エーコと【トオル】と真夜中の落雷少女。 (電撃文庫)

【エーコと【トオル】と真夜中の落雷少女(ラッキーガール)。 】 柳田狐狗狸/MACCO 電撃文庫

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わたしの名前は「エーコ」です。友達と呼べる“人”は居ませんが、つい最近“喋る人体模型”と知り合いました。深夜の学校を「不審者」が徘徊しているという噂が立ち、あらぬ疑いを掛けられたエーコ。疑いを晴らすため深夜の学校に忍び込んだエーコだが、屋上で焼け爛れた人間の死体を発見してしまい!?一人の少女が遭遇する、残酷で救いのない事件―。わたしはこれからの人生を一人で生きていく覚悟を決めている人間です。だから自ら進んで他人の心などに触れたくはありません。ひねくれ少女と喋る人体模型が織りなす、シニカルな学園ミステリー最新作!
え? この巻、挿絵なかったの!? そんなコメントを目にするまで、本巻に挿絵がなかったことに気がついておりませんでした。言われてみれば、イラストを見た記憶が無い! ただ、それが気にならないほど本文の方に集中していたようです。いやあ、だって面白いんだもん。
結局、人体模型【トオル】くんの正体がバレちゃっても、そのまま【トオル】くんとして居座るんだ。図太いのか開き直っているのか、中の人がどういう心境でトオルくんを続けているのか気になるところだけれど、少なくともエーコは中の人がトオルくんを続けて自分と接してくるのを許しているんですよね。これは妥協なのか許容なのか。何れにしても、彼女が目指すエーコ足らんとする生き方からすると、ある意味堕落なんだよなあ。そのせいか、この巻のエーコはかなり脇が甘い。ちょっと吃驚するくらいに心に隙を作ってしまうところがあったんですよね。それは人間性を取り戻しているという意味では歓迎すべきなのかもしれないけれど、緩みであり弱さである事は否定出来ない。積極的に自分から手に入れようとしたものではなく、ふとした心の緩みに滑りこんできたものを受け身で内に入れてしまっただけですからね。雪村先生との向き合わずとも真剣にぶつかった末に醸成された相互理解とは、ちと違う。何より、あまりに無警戒で無防備でしたから。それは、エーコらしくない、ただの女子高生のような振る舞いだ。
故にか、彼女は痛烈なしっぺがしを受ける。
こうしてみると、今回のエーコはかなり「振り幅」が大きかったように見える。A子という人格を停止したような存在になりきろうとしていたことからの反動なのか。えらく無警戒な振る舞いをするかと思えば、異常に過激な行動に打って出る。果たして以前のエーコなら、自分が犯人疑惑を患ったからと言って無実を晴らすためにあそこまで積極的に行動しただろうか。うーん、一概に断言できないなあ。彼女の行動基準って、微妙に見えないところがあるし。以前から、なんだかんだと物事に介入したがる節もありましたからね。
ただ、結構犯人扱いされて疲弊していたフシがあるんだよなあ。周りの目を気にするタマでもあるまいし。一体、彼女が本当のところどの部分を気にしていたのか。奥底の自覚すらないような本音は語られず、想像するよりほかがないのは1巻から引き続いてのことだ。結局のところ、キャラクターの本音は誰一人のものも想像するに任されている。エーコの心の声は、思っていることを語っているだけで本心を吐露しているわけではありませんからね。結局、言動から積み上げた事実の関連性から想像を組み立てていくしかない。それが、たまらなく面白いんですけれどね。それは、当事者であるエーコたちとほぼ変わらない立場から一連の出来事を見ているということでもあり、視点を非常に近しいところから見れているという感覚があるのだろう。臨場感?
今回の一連の事件は、もはや猟奇的と言っていいくらいなんだけれど、不思議と最初から無差別な暴力性というのは感じなかったんですよね。そのせいか、あまりグロいとは感じなかったんだけれど、あとから振り返ってみると相当にエグいんですよね。肉体の損壊だけじゃなく、被害者の精神をゴリゴリと削る文字通りの拷問そのものでしたし。それを実行してしまえた犯人が果たして異常者だったかというと……決してそういうわけでもなかったのが、余計にゾッとさせられてしまった。
最後まで救いなんてあったもんじゃなかったけれど、あの瞬間のエーコの制止の叫びだけが救いといえば救いなのかしら。結末にはなんの救いもなかったかもしれないけれど、エーコが感じたそれまで無駄だった、やはり要らないものだった、とは思わずにいてほしい。うん、そうなるとやはり雪村先生は大事なポディションなんだなあ。彼女自身の過去がどんなもので、その経験が今のエーコとの接し方にどう影響を与えているのかが今更ながら気になるところだけれど。

1巻感想