俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない 12】 伏見つかさ/かんざきひろ 電撃文庫

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“人生相談”から始まった兄妹の物語もついにフィナーレ!

やれやれ……俺が長々と語ってきたこの物語にも、そろそろ終わりが見えてきたようだ。まあんなこと言っても、物語ってのはたいがいラスト付近が一番キツいもんで、俺の高校生活最後の数ヶ月は、そりゃもう大変なことになる。まさしくクライマックスってやつだ。そんなの、平穏を愛する俺の人生にはいらねーのにな。けど、まあ、やってみるさ。地に足つけない、嵐のような人生も、なってみりゃあ面白い。手ぇ抜くのはもったいないし――俺が始めた物語には、俺自身がケリを付けるべきだろう。 
 ……ここまで付き合ってくれて、ありがとうな。


書き終えてから、初っ端からネタバレ全開だったのを自覚しまして、一応伏せます。一応ね。これ、記事に直接アクセスしたら、全部見えちゃうからあまり意味が無いのですけれど、それでもまあ一応。








まあまあまあ、無理だよ無理だよご両人。一線というものは一度踏み越えてしまったなら、もうおしまいなのです。一度やってしまったなら、二度目からはもう心理的ハードルはあってなきが如しになってしまう。一度外れた箍ははめ直せない、ガタついた外れやすいものになってしまうのだ。ましてや、お互いにまだ二十歳にもならない若造同士、一度体験してしまったものを、際限なく解放してしまったものを、今更なかったことになど出来るものか、我慢なぞ出来るものか。だから禁忌なのだ。だからこそ、禁忌なのだ。禁忌とは、かほどに甘いものなのだ。
その意味では、彼らの見通しは非常に甘いモノだといってイイ。約束なんてものは、得てして形骸化するものなのだ。彼らは良い意味でも悪い意味でも勢い任せでどこまでも突っ走れる人間だ。彼らが本気になれば、どんな困難でも克服できるだろうし、誰にもできないことでも成し遂げてしまえるだろう。でも、そんな行動によって物事を動かす人たちだからこそ、何もしない、無かったことにするという停止方向への忍従にはあまり向いていない気がする。彼らにとって、あの約束は自分たちの気持ちと現実とを精一杯擦り合わせた産物だったのだろうけれど、現実に対する妥協、つまり罪悪感なる感性は実のところ継続して維持できるものではない。今感じているその感性は、時間が経過するに連れて徐々に慣れて摩耗してくる。後ろめたさというのは、慣れて薄れていくものなのだ。そうしているうちに、徐々にハードルは下がっていく。これくらいならいいか、これぐらいなら大丈夫、と。当人たちとしては形としては約束を守っているつもりでいるのだ、だからこそたちが悪い。
気がつけばズブズブだ。もう後戻りできないところまで進んでしまっている。
現に、既にその傾向は出てきてしまっている。
「兄妹なんだから別にいいだろ?」
魔法の言葉である。ちょっと前まで、その言葉は正反対の位置に浮かんでいたはずなのだ。「兄妹なんだからダメなんだよ?」、と。それが今や、「兄妹なんだから別にいいだろ?」である。
魔法の言葉である。「兄妹なんだから別にいいだろ?」と言えば、なんだって兄妹間のスキンシップで収まってしまう。手をつなぐのも、腕を組むのも、デートするのも、同じ布団の中で寝てみるのも、まあ兄妹なんだからいいじゃない。時々キスするのも、兄妹なんだからいいじゃない。ぎゅっとハグするのだって、兄妹なんだからいいじゃない。兄妹なんだから、まあたまには一緒にお風呂に入っているするのもありなんじゃない? 兄妹なんだから、裸でじゃれあっても別に問題なんかないでしょう? 兄妹なんだから、兄妹なんだから、兄妹なんだから。
魔法の言葉である。そんな言葉を口にするだけで、兄と妹という男女はどこ迄だって行けるのだ。本当に、どこ迄だって行けるのだ。どこ迄も行けるのに、どうしてそこに留まれる? 我慢出来る? 後ろを省みる事ができる?
作中でも語られる実妹モノのエロゲーの多くは、まさにこの段階から足を踏み外して転げ落ちていくものなのだと、まさか知らないわけではあるまいに、妹よ。
しかし、行き着く果てに立ち塞がるのは、当人たちも承知していてその為に後戻りしようとしている、厳しい現実様である。
ところで、ご存知だろうか。ライトノベルの先達の中に、この厳しい現実を前にして完全勝利してみせたヒロインが居たことを。彼女は妹ではなく姉ではあったが、恐るべきことに弟との関係を両親に知られそりゃもう筆舌しがたい修羅場になり(肉体関係に及んでいるその時を、帰宅した両親に見られるというそれはもう筆舌しがたい……)、弟との関係を引き裂かれたにも関わらず、最終的に社会的地位を保ったまま偽装の夫を手に入れ、弟の子を授かった挙句に、影で弟との関係を続けるというアクロバットを成し遂げ、文句のつけようのない完全勝利を達成してみせたのだ。あれは、今なおライトノベル史における燦然と輝く実姉エンドだと思ってる、うん。
さて、そんな先達に見習うとすると、何気に此方も味方と勝利条件はそこそこ揃っていることに気付かされる。兄妹の恋愛に理解があり二人と親しくかつ現実の女性に欠片も興味のない社会的地位のある男の友人に、むしろ兄妹の関係を主導していた節すらある共犯者あるいは主犯になりそうな兄の元カノ。頼み込めば、諸々の状況を整えてくれて支援を惜しまないでくれるであろうグリグリ眼鏡。
もし、本当に本気で望むのなら、事実を偽装したまま最後の最後まで逃げ切れる可能性は無くはない、といったところだろう。幼馴染が見逃してくれるか、はたまたあの勘の鋭い母に気づかれないか、など実現を妨げる要素は勿論いくらでもあるのだけれど……結局のところ、幸せになれるかなれないかは別問題で、やっぱり無理だと思うよ。無かったことにするのは。
そんな風に済ませられるほど、衝動任せの恋じゃないんだから。いろんな体験と経験と事実と気持ちと想いを積み重ねた上で、ようやく叶って結ばれた想いなんだから。
それが、理性によって蓋をされて眠りにつくなんて、とてもじゃないけれど信じられない。
まあでも、この作品がそこまで逸脱できるかはそれはそれで疑わしくもあるけれど。京介も桐乃もなりふり構わないところはあるけれど、その行為はいつだって実直であって、偽装夫婦を仕立ててまで関係にしがみつこうとするなりふり構わなさとは、醜かろうと卑しかろうと汚い真似をしようと大切な人たちを裏切る形になっても、それでもなおなりふり構わず、というタイプではないから。
でも、禁忌を犯してなお捨てられないものがあるならば、本当の意味でなりふり構わなくなる他無い。皆が幸せになるために、多くを偽る、それが、出来るか否か。
BDの特典小説で十年後が描かれるみたいだけれど、突き抜けた過激な内容になるかはたまた無難でお茶を濁したような内容になるか、後者かなと思わないでもないけれど、実際に最終巻で一時とはいえこっちにサイドに外れて突っ走ってしまった勢いを思うと前者も決して否定は出来ないんですよね。こればっかりは、実際に見てみないとわからない。

