剣刻の銀乙女3 (一迅社文庫)

【剣刻の銀乙女<ユングフラウ>3】 手島史詞/八坂ミナト 一迅社文庫

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魔力の大半を失い、どこかいつもと違うエステルのことを気遣うヒースたち。国境沿いに巨大な刻魔が現れたとの急報を受け、ルチルたち小隊はその討伐へ向かうのだが、その途上で隣国プレギエーラの使者が従刻魔たちに襲われていたのを助ける。まだ15歳の使者の名はシルヴィア。ヒースと師を同じくする妹弟子だというシルヴィアはエストレリャの王都へと向かっている途中だったという。はぐれた仲間を探したいしと助力を申し出るシルヴィアを加えた一行だが、想像を超えた力を持つ刻魔に予想外の苦戦をしいられる。そんなさなか、シルヴィアの前にヒースたちの宿敵クラウンが現れ、彼女の心をかき乱す事実を告げる。ヒースたちは刻魔を討伐することができるのか、そして力を失い傷ついたエステルは―。シリーズ待望の第三弾。
あれ? 師匠ってそうだったの!? どっかで情報でてましたっけ。てっきり渋いおっさんを想像していたので、このヒースのお師匠様の情報には驚かされた。これ、だとすると思っていたよりも相当に厄介な人なんじゃないか。現れたらさんざん引っ掻き回されそうな予感がする。
まあ、出ていない人を今から危惧しても仕方ないので、今いる人から心配すると……ルチル姫がなんか変なふうに悟ってるーー!? あかん、エステルに悪い影響を受けてしまってる。常識とか価値観が変な方向にズレちゃってます、それって。てっきり、ルチルがエステルを教育する方向に流れるのかと思ってたら、逆に感化されてましたって、大丈夫なのか!? お姫様なのに、良識面については若干焦点がぐるぐる回りだしてる気がするぞ。
しかし、視点を変えてみるとそうしたルチルの変化は精神面の不安定さを解消し、誰が敵か、そもそも味方ですら一瞬後に後ろから襲いかかって来かねない恐ろしい状況下にあっても揺るがず対処出来るだけの拠り所を見つけた、という意味でもあり、決して悪いことじゃあないんだが。前回までの疲弊っぷりがかなり酷かっただけに、多少おかしくなってもルチルが安定してくれたのは見ていて大いに安心できる材料になっている。こうして見ると、やはりパーティーのリーダー格はルチル姫なんだなあと実感出来ますね。エステルやヒースも欠かせない要であることは間違いないんですが、ルチルの頼りになる感はやはり桁違いのものがある。
さて、そんなルチルと交代するように、やや元の元気の良さを欠落させる面が垣間見えるようになったのがエステル。リーダーがルチルだとすれば、ムードメーカーは間違いなくこの娘なので、エステルが元気がないと明るさが損なわれてしまうという点で、彼女もまたもう欠かせない一員なんだなあ。
魔王候補であるエステルが力ではなく笑顔をもって制する道化師を志すようになった出来事を、改めて詳しく。彼女にとってのパラダイムシフトだったそれは、しかし魔王としての力を否定するものでもなく、力の大半を奪われ喪ってしまったことで、彼女にも考え事が増えたようで……。力に頼らず、しかし力を否定するでもなく、現状が筆舌しがたい悪意の混沌の中にある以上、理想を実現するために何が必要か、というのは難しい問題だわなあ。もっとも、エステルはあれで潔癖とは程遠い現実主義者でもあるので、力でねじ伏せる事にあんまり躊躇いもないんですよね。まあだカラこそ力がなくなったことに色々と思い巡らす事もあったんだろうけれど、そのあたりのさっぱりした割り切りは、なかなか頼もしかったりする。少なくとも、彼女については状態がどうあろうと果断であり足を引っ張るような真似はしませんからね。
割り切り、切り替えの速さという意味ではヒースもかなり実戦向きというか、普段はなよなよしているくせに肝心なときには即断即決でウジウジと悩まない、その上で考えなしではなく早い判断の中で十分思慮を巡らしているので、このパーティーは若さのわりに脆さがなく強靭なんですよね。今回、特にバタバタとして次々に想定外の展開が襲ってくる展開だったからこそ、余計にその辺りが引き立って見えた気がします。クラウンなんてたちの悪い謀略家が相手な以上、勢いだけが取り柄なチームでは良いように手玉に取られてしまうだけなので、この臨機応変な柔軟性と相手の手を早めに潰していける速攻性を持つこのパーティーは、ホント頼もしいです。
シルヴィアの持つ剣刻の能力は、あれで攻撃支援としてはかなり強力ですし、立場上もけっこうイイカードを持っているので、その参入はだいぶプラスなんだろうなあ。何だかんだと信頼出来る味方が増えるというのは、今の状況では宝石の価値がありますし。

しかし、剣刻の元来の持ち主、もうルチルを含めてそんなわずかしか残ってないのか。逆に、それだけの惨状で生き残っているというのは、特別な理由でもあるのか。次回、その円卓騎士に会いに行くようなので、ヤバい人物だったらそれはそれで面白そうなんだけれど……。

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