うちのメイドは不定形 2 (スマッシュ文庫)

【うちのメイドは不定形 2】 静川龍宗:森瀬繚/文倉十 スマッシュ文庫

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「もっともっと美味しいごはんを作ってさしあげますからね! 」
優しくて献身的で家事万能、だけど人外。不定形のメイドさん、テケリさんが新井沢(あらいざわ)トオルのもとにやってきてから一ヶ月ほど経った。魔術師を名乗る級友のあさひ・ピーバディとその使い魔バロールは、五月の事件後も彼らの家に入りびたり、ほとんど居候状態。あさひはテケリさんと、トオルはバロールとそれぞれ交流を深め、クラスメイトを自宅に招待したりと、楽しくもウィアード(奇妙)な感じの日々が続いていた。
そんな日常を、一本の電話が大きく揺るがせた──『お前の家、見張られてるぞ』。意外な人物の到来と、一方的に告げられた突然の別れにトオルが叫ぶ時、とっておきの魔女の切り札、ピーバディ家第二の遺産が<出撃>する! 語られなかった数多くの謎が解き明かされていく中、長らく続きが待ち望まれてきた不定形メイドとご主人様の物語が今、改めて開幕!
……なにこれ、すんごい面白いんですけど!
前巻はあまりにもテケリさんの可愛らしさが尋常ではなかったので、期間があいてついついそっちの印象ばかりが焼き付いてしまっていたんだけれど、やっぱこれ単にテケリさんを愛でるだけの作品じゃありませんわ。基礎的な部分のスペックが無茶苦茶高い。ほんわか日常、テレッテレなラブコメ、ドライブ感タップリのアクション、陰惨でドロリと滴るようなダークさが垣間見えるオカルトサイド、不気味で得体のしれない薄ら寒さを感じさせるクトゥルーもの。これらの要素が見事にブレンドされて濃厚に味わえる。読み終えた時の充実感、満腹感はちょっとパないです。一巻の段階でも相当にレベル高かったと思ってたんですけれど、二巻で本格的にあさひがバロールとこっちサイドに加わったことで、完全に結実した感があります。いや、第一巻でこうしてみると見事にプロローグだった、という他ないですよ、これ。
重ねてイイますけれど、あさひの本格加入が実に大きい。彼女が何気に、トオルとはまた違ったテケリさんのご主人様として大きく機能してるんですよね。厳密には居候でお客様ではあるんですけれど、事実上家族の一員みたいになって、テケリさんとも心を許しあった関係になったことから、あさひの女主人としてのポテンシャルが見事に開花してるんですよね。あさひのアプローチがまたテケリさんに違う輝きを与えてるんだなあ、これが。
何気に心地いいのが、登場人物同士のインテリジェンスに富んだコミュニケーション。なんか、何も考えてないような頭の悪い会話が無いんですよね。そういうの、別に嫌いではないんですけれど、こんな風に思索と知性を丹念に織り交ぜたキャッチボールを、構えず気楽にポンポンと投げあう軽快さは、ほんと見てても気持ちいいんですよ。あさひとトオルのそれなんか、特に反応が敏感で会話が進めば進むほど喋っている会話の内容とは別に、お互いの人間性への理解が深化していくさまが垣間見えるようで、変にイチャイチャしているよりもエロく思えてくるくらい。知的な会話の応酬って、どうも相手の深い部分を弄り合うようなところがあって、それが噛み合えば噛み合うほど快楽を貪り合ってるような雰囲気すら感じるんですよね。
その上で、トオルがあれで結構あさひに気を使っているというか、特別扱いしている、自分の中で特別な存在として大切にしている節が随所に垣間見えるものだから、読んでてもなんだかドキドキしてくるんですよね。そうした彼の扱いというのは、勿論あさひも敏感に感じ取っていて、満更でもなさそうだったのが段々あてられたみたいに彼女の方もあたふたしはじめる様子がもう可愛くて可愛くて。
基本的に自立し孤高を旨とした、冷徹でウィットに富んだ合理的な女性だからこそ、感情的に揺れ動いたり、自己保身を顧みない一途さを見せたりすると、威力がとんでもないことになるのです。
テケリさんが純真無垢な天然の輝きを放つ可愛らしさだとするならば、あさひのそれは丹念に磨き上げられた機能美的な可愛らしさの極地だなあ、と思わず何度も首肯してしまうような素晴らしいお話でした。
あさひの過去もそうなんだけれど、これって何気にバックグラウンドが相当に暗いっつーか黒いっつーか。ちょっと気を抜いて緩んでたら手痛いダメージくらいそうな気配がビンビンと漂ってきたので、いい意味で緊張感を感じる展開になってきました。だいたい、主人公からしてこれテケリさん関係なくかなりヤバい秘密を抱えているみたいだし。この子、もしかして本格的に壊れてるというか、破綻してるんじゃないのか?
どうやらキーワードは「家族」という関係のようで。母親が与えてくれた示唆からすると、むしろ関係がより深まるほどドツボに嵌りかねない危険性が窺い知れる。もう半ば擬似家族的な関係になっているテケリさんとあさひだけれど、家族のなることの危うさが指摘されたとなると、むしろテケリさん、そしてあさひとの関係はより積極的に近づいていく事になりそうな予感。この二巻を読む前は、テケリさんはともかくとして、あさひはもっと適度に距離を保つ関係になると思ってたので、この急接近は嬉しい悲鳴だなあ。どうもこの段階ですでに、二人ともお互いのために命を消費するに躊躇もなく、しても全く後悔しないだけの情が絡まっているようですし。そして、何気に実際に二人とも自分の命を消費する手段を有していているのがたちが悪い。いや、実にたちが悪くて素晴らしい。
どうやらこのシリーズ、短くまとまるものではなく、それなりに大きな物語になっているようで全五部構成。しかも一部が一巻ではなく、この二巻で第一部の真ん中らへん、というのだからいやはや、これは思いの外長く楽しめそうじゃないですか。嬉しいなっ、嬉しいなっ。
さすがにこうなると次の巻が出るまでまた何年も待たされるということはないでしょうし、年に三冊くらい、せめて年内にもう一冊出てくれたら嬉しいなあ、などと期待したり。
長らく待たされたものの、これだけ面白ければ十分です。期待していた範囲を大きく上回る、滅茶苦茶面白いお話でした。テケリさんもあさひも可愛いよっ!!

1巻感想