クラッキング・ウィザード ~鋭奪ノ魔人と魔剣の少女 (このライトノベルがすごい! 文庫)

【クラッキング・ウィザード 鋭奪ノ魔人と魔剣の少女】 紫藤ケイ/夕仁 このライトノベルがすごい!文庫

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天空都市“ヴァラスキャルヴ”の一画で探偵を営む主人公ヴァルは“鋭奪ノ魔人”の異名を持つ天才的魔術ハッカー。そんな彼の元に魔術器具開発企業の社長令嬢エーレフォーアがやってきて、母の形見である腕輪の奪還を依頼する。超おてんばな彼女にてこずりながらも仲間の情報屋やハッカーの力を借りて腕輪のありかを突き止めるヴァルだが、その裏にはある人物の黒い思惑が…。ヴァルは彼女の願いを叶えることができるのか!?
社長令嬢エーレフォーアが、「〜ですわますわ」口調の完全お嬢様系ヒロインにも関わらず、中身が野武士w むしろお嬢様属性のほうが後付で、幼少の頃から武者修行に出ていたようなバトル脳だったようなので、本性のほうが野武士のようなのだけれど、なかなかに面白いヒロインでした。超おてんばというよりも、この場合脳筋と言ったほうがよさそうな頭の悪さ、或いは何も考えていない、むしろ感じろ! なキャラでしたしね。
しかし、この作者もわりと多芸というべきなのか。これまでのファンタジー路線から一転、こちらは近未来におけるアングラサイドでの現実世界と仮想世界をまたにかけたハッカーバトル、と来たもんだ。この天空都市の成り立ちからして、元々ファンタジー世界だったみたい、と云うところが乙な面なのかもしれないけれど。まあ、ガチのハッカーものは難易度が高いので敢えてファンタジーから進化した世界を踏まえたのかもしれませんが。
ぶっちゃけ、主人公のヴァルがクールを気取っていますけれど、ヒネて斜に構えてる社会非適合者なので、ガンガンと話を盛り上げ進めていく原動力は、主にエーレフォーアのほうが担当。相方のケルベロスがまた妙味と愛嬌を持つマスコットで良い掛け合いをしてくれていたので、作品としての馬力はだいぶ高くてグイグイ読めた感じです。ただ、その分荒っぽいというか一度立ち止まってぐっと掘り下げる、という事はしないので、相変わらずこう深みにハマる感覚はないんだよなあ、この人の作品って。
象徴的なのが、ヴァルと交流のあるハッカー軍団。設定だけ見ているとキャラ的にも非常に味のあるメンツで賑やかで見ている分にも楽しかったのですけれど、如何せんモブの域を脱してないんですよね。わりと重要な役回りを担ってるし、盛り上がりにも必要な人材たちだったのに、個々に印象的なエピソードがまるでなくさらっとキャラを紹介されるだけだったので、最後まで十把一絡げな扱いで、ラストの展開は本来なら燃えるシーンだったのに、一山いくらのキャラが参戦してきても、とイマイチ物足りず、な印象だったのですよね。このへん、だいぶもったいなかった。これは、敵のハッカー軍団も動揺で、何かとそこにいるだけ、な所があったんですよね。正面からぶつかり合う事になる娘も、もう一声、ヴァルに入れ込むだけのワンエピソードが欲しかったかなあ。
でも、世界から爪弾きにされた事からくる人との壁、どうしようもない孤独に対する諦めとそれでも他人を求める渇望。そうしたヴァルが「トリックスター」として生まれたがゆえに抱えている鬱屈を、エーレフォーアが気持よく吹き飛ばしていくのは見ていて気持よかったです。やっぱり、エーレフォーアで愛でる作品だな、これ。

紫藤ケイ作品感想