さて、ご覧のように本編はまさかの(?)桐乃エンドとなったわけで相成りますが……これって、黒猫にとってはどこまで想定の範囲内だったんだろう。彼女が京介に別れを切り出した理由というのは明確には明かされてないのだけれど、概ね京介と桐乃の両取りを目論んだというところで合っていると思うのだが、カノジョの場合麻奈実と違ってあんまり自分が報われることは考えてなかった節もあるんですよね。理想としては京介と桐乃の総取りだったのだろうけれど、同時に京介に告げられた時の黒猫の反応を見ていると、半ばフラれる事は覚悟していた節が伺える。馬鹿な娘である、余計なことをしなければ想い人はまず間違いなく今も彼女の隣に居て、彼女を唯一として生涯寄り添い続けてくれた可能性も高かっただろうに。それでも、この娘は親友とその兄が本当の気持ちを通じ合わせる事を選んだのだ。この娘こそが、献身の徒であろう。
だからこそ、彼女には一番報われて欲しいと願ってしまう。京介は、あの馬鹿は妹に操を立てていくつもりみたいだけれど。
ああもう、こいつは、京介は本当に馬鹿だよなあ。桐乃との約束のことを考えたら、別に黒猫だけじゃなくてみんなにあんなふうにキッパリフって回る必要なんて何処にもないのに。本当に普通の兄妹に戻るつもりなら、その後だれとどう付き合おうと関係ないのに。わざわざ関係を清算して回るなんて。あやせなんて、あれ本当にチョロいぞ。黒猫とかわりと身持ちが堅いのに比べて、あれは何だかんだと全部許してくれるタイプだぞ。櫻井なんて、初っ端からお布団デートだぞ。ばっかだなあ。勿体無い、なんて勿体無い。
一番もったいなかったのは、加奈子だったかもしれませんけれど。あれは告白といいフラれたあとの背筋の伸ばし方といい、素晴らしくカッコいい女だったよなあ。
で、この中で一番大失敗をやらかしてしまったのが、麻奈実なのでしょう。まあしゃあないよな、あれだけ京介を自分の都合の良い男にしようとあれこれ下拵えから何年もかけて仕込んだ事に安心してしまって、余裕かましてたら全部ぶっ壊されてしまったんだから。やっぱりやり方が陰険だったと私は思いますよ、この娘は。健気で献身的に見えて、何気に一番自分の為に動いてたのが彼女だったように見えます。それが悪いってわけじゃないですけれど、こうなってみると京介とは案外相性よくなかったのかもしれないなあ。だからこそ、あれだけ型にはめて抑えこもうとしていたとも言えるのですけれど、そのあたりの執念は凄いなあ、と。この娘が高校卒業したあとえらい垢抜けてしまう、というお話は今となってはえらく納得出来ます。女郎蜘蛛じゃねえですけど、女として一番タフで、天性の男殺しはこの娘なんでしょう。あやせがお姉さまと慕うはずです。桐乃があれで努力型だったのに対して、実は地味子の方が天才肌だったんじゃないだろうか、これ。
まあなんちゅうか、将来的に一番家庭的とは程遠い道を颯爽と歩いて行きそうな気がします、麻奈実は。

