マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)

【マージナル・オペレーション 01】 芝村 裕吏/しずまよしのり 星海社FICTIONS

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30歳のニート、アラタが選んだ新しい仕事(オペレーション)、それは民間軍事会社──つまり、傭兵だった。住み慣れたTOKYOを遠く離れた中央アジアの地で、秘められていた軍事的才能を開花させていくアラタ。しかし、点数稼ぎを優先させた判断で、ひとつの村を滅ぼしてしまう。
モニターの向こう側で生身の人間が血を流す本物の戦場で、傷を乗り越えたアラタが下した決断とは──?
『ガンパレード・マーチ』の芝村裕吏が贈る、新たな戦いの叙事詩(マーチ)が、今はじまる!
傭兵とは言っても、ランボーとかスネークみたいなマッチョな兵士やエージェントとは全く違う職種なんですよね、アラタがついた仕事って。ついつい傭兵というと、現場で銃火器を振りかざして戦うのを想像してしまいますし、最近だと【ヨルムンガンド】という武器商人を主役にした作品で、民間軍事会社についてもチラリと描かれていましたが、そこでも直接的に描かれていたのは現場で銃持って護衛や輸送任務に従事していた人たちですからね。容易にそちらが思い浮かぶのが普通で、私も全然戦闘経験皆無の一般人に過ぎなかったアラタが、どうやったら傭兵になんかなれるんだろう、と読む前は疑問に思っていたものでしたが……普通に日本で開かれた会社説明会に参加して試験受けて面接受けて就職しましたよ!?
すげえな、民間軍事会社。こんなに普通に募集しているものなのか? 探したことないけれど。
いや、多分本来なら前職が軍属という人材をこそ優先的に集めるのが普通で、軍務経験の一切ない一般人を、後方従事職どころか前線任務につけるために採用するのは、幾ら適性を洗いだしたからといってそうそう普通には行われないもの、と思いたいんだけれど実際どうなんだろう。欧米の会社なんて日本の常識通じないところあるんだろうしなあ。
ともあれ、なんやかんやで民間軍事会社に採用されてしまったアラタが訓練と称してやらされたのは、腕立て腹筋行軍訓練、なんて肉体的なものではなく……いや、これは実際読んで見てもらったほうが「うぐぐ」となるでしょう。これはまあ、なんというか発想として凄い。完成品をつくり上げるための訓練の思想が普通に思い描くものとまるで違うんですよね。いや、士官教育とか指揮官教育なんて実際詳しく知らないんだけれど、ここまでシステマチックなものではないしょう。そもそも、これって指揮官じゃないですよね。正確にはオペレーター。戦闘管制官とでも評したらわかりやすいのか。現場に立たず後方に座っていながら、リアルタイムで入ってくる現地の情報を俯瞰的に分析し、現場の部隊に指示を出すというお仕事。この作品では「00」という職名になってますけれど、あとがきによればこういう職は実際にはないのだとか。だけれど、情報の収集と伝達の精緻度が極めて高まりほぼ兵士一人一人の状態まで把握し切る現代戦においては、後方に居るほうが現地に居るよりも圧倒的にたくさんの情報がリアルタイムで集まりそれをリアルタイムで伝えることが可能だから、現地の部隊の指揮を後方からとることも出来るわけで。一昔前の戦争と、やり方が根本的に変わってる部分が、こうしたところなんだよなあ。
これも【ヨルムンガンド】から引用するんだけれど、あのアニメで米軍の特殊部隊、SEALSだったっけか? 細かいところは忘れましたけれど、あれと交戦するシーンがあるんですけれど、SEALSも主人公サイドの部隊も現地の地理情報から敵の動きなどを含めた敵情の入手、そこから判断スべき大まかな戦闘方針は、ほぼ現場じゃないはるか後方からの指示に依ってたんですよね。あれ見た時は、凄いなあと思ったものでしたが、こうした戦争のやり方が米軍の下で従事しているとはいえ、民間の軍事会社ですら行えているというのなら、現代の戦争のやり方って、よく戦争を知らない日本人の漠然としたイメージからは、もう既に遥かに逸脱しちゃってるのかもしれませんねえ。
とまあ、この主人公のアラタも、確かにそんな日本人の一人であったはずなのですが、何も知らないということは頑なで未知を受け入れないというケースとは逆に、知らないからこそ何でも柔軟に吸収してしまう、という形もありえるわけです。幸か不幸か、アラタには何も教えられていないにも関わらず、軍事作戦というものに対するセンスがありました。発想が自然に、戦争のやり方に最適化されてたんですね。
ただ、問題は彼が全く自分が戦争をやっているという自覚がなかったこと。これは、もう会社側の訓練と実戦の
境界線を曖昧にする方法が悪魔的というべきか、巧妙極まったせいでもあるのですが、そのせいでアラタは知らず知らずのうちに後戻り出来ないところまで踏み込んでしまっていたのでした。いや、これは後戻り出来ない事はなかったんですよね。会社側は決して枷をつけるために、こういうやり方をしていたのではないし、アラタも辞めようと思ったらいつでも辞めれたはずなのです。しかし、皮肉なことに彼のメンタルが当たり前なくらいに健全だったからこそ、彼は自分がやったことの責任を放り出すことができなくなってしまったのでした。オマルとジブリールという、こんな界隈では得がたいまでの素晴らしい友人と自分を無垢に慕ってくれる子供たちと知り合ってしまったのも、ある意味放り出せも突き放せなくもなってしまった原因なんでしょうなあ。出会いの素晴らしさに感謝するべきか、むしろそれこそが彼をドツボにハマらせたのか。

ともあれ、二転三転の紆余曲折を辿る過程から、予期せぬ結末も含めて期待していた以上に面白かったです。いや、これはほんとに面白いわ。ぐぐっと自分がのめり込んでしまう感覚を味わいました。既に4巻まで出ているのですが、早速既刊揃えたいと思います。