放課後四重奏 (GA文庫)

【放課後四重奏(カルテット) 1】 高木幸一/ぜろきち GA文庫

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人間嫌いの高校生、灰堂青は寮を出て、旧校務員室に住む少年である。彼はある日、屋上から飛び降りようとする少女・菜花心月と出会う。

「……見届けてくれますか?」
「断る、勝手にしろ」
「えっ!? あなたには、人の心というものがないんですか!?」

口論の末ふたりはプールへ落下。
その一週間後。彼は長らく避けていた同好会に入ることを担任に強制されそうになる。そこで彼は、誰も近寄らない、ひとりだけの同好会を作ることに。しかし、その会室にいたのは……人体模型に告白する飛び降り少女!?

不器用すぎる少年少女たちが奏でる青春ラブコメ四重奏

この主人公、面白いなあ。彼が基本的に人間嫌いというのは事実なのでしょう。ただ、彼は嫌いな人間というものを不当に憎んだり貶めたり敵視しておらず、自分が距離を置くことに終始している。彼が人間嫌いになった事情からして、人間というものに対する深い不信感があり、他人との距離感に強い警戒感を抱いていしまう所が伺えるのですけれど、その対人の態度を必要以上に攻撃色に染めずに感情的にならず、理性を以って対応しているのは灰堂青という青年の誇り高さを感じさせます。漠然としか明らかになっていませんけれど、彼のこれまで経験してきた事情を鑑みるならば、もっと僻んだり歪んだり、自分自身を憐れみ、自分をひどい目に合わせた他人という存在に対して敵意をあらわにしてもおかしくないと思うんですよね。
ところが、基本的に徹底した距離をおくことを心がけているものの、彼は敬するべき人間には相応の態度で応じているし、相手が本気で困っていたら、相手がそれを表に出していなくてもスッと手を差し伸べている。
根本的に優しい人間なのでしょう。彼は、嫌うことと憎む事は全く違うということをプライドを賭けて体現している。
面白いのは彼、他人と距離を置くことに執心してきたせいか、対人コミュニケーションスキルが微妙に欠けてるくせに、必要以上の社会的コミュニケーションスキルについては、他人と適切に距離を置くために磨き上げられているというアンバランスさを秘めてるんですよね。なので、普通に接している限りでは彼がコミュニケーション障害の対象者とは気づかないため、彼と接することになった諸々の彼女たちは突然降って湧いたように起こる予期せぬ灰堂青の常識の無さに振り回されることになる。特に彼の凄いところは、相手のパーソナルスペースへの踏み入り方に躊躇とか予備動作が全くないんですよ。直前までお前なんか興味ない、関わりたくない、という態度を全面に出していた男が、一瞬後にぎょっとするほど間近にいて顔をのぞき込んでいる。それで、真顔でお世辞やお為ごかし、社交辞令というつもりのない、飾らない言葉や態度で接してくる。物凄いド直球のストレートで。かと思えば、あっという間にまた距離を開けて素っ気ない態度で見向きもしない。
今回のお話では、基本的に彼のそうした態度が見られたのは相手が女の子に場合に限っていたのですけれど、多分これ老若男女関係ないんでしょうね。灰堂青本人は、自分がどれだけ滅茶苦茶な距離感で人と接しているか全然気づいていないのだけれど、これをやられた相手はもう目を白黒させて絶句する他ない。なにしろ、中間距離がないんですもんね。しかも、これから近づきますよ、という前振りもない。度肝を抜かれますよ。
ただ、彼がそうやって近づいてくるのは、灰堂青が相手を心配して居る時、その人に対して何らかのアクションを取るべきと考えた時なので、その人が本当に窮して参っている時が多い、それでなくても心にポッカリと隙ができている時や弱気になってる時だったりするので、灰堂青にダイレクトにヅガンとやられてしまうのだ。本人の意図しない所で、押したり引いたりの加減が空恐ろしい絶妙さになってしまっている。
なんでこいつに親しい友人がこれまで一人もできなかったのか不思議なくらいなんだけれど、これまで本当に巧妙に他人を避けてきたんだろうなあ。それが、菜花心月というこれまた無茶苦茶な少女と遭遇してしまうことで事故的にバランスを崩してしまったのか。いや、これは担任教師のファインプレイと言っていいのかもしれない。同好会を言い出したのは灰堂青当人だけれど、あの担任の先生の後押しの仕方を見るとこの先生、灰堂青という青年の特性をよく見抜いていたとしか思えないんですよね。食わせ者もいいところだけれど、頼もしいわこの先生。

生徒たちから持ち込まれてくるお悩み相談を聞くSL部。訪れてくる相談者たちの他愛もないようで、でも真剣な悩みをしかめっ面で聞きながら、思わぬ勢いでバッサリと断ち切り解決していく灰堂青の、この予想しにくい切れ味の解決法は、見ていても本当に面白いので次巻以降もこの調子でザクザクやってって欲しい。
ラブコメパートはハッキリ言って、これ攻略される対象が灰堂青の方。攻略するのはヒロインたち。この難攻不落の大要塞を陥落せしめんと果敢に立ち向かおうとするSL部は菜花・空上・草ヶ部の三人娘に他もろもろ。この逆転の構図も面白いんですよねえ、一体誰がこの難物の心を射止めるのか、今のところ菜花心月が若干リードといったところだけれど、彼が心を許している程度では空上・草ヶ部もさほど変わりないので、リードというほどでも無し。これはデッドヒートが予想されますよ?

高木幸一作品感想