聖剣の姫と神盟騎士団 II (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 2】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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ダークとフィーネによる“二代目”聖剣団の活躍で、つかの間の平和を取り戻したラグナの谷。しかし、水面下ではカーラーン軍の新たな刺客が谷に潜入し、密かに活動を開始していた。ダークが偶然知ってしまったその驚くべき作戦とは!?時を同じくして、フィーネの耳に初代聖剣団メンバーの“竜殺し”ラッセルが谷に戻るという知らせが入る。だが、帰還したラッセルの周りには夥しい数のカーラーン兵がいた―!?
フィーネ、こっそり影で自分が名乗る字名を自分で色々と考えてた、って完全にお子様!!
この娘、思ってたよりもアホの子だ!!

コメディタッチになって従来とはだいぶ方向性が変わったな、と思った本作だけれど、やっぱりというか何というか、主人公が孤独なのは変わらないんだなあ。結局なかなかダークとフィーネが腹を割って本音で話せない関係のままなんですよね。主人公とヒロインだし、ダークはフィーネにとって殆ど唯一の味方ですし、何より別れ別れにならずおんなじ場所にいるにも関わらず、微妙に気持ちが通じ合ってないんですよね、この二人。
本来なら一番最初に心を通じ合わせるべき主人公とヒロインが、一緒の場所に立っているようで一貫して断裂している。
個人的には小悪党で今まで他人に心を許さず隙間をコソコソ這いずりまわって生きてきたダークに、心を開いて歩み寄るというのは酷な話だから、一途で生真面目なフィーネの方から内面に踏み込んでくるのかなあ、と思ってたんですよ。前作のビリーナ王女は常にオルバのことに想いを馳せながらもなかなか一緒に行動できないためにお互いに踏み込む機会がなかったんですけれど、此方は同じラグナの谷で活動しているわけですからね、機会は幾らでもあるのですから。
ところが!
このフィーネがビリーナと違ってあんまり深く物事を考えない娘だったわけです。ちょっと思い込みが強すぎるというか、脳内がお花畑というか、イメージ優先でわりと現実を直視しないところのある残念な娘なんだよなあ。だからか、ダークに対しても彼はこういう人間だ、というイメージを無邪気に作り上げて勝手に作り上げてその人物像を信じこんじゃっている、その上でダークを信じちゃってるんですね。
純心だけれどアホの娘なのです。
だから、本当の意味でダークの内面には踏み込んできていないし、そもそもそういう発想が生まれていない。
これじゃあ、気持ちが通じ合う関係なんてまだまだ構築できるはずもありません。
でもですね、でもですよ……それでも、彼女がダークを仲間として信じていることは事実であり真実ではあるのです。それが、ダークにとっては「とてつもない」事なのでしょう。気持ちが繋がっていなくても、その一点からはじまってダークの心を掴み始めている。それが最初の、彼と彼女の繋がりなのでしょう。
フィーネがいわゆるアホの娘で、自分を信じるのにちゃんと自分がどんな人間かも知らないでいるという事をダークは理解していても、それでも何の根拠もなく自分の事を信じてくれている相手というのは、彼にとってはもうなんかどうしようもないんだろうなあ。

