スクールライブ・オンライン (このライトノベルがすごい! 文庫)

【スクールライブ・オンライン】 木野裕喜/hatsuko このライトノベルがすごい! 文庫

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MMORPG《3R》――「楽しみながら学ぶ」を目標に授業にオンラインゲームを取り入れ、大きな成果を上げた私立栄臨学園。だがその結果、今日では生徒たちの間に「レベルこそがすべて」という風潮が広がっていた。新藤零央はそんな現状に疑問を抱き、ひとり孤独なプレイを続けていたが、ある日の大型アップデートを境に、彼の学園生活は大きく変わり始める――。リアルとゲームが交錯する、新感覚・学園×オンラインゲーム小説、始動!
【ワイルドアームズ2】というプレイステーションのRPGをご存知だろうか。名作と名高い作品だけに、古い作品だけれどプレイした人も多いのではないだろうか。その主人公であるアシュレー・ウィンチェスターは、正義感の強い生真面目な青年であまり冗談も口にしないどちらかというと堅物なキャラでありました。ところがところが、この彼、密かに隠れツッコミ属性で、敵キャラの中に「トカ」と「ゲー」なるお笑い担当キャラが居るのですが、彼らが登場するとスチャラカなボケを連発するトカに対して、突然アシュレーはキャラが別人になったかのように、切れ味が鋭すぎるツッコミを披露しだし、シリアスな雰囲気を粉砕して爆笑漫才を始めてしまうのでありました。いや、ほんとお前誰だよ、というくらいにアシュレー、イキイキとし出すんですよね、トカ&ゲーが現れると。
斯くの如く人生においては、時に自分の中に秘められていた本性が真の在り様というものが、運命的な出会いによって開花しすっぽりとハマってしまう、というケースが少なからずあるものです。
本作の主人公、新藤零央にとってそんな出会いこそあの瀧先輩とのそれであり、彼女との出会いによって彼の中に眠っていた「ツッコミ属性!」が見事に開花したのでした。
いやね、零央くんがツッコミ属性に目覚めるまで、かなり物語としてはテンションが停滞してたんですよね。それまでの彼ときたら、現状の学園の在り方に対してつまらないつまらない、と連呼して背を向けながら、しかし孤高に反抗の念を募らせるでもなく、卑屈にヘタレて拗ねて僻んで、と見るに耐えない底辺をゴロゴロと転がっているばかりでしたから、正直鬱屈がたまるばかりだったんですよ。挙句、彼を懸命に肯定して一緒に歩こうとしてくれる幼馴染の沙耶に八つ当たりするわ、卑下して突き放そうとするわ、なかなか見るに耐えないどん底っぷりを曝け出していたのです。さすがに、こんな主人公では応援も出来んしお話も楽しめんなあ、と思っていたところで登場するのが、沙耶と同じギルドに所属する瀧先輩。
やー、この人がまた頭の良い享楽主義者で、口から飛び出してくるのはお馬鹿な発言ばかり。いや、沙耶の事を心配する良い先輩であり、同じく学園の現状を憂い色々と画策したり零央をけしかけたり煽ったりと、参謀職的な理知的な面を持つ人なんだけれど、普段の言動がとにかく自由すぎるだろう、というたぐいの人なので、とてもじゃないけれどボケ流し出来ないネタのオンパレードなんですよね。
結果として、ツッコミに目覚める主人公!
そして一度目覚めてしまうと、ただ健気で献身的に見えた幼馴染が、実は極めてイイ性格をしてオンマイウェイな所のある強引でこれも自由すぎるキャラだということが自然とツッコミ返しの発生で発覚してしまったり。
マスコットとしても戦力としても凶悪なアビリティを有するユマの参戦も相まって、ここらあたりから急にキャラがイキイキとし出して、途端に話が面白くなってきたんですよね。
それまで主人公の頭を塞いできた鬱屈が、沙耶の決断と瀧先輩の誘導で取っ払われた事も大きいのでしょうし、安易にシステム変更で有利になった点に囚われず、勿論それを有効に利用したのは間違いありませんけれど、後ろ盾あっての踏ん切りじゃなくて最終的に自分の不明、至らなさ、恥ずべき言動を自覚し猛省した上で、幼馴染を見舞った理不尽に怒り、自分たちの手によって覆そうとする現状への反逆を志したことが、物語に加速と躍動を与えた気がします。
やっぱり、主人公に覇気がないと話は盛り上がりませんもんね。これが身の程知らずの調子に乗った馬鹿だと鼻につくばかりですけれど、散々自身の愚かさ、みっともなさを曝け出して立ち止まり蹲ってしまった情けなさを踏まえての、決意であり前進であるからこそ、自然と応援したくなるものです。
ちょいと良かったな、と思えたのがあの忍足とのやり取りでしょうか。普通、あそこまでろくでなしに描かれたキャラはそのまま使い捨てられるのがオチですけれど、彼の執着と未練、そして恥ずかしいまでのみっともなさを繕わず、これもまたさらけ出すように描いたことで、まあ零央くんと打ち解けて友達になる絵面はやっぱりそれまでの彼の態度を思い出してもとても思い描けないのですけれど、ただの嫌なやつではなくどこかでお互いを尊重しあえる関係になれそうな余韻を残して書かれたのは、なんだか心に残る展開でした。

しかし、ゲームをそのまま学業に結びつけてしまうという、有り得ねえよなあ、というシステムはともかくとして、本来その楽しくゲームをすることで個々の能力を伸ばすという本来の趣旨が、過程ではなく単なる目に見える結果にすぎない部分についてのみ重視するようになってしまう、それも生徒たちのみならず運営側の学校まで結果主義に、ってこういういつの間にか全体が本末転倒になってしまってるところはえらく現実の日本的なものを感じさせて、やけに生々しかったですね。

零央くん、前向きになりイキイキとしだしたのはとても素敵だったのですが、そのすりつぶしたような鈍感さは正直みっともないので、敏感になれとは言いませんけれどちょっと露骨すぎるくらいのそれは辞めてほしいなあ。どうもそういうキャラ付けは作者の都合以外の何者にも見えなくて、いびつに感じてしまうものですから。
そういう点を除いたら、途中からホント読んでて楽しくなるお話でした。キャラの掛け合いは、なかなかのはじけっぷり。続きが素直に楽しみです。

木野裕喜作品感想