つきツキ! 11 (MF文庫J)

【つきツキ! 11】 後藤祐迅/梱枝りこ MF文庫J

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「―ここに戻ってくることは、もう二度とないと思う」マキナが生徒会長に就任し、人間界に残ることを決意してくれたことにほっとしていた矢先、エルニがオレにそう告げてきた。今度こそ本当の家族としてエルニに家にいてもらえるよう、オレたちはみんなでゲーム大会をしたり、クリスマスパーティを計画したりと、いつもの温かく楽しい日常を過ごす。しかし、エルニの決意は固く「家族にはなれない」という気持ちはあの時から変わらないままで…。学園ハートフルラブコメ第十一弾!笑顔には翳りが、日常には不安が…「神」と呼ばれる少女の過去の記憶が明かされる―。
神よ、さらば。
ベタはベタなんだが、オジサン涙腺弱いんですよ。今回はむしろ、当事者であるエルニや忍よりもその周りの人達の動向にこそうるうると来てしまいました。特に、記憶を封印されたあともなお、ひっくり返してしまったスープ皿の中身を虚しくかき集めようとするかのように、記憶の残滓に取りすがる巴母さんをはじめとした家族の姿には、もうピテカントロプス。いや、錯乱してわけのわからないことをほざいてしまいましたが、そんな感じだったのです(どんな感じだ)。
これも二桁巻数まで続いたシリーズだからこその威力なんでしょうね。ぽっと出の関係とは蓄積が違うんですよ。この作品は特に忍を介さずとも一人ひとりが親密な関係をゆっくり築いていった上で、今の家族関係が出来上がっていましたからね。さらに、エルニは忍とは別の形で常にみなのフォローに当たっていた、言うなれば裏側の中心人物。それだけに、各人への影響力は半端ないものがあって、だからこそそれが抜け落ちた時の欠落感は尋常じゃないものでした。
自称・神。事実、役割として神という存在を担った彼女は、だけれど今となっては神としての力は何も残しておらず、ただ見送る者として世が流れていくさまを一人取り残されて眺めるままの存在でした。寂しい上に、なんという無力で儚い存在でしょう。その上ホームレス。無職で住所不定で橋の下は住みやすいですが信条の美少女神。実録・荒川アンダーザブリッジ。
誰か、この神に社を建ててあげてください(涙
いやでも、事実として忍がエルニに誓ったことって、見方を変えるとエルニを自らの血族が代々祀って行くことを約束し、その代わり見守ってくださいとお願いしたようなもの、と見ることも出来るんですよね。勿論、神と人とで線を引いた関係ではなく、家族として、ではありますけれど、でも一族を守護する神を得た、とも言えるわけで。
この神様、権能の類こそありませんけれど、そのご利益はピカイチです。神としての特別な力など無くても、その言葉と想いで幾人もの迷える人の子らに道を示し、自らを助けるを支えてきたのですから。幼げな風貌はむしろ妹風味にも関わらず、年長組から年少組まで幅広く慕われ敬愛されている南条家の次女役、お姉さん役というのも伊達じゃあありません。
今回は全編通じてシリアス調でしたけれど、シリーズ通してずっと引っかかる部分であったエルニの正体とその距離感を精算する、ある意味シリーズにとっての精算でもあったお話だったので、これも良かったんじゃないでしょうか。これで憂い目も晴れて、もう一度底抜けに明るい雰囲気を取り戻してくれれば、と思う所でありますけれど。

シリーズ感想