問題児たちが異世界から来るそうですよ?  暴虐の三頭龍 (角川スニーカー文庫)

【問題児たちが異世界から来るそうですよ?  暴虐の三頭龍】 竜ノ湖太郎/天之有 角川スニーカー文庫

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地獄の窯より現れた魔王アジ=ダカーハの攻撃から黒ウサギを庇い、致命傷を負った十六夜。ノーネームの仲間を逃がすため、命を賭け対峙したはずが、その圧倒的な力の差に距離を取ることさえ出来ない。さらには「ならば、こういう絶望はどうだ?」と、魔王は己を抉り、その血液で分身体を生み出し、飛鳥たちがいる“煌焔の都”へ追わせたのだ!アジ=ダカーハの攻撃で阿鼻叫喚の渦に巻かれた都で、耀と飛鳥の戦いの行方は―!?
か……かっくぇぇ。ちょっ、マジで痺れたんですけれど、アジ=ダカーハ先生の悪一文字宣言。いやあ、魔王アジ=ダカーハ、思っていたのと全然違った。この魔王、理不尽の体現者でありながら鮮烈なまでの秩序の導き手だ。その悪は暴であっても邪ではなく、いっそ清廉と呼んでもいいくらいの純粋な悪。

魔王とは、倒されるために用意された役割に過ぎない、という概念は昨今よく見かけるようになったもので、実際自分を倒されるべき魔王として規程して活動している魔王の人もチラホラと見受けられるのだけれど、そういう仕方なく魔王の役を引き受けているような輩とは、アジ=ダカーハ先生は格が違う、誇りが違う、存在が違う。
それを憐れむのは俗人の思考だ。それを嘆くのは的外れである。強いられたもの? 押し付けられたもの? 運命によって定められた逃れられない楔? 自己犠牲? 違う。それは絶対に違う。そんな甘やかな考え方に括られるような、貧相な存在とは格が違う。そんな戯けた物言い、軟弱な考えなど鼻で笑って踏みにじられるだろう。
見よ、振り仰げ、悪の一文字によって染め上げられたあの旗を。あれこそが、倒すべき悪である。
それこそが、絶対なる悪を以ってして正義を証明する者である。
震えたね、その在りように痺れたね。人間の甘い感情など入る余地のない、覚悟や決意だのといった意志を奮い起こす必要もないくらい、信念や思想などといった概念の介在しない完全無欠の在り方だ。思考停止とは程遠い、高みにあって全てを俯瞰する在り方だ。これほど完膚なきまでに悪でありながら、これほど純粋な正義という概念に近しい存在は見たことがない。
これが、本物の「魔王」かっ!!
これこそが、人類最終試練の真の姿か!! まさに「魔王」で、「試練」の名に相応しい存在だ。
もうたまらんかった。十六夜が、力だけではなくその舌戦を以ってして完膚なきまでに敗北するさまを目の当たりにするとは。
ギフトゲームと「魔王」という呼び名の本来の意味もようやく明らかになって、ますますこの箱庭世界のスケールの大きさを思い知らされる思いでした。

一方で、十六夜に大きく遅れを取っていた飛鳥と耀の成長がまた著しい。なんか、これまでの停滞が溜めだったんじゃないか、というくらいの飛躍ですよね、これ。これまで藻掻いて掴み損ねていたものを、ようやく掴んだというか、きっかけを手に入れた、というか。特に飛鳥は、ついにその真価が開花しはじめた、って感じだよなあ。すげえわ。
でも、それ以上に心震わされたのは、耀の十六夜と対等になって彼の横に並び立って戦いたい、という振り絞るような心の叫び。
これは、後半の短篇集でもかいま見えるんだけれど、この十六夜と飛鳥と耀の問題児三人組の関係って、ほんとに男女の性差というものを感じさせない、仲間であり友達同士なんですよね。短編のお話見てつくづく思ったんだけれど、この三人の仲の良さはちょっと類を見ない特別なものです。男友達、女友達、というのとも違うし、同性の親友関係とも違う。兄弟とも勿論違うし、家族的なものでもない。戦友とはまた異なる。一番近いのは「ライバル」なのかな。それも、直接干戈を交えて優劣を競い合うようなライバルじゃなくて、張り合うわけでもなく、一緒の方向を向いて一緒に歩いて行く、けれど慣れ合わずに、でも誰よりもお互いに自分を認めて欲しい間柄。そう言うと、十六夜だけちょっと立ち位置は違うのだけれど、彼は彼で飛鳥や耀をちゃんと自分と「おんなじもの」と捉えているようですし。
なんにせよ、どう言い表していいかわからないこの問題児三人組の関係って、見ててほんとに好きなんですよ。自分、ラブコメ好きでなんやかんやと恋愛要素がないとがっくりしてしまうたちなのですが、この問題児シリーズだけに関しては、というよりも問題児三人組の間柄に関してだけは、恋愛要素が絡まない方がワクワクドキドキさせてくれるものだと思ってます。この三人の間に恋愛感情が芽生えるとしたら、よっぽどのエピソードを入れて貰わないと。無いと思いますけどねえ。

TVシリーズ終了に合わせたDVD付録付きの発売関連もあってか、どうも無理やり新刊を出すことになったようで、ここで短篇集だけって事もなくアジ=ダカーハとの最終決戦を途中までだけ持ってくる、というこれは暴挙なのか強烈すぎる掴みなのか。いや、こんな中途半端な形でアジ=ダカーハ戦の途中まで持って来ちゃって、次の巻ちゃんと盛り上がるの? と、聞くだけ野暮な話か。これだけ激燃えの展開をただの前降りにしてしまえるくらいの凄まじい展開がこの後待っているのだと、思っちゃいますからね? 信じちゃいますからね?
とりあえず、なんでこの盛り上がりの中でリリが表紙? という疑問は解消できました。さすがに切った張ったになると出番がなくなってしまうリリですけれど、このしっかり者の健気なケモナーは可愛いよなあ。十六夜もまあ随分と目をかけて可愛がってますし。十六夜は、態度が大きいからついつい印象が違ってしまうのですけれど、割合誰にでも優しいんですけどね。

シリーズ感想