エスケヱプ・スピヰド 四 (電撃文庫)

【エスケヱプ・スピヰド 四】 九岡望/吟 電撃文庫

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 黒塚部隊によって、《蜂》と《蜻蛉》、そして竜胆の体が奪われた。九曜たちは仲間を奪還するため、《鬼虫》四番式・蜈蚣を目覚めさせようとする。しかし理論上は正しいはずの蘇生実験は、失敗を繰り返していた。
 そんなある日、叶葉は帝都の町中で行き倒れている少女を助ける。クルスと名乗る少女は、「南が明るくなったら逃げろ」と叶葉に告げるが――?
 果たして九曜は自らの半身《蜂》を取り戻すことができるのか。そしてクルスの正体とは!? 神速アクション第4弾!
凄いな、完全に死んだ状態からも復活させられるのか。さすがに遺体が残っていないと無理なようだけれど、星鉄があれば機能を回復できるとなると、元は人間であっても厳密な意味で生物ではなくほぼ機械そのものということになっちゃうのかしら。とは言え、本作ではあまりその辺りの機械と人間の区別とかはつけていないようで、機械兵士であってもちゃんと壊れた場合は戦死という風に表記されているし、作中の人間たちも鬼虫たちに対して普通の人間と変わらない態度で接しているので、問題はないのかもしれない。
しかし、言われてみてようやく気が付かされたのだが、一度戦死したものを復活させて戦力を増やすという行為は、単純に味方が増えてよかったね、非業の死を遂げた仲間たちと再会できるんだからイイ事だよね、という程度の認識だったのだけれど、復活させられる側からすると一度義務と使命を果たして眠りについた身を無理やり起こして、もう一度戦わせようとしている、という風に捉えられても仕方がないことだったんだな。
目覚めてみれば、自分が身を犠牲にして戦った戦争は既になし崩しに何も形をなさないまま終わっていて、今は同じ国の中で相争っている。自分が戦った意味はなんだったのか。自分が死んだ事には何の意味もなかったのか。意義も目的も見失ったまま、また戦えと強いられる事はそりゃあはいはいと納得できるもんなんかじゃないんだろう。かと言って、完全に拒絶してしまうほどの根拠もない。自分を目覚めさせたのは、身内も同然の仲間たちであり、彼らは切に自分の助力を求めている。無気力に苛まれながらも、拒絶するには親愛が残りすぎている。拠り所の得られない精神状態は、鬼虫の起動を妨げ、それがさらに心の迷走を招く。
井筒さんのスランプは、まあこんな理由なのでしょう。キャラ的にがらっぱちのイケイケドンドンなヤンキー風の青年だけに、そんな繊細なメンタリティを披露されるのは若干キャラにあってないんじゃないか、と思ってしまうところだけれど、むしろその似合わなさがキャラクターの肉付けとして機能しているとも言える。ただのガラの悪い考えなしの脳筋じゃないんですよ、と。
しかし、だからと言って彼がシンプルな人間ではない、という事を意味しているわけでもないんですよね。結局、彼のような人物の絡まった精神状態を解きほぐすのは、わかりやすい方向性なのであります。
色々とぐだぐだと理由付けをして意味を巡らし、そこからさも深奥からひねり出したようなお題目を掲げて、それに殉じさせる、みたいな思考誘導は遠回りしすぎ。求めるべきを欲せよ、じゃないけれど叶葉が井筒さんにアタックして願ったことは、本当にシンプルなことで、だからこそぐだぐだと考えこんでしまっていた井筒の中身を整理整頓して、結局自分は何が一番大事で、何が一番したいのか、というのを明快にしてみせたんですよね。さすがは九曜の個人的司令、というべきか、この娘は迂遠さを取っ払って最短距離で一番肝心要な部分をついてくる特質を持っているようだ。裏表なく一直線に真正面から切り込んでくる。
これは、糸を絡めるように言葉巧みに相手の欲しがる甘言をチラつかせて心を擽りながら、しかし決して踏み込まず外側から誘導し、結果として自分の望む形へと相手を誘導していく、黒杖のやり方とは真逆とも言える。
今回、死んだはずだった複数の鬼虫が黒塚部隊に協力していると思しき状況が浮かび上がり、さらに井筒に対しても誘いをかけてきたことから、鬼虫を二分する争いへと発展しそうな流れになっているのだけれど、これは九曜をはじめとした鬼虫たちの心を掴み始めている叶葉と黒杖の、ある意味人心掌握対決、叶葉が正しく司令としての役割を求められる展開になるのかもしれないなあ。とはいえ、今のところそれほど叶葉を中心に人間関係が回っている、というほどのカリスマはまだ彼女にはないのだけれど。
九曜に関しては、もう完璧に夢中というか、イチャイチャ状態だけどね。なにこのバカップルw 周りの目をまったく気にしない九曜はともかく、最近、叶葉まで人目気にしなくなってるぞ。

でも、この調子だと本当に万次を除いた鬼虫全員復活、という流れになりそうだ。第一巻を見る限り、まずあの段階では全員死んでる以外何者でもない設定だったと思うんだけれど、プロットの組み直し手間だったんだろうなあ……。