はたらく魔王さま! (9) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま!9】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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異世界エンテ・イスラから戻らない恵美と、ガブリエルに攫われた芦屋を救うため、世界を渡る決意をした魔王たち。必死にバイトのシフトをやりくりする魔王は、鈴乃と何を持って行くかについて喧嘩したりしながらも、エンテ・イスラを目指しゲートに飛び込む。一方、恵美がオルバの手に落ちた理由とは何だったのか―。故郷の村へと向かった恵美が父ノルドの残した記録の中から気付いた秘密。それは、自らの母や、世界の成り立ちに関わるもので…?
お前ら、早くエンテ・イスラ行けよ!!(笑
えらくノンビリとエンテ・イスラ行きの準備を整えてる真奥と鈴乃。なんかノリが異世界に行くというよりもインフラの整っていない未開地にキャンプに行きます、なノリで、自然準備もそれに準じたキャンプ用品の買い揃えになってしまうのだけれど、二人共元飲食の必要のなかった魔王に、異端審問官として高い身分にあったベルである。実のところ、自分一人で旅の準備を整える、なんてことはしたことがなかったために、最終的に現代日本人であるちーちゃんや梨香のアドバイスでキャンプ用品のお店の人に相談して道具を揃えることに。おい、異世界人w
この件に関しては、勇者として旅の一切を周りのメンバーにまかせっきりにしていたエミリアも随分と苦労するはめに陥っている。というか、完全に日本の環境に慣れきってしまったエミリアにとって、未開の中世的な世界であるエンテ・イスラのあまりの不便さは耐え切れるものではなく、子連れということもあってか、初っ端から泣き事だらけ、という……いや、あんたもうエンテ・イスラ、戻れないだろう、それw
異世界編になったら、この作品の特徴であるリアルすぎる生活感が消えちゃうんじゃないか、という一抹の不安があったのですが、むしろ異世界の不便さを通じて現代社会の暮らしやすさ、便利さ、何気ない日常のあれこれがどれほど恵まれた環境だったか、という何だかいつもよりもさらに生活感が切迫感を伴って身に沁みる展開になってましたがな。レトルト食品の何たる偉大さ(笑
日本で食されている農作物は、まあ色々と問題があるにせよ、長い歴史と努力によって培われてきた品種改良の末に出来上がったものですからねえ。エンテ・イスラの原種に親しい野菜や果物じゃあ、味には比べ物にならない差があるのでしょう。
何気に、鈴乃や真奥が降り立った東大陸では、二人とも食事に関しては全然文句を言う必要がなかったのを見ると、エミリアの故郷である西大陸と、東大陸とでは相当に環境が異なっている、ということもあるんだろうけれど。
この「食べ物」については、今回はちょっと唸らされました。ついに、真奥の口から魔界からエンテ・イスラに魔王軍が侵攻した理由と、その侵略と支配が失敗した理由について語られているのですけれど、真奥があげた支配が失敗した理由というのが、思わず唸ってしまうほどの含蓄ある意見だったんですよね。まさに根源的な理由、とでも言うのか。ある意味、なぜ人間がこのような緻密な社会システムを築き上げるに至ったか、の一番原点の部分が指摘されてるのです。そして、それは真奥たち悪魔では決して理解できなかったものであり、そして真奥が現代日本に飛ばされてきて知るに至ったものであった、というのもすごく納得出来ました。なるほどなあ、人間の有り様のすべてはそこから始まっているわけだ。
この真奥の見識には、本気で感心してしまいました。これは、それが当たり前である人間では中々思い至らない部分じゃないだろうか。
同時に、この部分を真奥がエンテ・イスラに侵攻することにした理由と絡めると、この作品の最終的な着地点が見えてくる、とも言えるんですよね。それは、天使と悪魔の正体にも掛かっていて、ガブリエルの暗躍や真奥の今の状態など、まさに幾多の要素がそこに収束を始めてる、という感じなんですよね。面白い!!

そして、今回の一番の肝は、何よりも鈴乃の度肝を抜かれるようなヒロイン勇躍! でしょう。いやこれ、ある意味ちーちゃんを上回る勢いでベルさん、ヒロインみたいになってるんですけど。
まさか、ベルさんがここまでデレた姿を見せるとは。マジで、デレてるんですけど!! マジでヒロインみたいなんですけど!! 普通に考えると、ベルさんが真奥に心傾く要素は最初からたっぷりあったんですけれど、ちーちゃんに遠慮する部分が大きかったのか、今までほとんどそんな素振りがなかったのですよね。それが、エンテ・イスラに戻った時、あの欠片の娘がくっついてきているとはいえ、余人を混じえない真奥と二人の旅というのは、よほど彼女の心に隙を作ってしまったのか、なんだかポロポロと本心がこぼれてくることに。
ただ、それだけ親身になることで真奥の方も随分心をひらいてしまって、こちらもついつい滅多と明かさない本心をポロポロと鈴乃にこぼすことに。ってか、この真奥が弱音吐くの、初めて見たよ!?
確かに、こればっかりは部下である芦屋たちや、後輩であるちーちゃん、複雑な関係にある恵美には決して明かせないもので、ある意味唯一フラットに寄り掛かることができるポディションに鈴乃がいて、鈴乃の側にもそれを受け入れる、というより積極的に引き出して身の内に入れてあげたい、という気持ちがあったからこそ成り立ってしまった告解なんだろうけれど、随分と踏み込んだ形になったよなあ、これ。真奥も、これだけ鈴乃に心許すとは、自分自身でも驚きだったんじゃないだろうか。
鈴乃自身、決してちーちゃんや恵美の場所に割って入るつもりはなさそうだけれど、正直これはかつてないガチヒロインシーンでしたからねぇ。
一方で、頑として保存食としてうどんを持って行こうとこだわったり、変な寝袋に入って満悦してたり、と変な娘属性もなんだか加速していたような……。ベルさん、ちょいと色出しすぎですw

で、今回の最大の衝撃の事実は……デュラハン号命名の真実w
デュラハンて悪魔は、エンテ・イスラには存在しなかったんだ!! じゃあ、なんでそんな名前を自分の自転車に名づけたのか、というと……全然魔王とか悪魔とか関係ないじゃん!! な、なんせ切ないというか世知辛いというか、情けない願掛けだw

ともあれ、状況はあまり進展していないものの、エミリアがオルバのもとに捕まっている理由や東大陸の悪魔侵攻の真実、他にも物語の根幹に関わるような話が色々と見えてきて、全体的に鳴動してきましたよ。
かなりメンタル的にやばいことになってるエミリアが、果たして真奥と再会した時どうなるか。今からちょっと楽しみになってます、これ。

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