巨大迷宮と学園攻略科の魔術師 (電撃文庫)

【巨大迷宮と学園攻略科の魔術師】 樹戸英斗/玲衣 電撃文庫

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私立天乃川学園―異世界ゼラに広がる巨大地下迷宮の攻略を目指す生徒達が集う学園。その名も「攻略科」では、生徒たちが大規模サークルやパーティーを組んで、未踏のダンジョン制覇を目指していた。今年入学した荒田維留もまた、ダンジョン攻略を目指す魔術師であった。補助系魔法を操る大橋紗夜香、近接戦闘の前衛・矢城衛健吾、医療系魔法の使い手リオ・ヴィヴィアンヌらとパーティーを組み、冒険へと旅立つ。さらに入学式の日に出会った天才万能魔術師、星沢織姫と同じ寮に住むことになり―。波乱万丈リアルRPGストーリー開幕!
紗夜香が顔面血まみれの大怪我を負いながら、女の細腕で維留と織姫の二人を力づくで引きずっていくシーンで、もう彼女にガツンとやられてしまいました。元々彼女、一族から蔑ろにされてそれを見返してやるという反発心と、自分を追い落としてチヤホヤされている妹に対する嫉みというかなり負に近い感情を糧にエンジンを回している女性なんですが、その為にはかなりあざとい事、なりふり構わないこともしているのだけれど、それ以上に常から努力と探求を欠かさない、という馬力の高い人で嫌いじゃなかったんですが、その上であのシーンの気合と根性の入りまくった男臭い生き様にはちょっと惚れぼれとしてしまいました。
なかなかあそこまでギラギラのギトギトとした貪欲さをむき出しにした女性キャラはいないですよ。居ても敬遠してしまいそうな他人を寄せ付けなさそうな、人に好かれなさそうなキャラが多いと思うんですけれど、紗夜香のギラギラとした野望の塊みたいな生き様は、なんか漲っていて惹きつけられる。格好良い、というにはギラギラしすぎているんだけれど、あのガーーーッ!!とした姿は輝いてるよなあ。いっそ、綺麗、と言ってもいいくらい。
というわけで、現代を時代背景にしつつ、実際に物語の舞台は次元の扉の向こうにある異なる惑星の異世界めいた地下迷宮ダンジョン、という学園ダンジョン攻略もの。現代の学園モノ、ということでもっと緩い安全なダンジョン攻略なのかと思って油断していたら、ザクザクと平気で人が死んでいくのでかなりびっくりさせられた。
そして、面白いことにこの作品において、「死」という結果は全然特別扱いされてないんですよね。身近で同じ学生が死んでも、確かにショックは受けるし親しい人間が相手だったら悲しむし心にも傷を負うんだけれど……根本的に価値観として「命」が軽いんですよね、この世界。現代にも関わらず。彼ら学園の生徒たちにとって、周りの人間、友人が死んでいくのは「当たり前」になっている。この感覚って、平時のものではなくむしろ戦時下のものに近くて、毎日人が死んでいく事に対して価値観が全然違ってきてるみたいに思えるんですよね。
主人公のパーティーも、その辺りかなりおかしくて、確かに主人公たちも目の前で人が死んだりしたら凄まじくショック受けてたりするし、友人が死んだ時には凹んでる。仲間の大切さも普通に持っていて、織姫なんかも、これに関して大きなトラウマを負っているんだけれど、そんな普通の感覚として当たり前の反応とはまた別に、割り切りもすぐに済んじゃってるのです。
この辺りが、普通の「死」を重く扱う作品とは異なっていて、なまじ「死の軽さ」に関する事以外は全く普通の明るいノリの学園ものなだけにそのズレが非常に気持ち悪く感じるところだったりするのです。自分なんか、この気持ち悪さがむしろゾクゾクしてソソられるんだけれど、嫌な人はとことん嫌なんだろうな、とは理解できる。
ハッキリ言って、十代しか力を維持できないとかこんな死亡率の高いところに子供ばかりが送り込まれることを世間が許すのかとか、他にも色々と、現代社会にこの学園が成り立ち存在を認められ、社会活動経済活動国際政治の中に組み込まれるか、というと設定としてかなり無理めな構造をしている気もするんだけれど、パーティー組んでの攻略ものとしては、この雑然としてごちゃごちゃしてる雰囲気は好きだし、年端の行かない少年少女が誰が突出しすぎるでもなく、仲間内でコツンコツンとぶつかり合いながらも仲良くガツガツと食い合いながら一緒に戦っていく様子は良かったですよ。維留とヤノケンとゴーヤの仲の良い男の子らしい馬鹿なやり取りは見てて微笑ましかったし、ラスト近辺のヤノケンの一世一代の見せ場はお前が主人公か、と言わんばかりの熱さでしたしねえ。熱さのベクトルが若干危ない方向に行きかけてた気がしますが。
こういう欲張ったお話は、よしもっとやれ、と言いたくなるタイプなので、このまま行けるところまで行って欲しいですね。

樹戸英斗作品感想