ノノメメ、ハートブレイク (ガガガ文庫)

【ノノメメ、ハートブレイク】 近村英一/竜徹 ガガガ文庫

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必ずフラれる運命にある少年の暴走する恋
神々によって女の子にフラれ続ける運命を背負わされた少年・東雲芽吹。誰にどんなに恋焦がれようとも、彼の恋は決して成就することはないのだが――。「そんな運命、否定してやる!」と、天の国の少女・天王洲君を巻き込んで、彼は今日も元気に一目惚れ! 廃部寸前の弱小野球部のマネージャー、近づく人間に不幸を降りかからせる女の子、漫才師を目指すもわけあって相方のなり手がいない先輩。惚れた少女たちのために一肌脱いで、突っ走って、傷ついて……、それでも彼は恋をする。第7回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作。
他人の不幸は蜜の味。しかし、その不幸とは具体的に何なんでしょうね。客観的に見て不幸だと認識される事象が起こることを観測することに甘美さを感じるのか、はたまたその客観的に見て不幸とされる出来事が起こることによって苦しむ当事者を見て楽しむことを、蜜の味と称するのか。
本来ならそれは後者を指していると思うのですけれど、神々が採取する不幸によって発生する「ミツ」は、どうやら前者のご様子で。何故ならば、この主人公の芽吹は自分の境遇を決して、どころか全く端っから不幸だとは感じていないのですから。
尤も、客観的に見ても現状それほど「女性にフラれ続ける運命」とやらは、不幸にも見えないんですけどね。というのも、今回芽吹は三人の少女に告白して見事に玉砕しているのですけれど、決して嫌われたわけじゃないんですよね。嫌われ拒絶されフラれるのはとても辛いことだけれど、アナタの事なんて好きじゃないから、と否定されるのはとてもとても辛いことだけれど、芽吹のフラれ方はそのいずれでもなく、むしろ好かれてはいるけれど、お付き合いできませんごめんない、と丁寧にお断りされたものばかり。そして、これが全身全霊命を賭けた恋ならば、破れた恋は悲しいものだけれど、芽吹には恋への熱情はあってもそれほど執着は見られない。お断りされたあと、あっさりと立ち直っている事からも、彼にとって本気で真剣ではあってもこれらの恋は深刻ではなかったことが伺える。その断られ方が皆柔らかかったら尚更だ。
むしろ、深刻に受け止めてしまっているのは天王洲君の方だろう。誰が本当に不幸かと問うならば、彼女がノノメメと呼ぶ東雲芽吹と関わってしまった優しい女神様ご当人のようである。全くこの女神さまと来たら素直ではなく、内心を滅多にひけらかさないのだけれど、神々によって不幸を運命づけられた相手の幸福を神である彼女が願わざるをえないというのは、随分とひねくれたお話じゃあありませんか。そして、面白いのはその切なる敵わぬはずの願いを叶えようとしている人こそ、その当事者である芽吹その人であるということでしょう。
コイツは馬鹿なので、果たしてどこまで自覚してやっているかは定かではないのですが、視点をズラしてみてみると、彼の行動原理は概ね全て天王洲君の為にやってるんじゃないか、なんてうがった見方さえ出来てしまうくらい、偏って吹っ切れているんですよね。
女性にフラれ続ける運命は、その対象を人間に限定せずに神様相手でも厳密に対応してしまうようだけれど、フラれるって厳密にはどういう意味なんでしょうね。告白してフラれても一緒に居てもいいですか? 告白してフラれても、気持ちが通じあっていいですか? ルールなんて曖昧なもので、それこそ告白しなければフラれない、なんて考え方だってあるでしょう。なので、芽吹と天王洲君がずっとずっと居ることに何の支障がありましょうか。お互いの幸福を願い、その為にお互いに尽力し、その結果自分も幸せになれる男と女の関係。そこに名前をつけるとしたら……。
さてさて、不幸なんかよりもずっと甘くて酸っぱい蜜の味、なんてものもこの際ありなんじゃないですか、ねえ神様。