィス少佐の皮がスルリと脱げて、懐かしいヴィルの顔が簡単に現れてしまって……まるで長い間顔を合わせていなかったなんて事実がなかったかのような息のあったやり取りに、懐かしさやら嬉しさやらがこみあげてきて、なんだか胸が一杯になってしまいました。
アリソンのあのハイテンションも、いつもよりも浮かれてたように見えたのは、さて気のせいなんでしょうかねえ。
一方で、煽りを食ったのがリリアである。もう、ご愁傷様としか言えん。冷静に傍から見てあの母親の奇行は頭がおかしくなったとしか思えんもんなあ。なんだかんだとタフなリリアがあれだけ参ってるのを見ると苦笑いが浮かんできてしまいます。トレイズ、横でアワアワ言ってないでなんかフォローしなさいよ。真実を知っている分二の足を踏んでしまったんでしょうけれど、好いた相手があれだけ弱ってるんだから、なんとかしてやらなきゃ。こういう時に男を上げておかないと。影でいくらキメてたって、見てもらえないと評価されんですよー。

しかし、前回アリソンがしたり顔で呟いたセリフがセリフであり、きな臭い展開も相まってトラヴィス少佐ってば自ら姿を隠したのか? とも微妙に疑ってしまったのですが、さすがに此処に至ってアリソンに内緒で事は進めんよなあ。というわけで、下巻はトラヴィス少佐行方不明の真相から。かなりハード路線でこのシリーズが牧歌的なノリとは裏腹に相当に黒い謀略戦が飛び交ってる作品なのだというのを改めて思い知った次第。こういう世界だからこそ、ヴィルもわざわざ悩んだ挙句に飛び込むことにしたんだったよなあ。
とはいえ、虫は勘弁して下さい。気を同じくして虫食なネタが同時期にあっちこっちから襲いかかってきて、こちとら頭を抱えて戦々恐々ですよ。ついにはユネスコまで虫を食べようぜ、なんて言い出すし。いいんですよ? いいんです、好きな人はどうぞどうぞ。でも、自分は勘弁して下さい。
話がよれましたが、前半のトラヴィス少佐の生き残りをかけた戦いは、虫を食べるなんてそれこそどうでもいいと思わされるくらい厳しいもので、どうせ助かるんだろ、なんて楽観的な気分にもなれずハラハラしっぱなしでした。だからこそ、あの再会は強力だったんですよね。
もっとも、そんな再会を蹴飛ばすように勇んで飛び込んできたママさんも居ましたけれど。この人のバイタリティは何歳になっても変わらんねーー!! ほんと、変わらんねー!!
それから、あれよあれよという間に、アリソンは飛行機を勝手に飛ばした罪で不名誉除隊になり、その勢いをかるように何故かアリソンが謎の人物と結婚式を上げるという自体になり、リリアは目を回して頭を抱えるはめに。ほんとにご愁傷様です、超頑張れ。
こっから、また懐かしい面々が集まってきて、ヴィルヘルム復活のサプライズも相まっていやあもう、このイタズラまがいの謀略戦にはニヤニヤしっぱなしでしたよ。ついに、アリソンパパもおじいちゃんと名乗れたわけで、少将も最後に報われたなあ。というか、この人の場合はリリアにおじいちゃんと呼んでもらえるのを狙って今回頑張ったようにしか見えんw
喪われたはずのヴィルヘルムが戻ってきて、全ては丸く収まってハッピーハッピーエンディング。元に戻って取り戻して、そっから改めて先に。遥か希望に満ちた平和な未来に。これを大団円と言わずしてなんという。すなわち、目出度し目出度し。
もっともっと浸っていたい、長い付き合いとなったシリーズですけれど、これで満了完結。お疲れ様でした。
さて、この調子だとリリアとトレイズの娘が生まれる前に、リリアの妹でも生まれそうだな。

時雨沢恵一作品感想