ノロワレ 弐 外法箱 (電撃文庫)

【ノロワレ 弐 外法箱】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

Amazon

「また自分の知らない風習か…」
同級生・日高護の祖母の葬式に出席した真木現人は、そこで騒ぎに巻き込まれる。部外者であるはずの少女が発したこと―それは日高が過去に祖母から聞いていた『神様の入った箱』を差し出せというものだった。一方で現人の双子の兄・夢人は、その箱と同時に日高の家系にも興味を持ち始める。それは七谷という土地で脈々と引き継がれている『憑き物筋』で、呪いの本尊をその箱に収めているという。兄の話に怒りを覚える現人だが、呪いはすでに浸蝕を始めていた。現人が通う高校に巻き起こる怪異、そして―。甲田学人が放つ呪いの物語、第2幕。
昔、漫画【うしおととら】で、お外堂さんという箱に入った妖怪を遣う外堂使いなる女性のキャラクターが出ていて、その時は箱に入った妖怪というものを変な設定の妖怪だなあと不思議に思っていたものですけれど、今思うとこれがまさに「憑き物筋」の呪物だったんだなあ。あの漫画では直接の攻撃手段となる使役獣みたいな扱いだったけれど、これは少年漫画のバトルようにアレンジされたものであり、正しくは呪詛をもたらすための呪術の要であったのだろう。これは「犬神」のたぐいも似たような扱いをされることが多いので、むしろうしとらの外堂使いは非常に緻密な設定に基づいていたとも言える。祖母から孫娘が箱を受け継いだ、というのも単に女性のゲストキャラを出したいからではなく、キチンと女系に受け継がれる憑き物である、という流れだったのだ。
しかし、うしとらでは「憑き物筋」が忌避される存在であるという事は巧妙に避けて描かれていた。そもそも「憑き物筋」については言及がなかったですしね。ただ、無視するのではなく巧妙に直接は触れないように、しかし言外には忌避され畏怖される存在であるというのを匂わしてはいたので、その辺りはやはり巧妙だなあ、と。
自分が始めて「憑き物筋」というものについて知ったのは、京極夏彦【姑獲鳥の夏】が最初だったでしょうか。それまで勝手に抱いていた犬神などのイメージが大きく変わることになったので強く印象に残っています。
しかしこの作品の舞台となる集落、七谷という土地は「憑き物筋」まで内包しているとか、どれだけ多様な因習を抱え込んでいるのか。普通、特別な何かを一つだけ受け継いでいるだけで田舎の村落などそれでキャパシティが一杯になってしまいそうなものなのですが、この土地には通常の寺や神社と違う筋の巫女さんが地縁を統べているようですし、胡散臭さが尋常ではない。なまじ、本物っぽいだけに尚更に。
ただ、この作品が本当にしんどいのは、こういうオカルトサイドの闇深さやおどろおどろしさよりも、普通の人間たちの粘性の強すぎる剥き出しの負の感情なんですよね。今回については、日高の亡くなったおばあさんの偏執的なまでの嫉妬深さが、伝聞を聞くだけでもしんどい。この手の嫉妬って、直接当人のコンプレックスからくるものならまだいいんですよ。でも、その嫉妬心が当人の努力や行動で賄えるものではなく、今回のように孫と他者との比較から燃え上がるようなものだと本当に質が悪い。嫉妬心を自分だけで抱え込むのではなく、それを自分の写身となる対象者へと押し付けることになるのですから。
このお婆さんは特に酷い。聞いているだけで胸が悪くなるような酷い罵倒をずっと幼い孫に聞かせ続けていたんですから。よく、彼が根性歪まなかったものだと思いますよ。善悪の区別なくもろに感受してしまう幼い頃はどうあれ、高校生になった彼は非常に健全なメンタリティの持ち主で、祖母の悪影響と思しき性格の歪みは殆ど見受けられなかったのですから。
この作品の本当にエグいところは、因果応報、じゃないところなのかもしれません。まあこの作品に限らず、甲田さんの作品は大概そうなのですけれど、悪いことをしたから報いがあるのではなく、別にその当人が善人であろうと悪人であろうと無関係に、何も悪いことをしていなくても平等に「惨劇」の餌食になるんですよね。それこそ、ホラーの犠牲者の法則すらも鑑みないほどにのっぺりと飲み込んでいくのです。こいつ、ここまで酷い目に遭う理由があるのか? と愕然としてしまう。そう、理由なんて「たまたま触れてしまった」という以外無いに等しいんですよね。それも、意図して触れたわけでもなく、それこそ向こうから車が突っ込んできた此方に責任が皆無な交通事故並に。
犠牲者に罪科が殆ど無い惨たらしい地獄絵図は、読んでるこっちもゴリゴリと精神が削られていきます。
これで、せめて現人が主人公らしい働きをしてくれたらいいんですけれど、コイツときたら始終イライラと刺々しい空気をまき散らしているばかりで、空気の悪さの現況は半ばコイツなんじゃないでしょうか、と思うほど。ここまで不機嫌で居続けて、しんどくないんだろうか、この子は。正直言って、夢人の方が悪意があろうと歪んでいようと粘性自体は少ないので不快度はないんですよね。感情をコントロールできず、自分の中の鬱屈を持て余して飲み込めない現人の方が見ていてしんどいです。若さ故の未熟な部分なのかなあ。しかし、この感受性豊かな時期に、これだけ人間不信を加速させるような出来事ばかり続いたら、このままおとなになってもより内向きに刺々しさを尖らせていきそうで、なんとも暗澹たる気分です。
ところで、今回登場した表紙にもなっているおみこさまの後継者の娘は、本作のヒロイン役になるんでしょうか。一応、歴とした能力もあるようですけど、一方で精神的に閉塞してしまっている点については現人サイドの人間のようですし、周りに理解者がおらず孤立しかかっていた現人サイドのヒロインとして、今後も本格的に関わってきそうな予感。もっとも、現人と打ち解けたり仲良くなったりする様子が全く想像出来なくもあるのですが。
今回も……誰も死ななかった? でも、死ななきゃいいってもんじゃないですよっ!

1巻感想