0能者ミナト (6) (メディアワークス文庫)

【0能者ミナト 6】 葉山透/kyo メディアワークス文庫

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とある寒村で、青年と家畜が惨殺される事件が起こる。事件に“怪異”の存在を嗅ぎ取った御蔭神道は、高校生ながら英才と称される水谷理彩子を派遣する。彼女が現場で出会った発見者は少し年下に見える少年だった。殺人現場を見ても落ち着き払い、冷静すぎるぐらい論理的な少年―九条湊に戸惑う理彩子。いつの間にか理彩子は少年のペースに引き込まれていくようになり。湊と理彩子が出会い、初めて“怪異”に挑むことになった事件とは?葉山透が贈る現代の伝奇譚。
珍しくスーツなんて着て真面目な顔をしているから、これが少年時代の湊なのかと読む前まで思っていましたけれど、本文を読むとどうやら今現在の湊と考えて間違いはなさそうだ。つまりは、珍しくこういう格好をしてこういう表情をしているシーンがあるんですよね。
というか、あらすじ読んでたらてっきり今回は理彩子との出会いとなった昔の事件を中心に送る過去編かと思ったら、過去はあくまで起因でありそこから派生してきた現在の事件がメインとなるお話でした。とは言え、すべての起因となるこの件の事件は、湊と理彩子が出会った、という点でも重要で、怪異という存在を湊が知ることになるという意味でも重要でありましたが、それ以上に湊が自分の生き方を見出す事件でもあったわけです。
というのも、どうもこの事件に遭遇するまで湊は自分の本質と表向きの人様との接し方にかなりの齟齬を抱えていたようなのです。しかも、彼は明らかにマトモではない自分の本質に対して、相当の忌避感を感じていたようなんですね。自分は、どうしようもない人でなしなのではないか、と。
そんな九条湊の自己不信を一掃してくれたのが、この件で関わる事になった一人のベテラン刑事の助言だったのです。
その後、湊とその刑事は一度も会うことなく十年近い月日が流れたものの、現在で起こった再び件が起因となる事件によって、湊がどれほどその刑事に感謝と恩を感じていたのかがわかることになります。まあ、そんな自分の生き方を見出す助けとなってくれた恩人と、交流するでもなく十年余を過ごしてしまうあたりに湊という人物の面白さが伺えますが。ある意味、湊をこんなろくでなしの悪党にしてしまったのはこの刑事さんとも言えるんですけれど、あのまま湊が自分の本質と折り合いをつけられず、また自分の中の人間性を信じられないままだったとしたら、果たしてどんな人間になっていたのか。少なくともろくでなしどころか本当の人でなし、根本から歪んだ悪意の塊みたいになっていたのではないかと思うと、かの刑事がくれた言葉がどれほど重く大きく温かかったか、年月が経ったからこそ大きく感じる事が出来るような気がします。
まあいずれにしても、少年時代の湊の屈折っぷりと、さらに刑事さんの目を通してみた湊の姿を見ることで、ようやくこのろくでなしの本質を見極められたような気がします。いい加減、どこまでが本気でどこまでが本心か、さすがに悪い人ではないとは確信できていたものの、良い人でないことは絶対的でしたからねえ。どこかでが作り物で、どこまでが本当の心のうちか、その測り方もようやく感覚として捉えられる感じになってきました。
とはいえ、湊が理彩子の事をどう思っているか、までについてはいささか判断の難しいところなんですが。いやいや、この話読むまでお互い本気で相手のことを異性として微塵も意識していないんじゃないか、とわりとマジで思っていたんですが……、ちょっとそうとも言い切れなくなってきたなあ。まあ、理彩子さん、年齢的にかなり瀬戸際なんで、孝元さんかコイツしか身近に居ない以上、選択の余地がない気もするんですが、湊の方が何考えてるかわかんなかっただけに、やっぱり気配感じてなかったんですよね。それが、この出会いのきっかけとなった事件にまつわる騒動によって、湊の本質の奥のほうがむき出しになると同時にそれを見守る理彩子の態度が非常に包容力があるというか、理解と共感を交えたものだっただけに、ちょっと今までと違う特別な距離感を感じたりもしたんですよね。その上で、あのエピソードですから。沙耶はちょっと、まだ湊にとって女じゃなくて子供なんだよなあ、かわいそうながらも。


相変わらず、怪異への存在を明確に認めつつも、そこから科学的にアプローチしてみるという発想の枠の外を行く湊の行動は、面白いんですねえ。神道の連中も驚いていましたけれど、確かに生まれて予言を残すとすぐ死んでしまう「件」の、その死因について調べよう、という発想にはなんと! と意表を突かれましたし。なかなか、そういう着眼点にはいかないもんなあ。「件」の正体についてはぶっとびながらも、件の能力を考えるとそっち方面に行くのはいっそ当然か、とも思えてくるのですが、むしろそこに件という個体の悪意がある、というのはぞっとする話である。あそこまで無機的、或いは自動的な装置のような存在に、あそこまで生々しい悪意が付随しているというのは、かなり気持ち悪いですよ。
いや、それ以上に気持ち悪かったのが、件の倒し方の元になったてんかんを治す手術法ですがな。いやいや、マジであんな治療されてたんですか? ホラーどころじゃなくゾッとさせられたんですけれど。
いやあ、これはエグいわ。

残念ながら今回は孝元さんは登場せず、湊と理彩子、そして孝元のトリオ結成の話はまだ未公開、ということになってしまいましたが、これまで得体のしれなさばかりが深まっていた湊という人間の真実にかなり迫るお話で、興味深いと同時に面白かったです。

葉山透作品感想