憂鬱なヴィランズ 3 (ガガガ文庫)

【憂鬱なヴィランズ 3】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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明かされる月夜の過去と“絵本”誕生の秘密

「その絵本を作ったのが、帯刀月夜自身だとしても?」

月夜が『ワーストエンド・シリーズ』の作者!?
千鳥からもたらされた情報に困惑しながらも、兼亮は絵本の謎に迫ろうとしていた――。放課後の校舎内に突如響き渡る女生徒の悲鳴。文芸部部室にいた兼亮と千鳥が駆けつけると、女生徒の顔にはガラスを割ったような無数の亀裂が走っていた。すでに敵の攻撃は始まっている。正体不明の読み手から出題される“注文”をこなしながら、追撃を開始する兼亮たちだったが、時を同じくして、危険な“フック船長”の能力を持つ『ピーター・パン』の読み手までもが現れて……。学校内で暗躍する新たな読み手たちと、事件の黒幕“先生”の影。
そしてついに、兼亮たちはある人物から月夜の過去と、“絵本”誕生の秘密を聞かされることになる。
この物語の絵本の借主たちは、少なからずその絵本の悪役の生き様、行動原理に魅せられてしまったものたちで、しかしそれぞれが悪役の悪に飲み込まれることなく、その毒に抗いながら魅せられた悪役たちの姿に正の解釈を見出そうとしながら戦っている子たちなのだけれど、それは彼らがまだ成長途中の子供だからなのか。未来に可能性が残っている子供だからなのか。
少なくとも、【ピーター・パン】の読み手である印南は、絵本を借りる前からネバーランドに囚われながら可能性を否定し続ける大人でも子供でもない悪意の魔物、フック船長そのものだったと言える。世界は悲劇ばかりだと慨嘆して自らが悲劇そのものにでもなりたいかのように振る舞う壊れた子供。
悪役に打ち勝とうとする若者たちと比べて、この大人のなれの果ての醜悪さには顔をしかめてしまう。自分が大人だと誤解している残骸は、こんなにも無様なものなのか。事情がわからないのに咄嗟に日和を庇った先生や、警察官といったまっとうな大人たちが立派な人物だったからこそ、この男の醜さが余計に浮き彫りになる。
フック船長は、子供を憎んでいるのだろうか、子供に嫉妬しているのだろうか。あの悪意、あの剥き出しの敵意には怖気が走る。どうしてあそこまで幼い心を切り刻む事が出来るんだろう。幼い夜空にドクターがした仕打ちは、享楽性を感じない分余計に悪意として刺々しく恐ろしい。
振り返ってみれば見るほど、このドクターってフック船長そのものでした。【ピーター・パン】は、フック船長との戦いなどを通じて成長したウェンディが、大人になることを拒むことをやめるお話でしたけれど、この物語でウェンディ足りえる月夜も日和も、既にもう夢見る子供ではありませんでした。悲劇と惨劇を塗りたくられて、夢の国から強制的に追い出され、夢をみることができなくなった子たちでした。でも、彼女たちがもう大人になっていたのかというと、そんな事はなくてただただ無理矢理に子供で居られなくされただけだったんですよね。ならば、彼女らにとってこのフック船長との戦いはどんな意味を持っていたのか。
思ったんですよね。子供の頃の夢を取り戻す事もまた、大人になるという事の一つなんじゃないかと。悲劇をもたらした悪意を打ち破り、過去に奪われたものと向き合う覚悟を持った時、子供で居られなくなりながら大人になれずに居た彼女たちはひとつ階段を登りました。いや、自分が進んでいくだろう道を切り開いたのでした。喪ったものの残骸を取り戻したことで過去に戻るのではなく、先に進む意志を手に入れました。
一つ大人になりました。
「先生」と呼ばれる一連の出来事の真の黒幕は、自らを「笛吹き男(パイド・パイパー)」と名乗ります。子供を誘い何処かへ連れ去ってしまうという、ハーメルンの笛吹き男の笛の音。結局、子供であるかその軛から脱するか、その辺りがこの作品のキーワードなのでしょうか。

しかし、今回はまた大胆に大事件にしてきましたね。それも、堂々と表沙汰になるような大々的な。絵本「ワーストエンドシリーズ」の誕生秘話と月夜との関わりという物語の根幹にまつわる話が出てきた事から、ついに核心に迫ってきた感もありますけれど、まだまだ未登場の絵本も多い。フック船長はともかく、もう一つの読み手は完全に予想外でしたけれど。あれは、真相がバラされるまで絵本の正体もわからなかったもんなあ。まあ、読んだことが無かった、というのもありましたけれど、能力と読み手は普通ならまず連想として繋がりませんよ。絵本の元ネタがわかってないと。文字通り、あっと言わされました。
絶句させられたといえば、日和の兄ちゃんもそうだったなあ。彼については、真相が明らかになればなるほどその偉大さが浮き彫りになって来ます。彼こそが、一番強い人間だったと確信が深まるばかり。結局、最後の最後まで彼は負けていなかったのか……。彼の遺志を継ぐことはいろいろな意味で大変だ、兼亮も。

そして、相変わらず秀逸なのが、イラスト各種。毎回の表紙の印象的なのも去ることながら、今回のカラー口絵のあの揉み揉みシーンの絶妙な間と言ったら、笑った笑った。一枚絵であれだけ間を表現している絵もなかなかないですよ。千鳥さん、目がやばいですw 目次のSDキャラも酷いですし。一番何が酷いって、巻末の漫画ですけどね。あそこまで好き勝手私物化してやってるのも滅多ないよ!! もっとやれ!!

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