前回はそれでもなし崩しでやらなきゃならなかったから、勢い任せに悪知恵を働かせて乗り切ってしまいましたが、今回は考えこんでしまう時間の余裕が出来てしまった為か、葛藤と自問自答を繰り返すシーンが多かった気がします。彼の小悪党の本質として、これまではややこしい場面に巻き込まれたらとっとと尻尾を巻いて逃げてしまったのでしょう。ところが、フィーネに施された剣の誓約によって、どうやったって逃げ出すことが叶わなくなった、つまりは退路がなくなったことでダークはこれまでになく真剣に、自分の身の振り方から何を規範にして生きていくか、フィーネを始めとする他人からの視線、関心、信望に対してどう向き合うかという事にちゃんと向きあわなければならなくなったわけだ。何しろ、逃げたら死んじゃうんですからね。なまじ知恵が回るものだから、彼はどういう状況においても軽快に逃げ出すことが出来てしまったために、真剣に物事に撃ちこむことがなかった。状況をその能力で打開しようという機会が訪れなかった、その真価は発揮される場面が訪れなかったのかもしれません。そう思えるほどに、情報の収集から分析、それに基づく作戦の立案から実行に至るまでのプロセスが、時間に余裕がなく行き当たりばったりであり非常にバタバタでありながら、結果だけ見るならば冴え渡っていました。大したもんですよ、実際。それ以上に、窮地を前にした時のダークの心境です。怯え後悔し歯噛みしながら、それ以上にこの危地を自分の才覚でひっくり返そうとしていることにワクワクと胸を高鳴らせている自分がいる。面白い、楽しいと感じている自分がいる。
これもまた、覚醒の一つといえるのかもしれません。
しかし、ラッセルを洗脳し利用しようという敵側の陰謀が大上段からの大仰なものだとしたら、ダークのそれは小賢しいくらいに狡っ辛い卑怯なやり方なんだけれど、それが相手の思惑を覆して戦況そのものをひっくり返してしまうというのは、やっぱり痛快です。三下の小悪党が並み居る英雄や謀将を手玉に取るというのは、カタルシスだわなあ。同時に、これまで立場や性格やら何やで手足を縛られていたフィーネが、ダークの手によって生き生きと羽ばたく姿は、見ていて気持ちよかった。親の前では雛鳥で、その庇護がなくなった時一人では何も出来ず雁字搦めで地面の上で丸くなっていた鳥が、ダークという繰り手を得たことで飛躍の時を得た。その意味を、彼女は果たしてどこまで理解しているんだろう。頭では理解してないんだろうなあw ただ、本質を見逃すような娘ではないんですよね、確かに。ダークの献策を彼を信じているとはいえ、かつての仲間と戦い自分の父親を囮に利用するような作戦を素直に受け入れるあたり、彼女の純真さは頑なさではなく柔軟さの方に振れているようですしね。多少卑怯でも気にしないアホの子、とも言えますがw
でも、思ってた以上にいいコンビですよ、この二人は。

アホと言えば、今回敵さんに思いっきり良いように利用された挙句にダークに利用し返されて、とにかくあんた利用されすぎだろう、と苦笑してしまうくらい自由自在に操られまくっていたラッセルさん。ここまで来ると面白いよ、この人。聖剣団の中でも一番物騒な人だと警戒していたのですが、ある意味フィーネよりもチョロい事が発覚したので、操縦が効いているうちは頼もしいだろうな、うん。ただ、ほんとに面倒くさい人なのでこの段階で谷にとどまらずに外に出てくれたのは、戦力アップと比べてもそちらの方が良かったんじゃないでしょうか。
妹とイチャイチャするのに、うるさい兄ちゃんが側にいたんじゃ気も休まりませんからね。

さらにアホと言えば、今回表紙になっていたダークの元上司のハスターさん。表紙に登場し、美人だし、かなりやり手の辣腕女将軍なのかと思ったら……あかん、この人ほんまにあかん。ぶっちゃけ、無能だっ!! 残念上司だ!! あんまり出来が良くなさそうな片腕が魔物の将軍のその下の副官、というのはまあまあ妥当な地位なんじゃないか、というかその地位でもあんまりちゃんと出来ていないんじゃないかという感じで。本人、苦労しているみたいだし、幼い弟に代わって男社会の中で頑張っているのはわかりますし、偉そうな態度の中に妙に愛嬌があるから、ついつい応援したくなるんだが……ちょっと出世は無理なんじゃないですか、お姉さん!!
ラグナの谷側の王子様も、裏で色々画策しているわりには底が浅いというか、ダークにあっさり騙されているあたり、知れてしまっているのですけれど、彼にも単純な野心じゃない事情があり、またこの人も妙に愛嬌があるので、この調子だと獅子身中の虫と見せかけて、さらに面倒で厄介そうに見えて実はチョロくて利用しやすい味方、というくらいの立ち位置になりそう、なにそれ面白いw

1巻感想