斉藤アリスは有害です。 (2) ~あなたが未来の魔王です~ (電撃文庫)

【斉藤アリスは有害です。 2.~あなたが未来の魔王です~】 中維/GAN 電撃文庫

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人類で唯一人の「有害者」斉藤アリスと山之上秀明の出会いと事件。それを受け米国より新たに送り込まれた金髪碧眼の美少女ドロシーは「有害候補生」なる肩書きを引っさげて、秀明の前に現れた。天真爛漫に振る舞うドロシーは、しかし秀明が嫌うオカルトじみた事情を抱えていた―曰く、自分は未来からの来訪者で、しかも秀明の娘なのだ、と。そして彼女の身に隠された秘密が明らかになるとき、秀明とアリス、仲間たちを巻き込んで、新たな事件が起こり!?人類で最も不運な少女と神をも怖れぬ少年の、とびきり不運でハッピーなボーイ・ミーツ・ガール、第2弾!
このシリーズってポップな雰囲気とは裏腹に、皮一枚剥ぐと裏側にはびこっている人間の悪意の濃度が、ちょっと尋常じゃないんですよね。アリスが置かれていた環境も、あれで相当に酷いものでしたが、彼女はそれでも博士によってずっと守られていたんだなあ。
そして、博士のような存在がいなかったアリスになれなかった「有害候補生」の子供たちが辿った末路はエグいなんて代物じゃありませんでした。
でも、それだけならこの世界の何処かでいつも起こっている目も覆わんばかりの筆舌しがたい惨劇、に過ぎなかったのでしょう。ところが、このケースはそんな無関心を許さなかった。人間の色濃い悪意の産物が、誰にも顧みられないまま消えてしまう無情な悲劇、で終わらなかったのです。
斯くして、魔王は発生しました。そう、それは出現したのでも誰かがなったわけでもなく、発生したというのが一番相応しい。これは、世界に無視される悲劇たちの反乱、人間が垂れ流している悪意に対して哀れみを抱きつつも結局無関心、他人ごとで済ましてしまう人々への報復と言えるのではないでしょうか。
そして、それは意志によってもたらされるものではないということが、また悲しい。
ただただ、自らの負った痛みを、苦しみを、絶望を叫び訴えているだけなのに。誰にも助けてもらえなかった絶望が憎悪に成り代わり、因果となって彼女たちを助けられなかったすべての人類に対しての応報となる。彼女たちが味わった地獄によって生まれた憎悪の感染拡大。自動的な破滅、これが魔王の正体だったのです。
無関心、他人ごとへの警鐘というわけじゃないんでしょうけれど、このような人の悪意によって作り出された地獄
を、単なるバックグラウンドとして消化してしまうのではなく、こうやって直接の原因として持ってきたのは何というか、誠意みたいなものを感じたんですよね。単なる設定として、演出として作品に奥行き、彩りを与えるだけの材料して消耗してしまうことは決して悪いことではないと思うんです、実際結果として救済を受けたり世界が変わる原点としてそうした惨劇がきっかけとなる事もある。でも、やっぱり地獄を味わった彼ら彼女ら自身はその時点で終わっちゃってるんですよね、そのほとんどの場合で。
だからなんでしょうか、彼女たちの心が壊れてしまうような痛みや恐怖が、業火に炙られるような苦しみが、憎悪という直接の共感を得る形となったのは、それはそれで悪夢ではあるんですけれど、これも一つの報われた形のようにも思えてしまったのでした。
だから、この魔王を止めるということは、もう終わってしまっていたはずの彼女たちの苦しみを、直接手を差し伸べて止めることが出来たように、一瞬感じたのかもしれません。ただ少なくとも、あの娘は、既に終わってしまっていたはずの最後の一人を、憎悪に抗いたった独りで戦って戦って、無理矢理にでも動かして助けられる位置に引っ張りだしてみせたのですから、大したものです。大したものでした。

また、アリスはアリスで、この娘も肝の据わり方というか、マインドセットが尋常じゃない所があるんだなあ。秀明に出会う前のあの硬質で無感情な彼女の姿は、勿論無理矢理に鎧った姿だったのだろうけれど、大事なのは彼女はそれを意図してしっかりと纏えるだけの、精神的な強さを備えているということなのでしょう。必要ならば、彼女は望んで魔王になれる。強い女性です。
しかし、これで完全にアリスと秀明のカップルは不動の鉄壁かー。いや、二人の関係からして今更ここに割って入れるようなものじゃなかったんですけれど、ここまで太鼓判と押されると参ったとしか言い様がない。というか、秀明当人としてはどうなんだ? 未来の事実を知ってしまった以上、意識せざるを得ないと思うんだが、今更動揺することもないんだろうか。まあ当人無意識かもしらんが、ベタぼれだもんなあ、アリスに。

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