さてさて、ここまで来ると、桐乃の発言の裏がだいたい透けて見えてくるので、どれだけデレてんだよ、この妹は、と思わず苦笑してしまうほどだったのですが、最後の最後には一度くらい、桐乃サイドからこの物語の結末を覗いてみたい気持ちは残りましたね。結局、京介視点に徹底していたので、桐乃をはじめとした他の娘たちが内心何をどう思っているのか、というのは京介の主観混じりで実際のところはぼやけたままでしたからね。実は京介、結構思い違いしてたりとか勘違いしてたりとか変に思い込んでて実際とズレたりしてる部分、ありそうなんだよなあ。9巻の短篇集では京介以外の視点で物語が進行することで、かなり印象が大転換される事が結構ありましたし。そういった錯誤のすり合わせは、ちょいと指を咥えたままになりそうです。
しかしまあ、改めて振り返ってみると、もっともエキセントリックで尖ったエンドを迎えたようで、全体の物語のバランスというか落とし所を考えると、この桐乃エンドの形が一番無難であったのも確かなんですよね。一番はっちゃけたのが一番無難だった、というのは面白いところですけれど、まあどこをどう絞り尽くしても、ここが最大公約数だよなあ。公約数とか言葉が浮かんできてしまう時点で、やっぱり無難ということなんでしょうけれど。
それでも、きっちり全部にかたをつけて卒業をキリとして綺麗に幕を引いて見せたのは、全くもってお見事でした。中途半端無く、ほんと全部きれいに片付けたもんなあ。あまりに綺麗すぎて、冗談じゃないそんな風に収まるかっ、と思わず鼻息を荒くしてしまった結果が、冒頭からの力説だったわけですが(苦笑
うん、こうして記事を書いていると物語のシメに対して大きな納得が得られたにも関わらず、どこか微妙にスッキリしないなあ、と思っている自分を認識できてよかった。で、何がスッキリしないと思っているのかは、だから多分冒頭に書いた、約束なんて擦り切れるよ、ということなのでしょう。だから、終わった風を装っていても実際本番はここからじゃん、という気持ちがあるんだわ。黒猫派である自分でしたが、むしろ桐乃エンドはどんと来いという構えだったので、この展開は大いにアリだと思ってたんですが、だからこそ二人の最後の決断には、妥協しやがって、という気持ちが浮かんだんだと思う。落とし所に落とすのは、やっぱり無難なんですよね。そして、無難というのは悪くないにしても、どこか面白みに欠けることは否めない。だから、綺麗に幕を引きながらもその綺麗さ故にモヤっとしてしまったんでしょうな、自分。
こっから先は、ラブコメじゃないんですよね、きっと。ここから先をやるとしたら、妥協も逃避も許されない真剣勝負のラブストーリーになるのでしょう。それこそ、いろんな人が傷ついて傷ついて血と涙でどろどろになってしまうような。だからこそ、ここからが本番で、だからこそここで綺麗に幕引きなのでしょう。もったいなくも納得で、靄が残るにしてもこれがベストである事に疑いを見いだせない、最大公約数のハッピーエンド。
これに何らかの気持ちの整理をつけるには、やはり十年後のエピソードを読まないことにはどうにもなりそうにありませんね。その意味では、出来ればその十年後はこの最終巻のエピローグに付けて欲しかったなあ。

ともあれ、ほんとお疲れ様でした。一巻であれだけ完璧に一冊で完成させた物語を、よくまあこれだけ膨らませ、初期かなり迷走しかけたのを立て直し、方向性を一巻のそれから大幅に転換したにも関わらずこれだけ読み応えのあるラブコメに仕立て上げ、こうやって完成させたのですから、ハッキリ言って凄いです。とんでもねーです、やっちまったな、てなもんです。こうなっちゃー、もう生半なものは以降も書けませんよ? 期待値は際限なくなってしまいましたからね。
じゃあ、改めて……【十三番目のアリス】の続き、お願いしやっす♪

伏見つかさ作品感想