ひきこもりパンデモニウム (MF文庫J)

【ひきこもりパンデモニウム】 壱日千次/うすめ四郎 MF文庫J

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史上最強の退魔師・日高見久遠は引きこもりである。肝心の悪魔がやってこないため周囲から家業をバカにされ、久遠が力を発揮するのは自宅警備のみ。兄の春太は妹を学校に行かせようと奮闘するが、久遠の引きこもりスキルは磨きがかかるばかり。そんなある日、ついに念願(?)の悪魔軍が襲来。だが、最強の悪魔王サタンすら久遠の相手ではなく、悪魔軍はあっさりと降伏。しかも成り行きでサタンが地獄に帰れなくなり、退魔師兄妹と悪魔王の奇妙な同居生活が始まってしまった!?最強なのに引きこもりな妹と優しい(?)サタンたちとお贈りするハートフルギャグラブコメディ!


あははっはっ、やばい、期待以上に面白い!! おすすめ!

自宅警備って名目だけなのかと思ったら、自宅に地獄の門があったのですね。なるほど、それなら自宅警備して悪魔の侵入を防いでいたら、世界を守っていることになるのか。でも、実際に悪魔が召喚されることはこの百年全くなく、退魔師の技はまったくの役立たず。しかも、この退魔師の技は悪魔にしか通じず、同じ退魔のちからを持つものにしか見えず、現実世界には物理的にまったく影響を与えないので、自然と退魔師は詐欺師呼ばわり。史上最強の力を持つ久遠も、そのせいで虐められて引きこもるはめに。
お陰で、悪魔のいない平和を満喫するどころか、どうか悪魔さんいらっしゃい、と悪魔の召喚を待ち望んでしまっている兄妹なのだけれど、実際悪魔がやってきた時に幾らなんでも諸手をあげて歓迎し過ぎ!! 歓待のレベルがVIP扱いもいいところに。それ、倒す相手だから。撃退しないといけない相手だから! サタンさんも困ってらっしゃるから。
ちょっとおかしいのは引きこもってる妹だけなのかと思ったら、妹を社会復帰させようとしている兄貴の方も話が進むにつれて微妙に頭がおかしいことが明らかになっていく。いや、微妙じゃないな、大いに変だな! 
全体に掛け合いのすれ違いっぷりや、ボタンの掛け違い、会話の発想のすっ飛び方、素っ頓狂なやりとりなど、とにかく可笑しくて、テンポよくポンポンと変な方向に跳ねていくので楽しいのなんの。
それでいて、ギャグ特有の無理やり感、強引さや荒っぽさがあんまりなくて、話の進み方がすごくマイルドでやさしいんですよね。誰かがひどい目にあったりするのを笑い飛ばしたりする系統じゃないので、お陰で、笑いも腹の底から笑えると同時にほんわかとなるものであったりします。これぞ、ハートフルコメディってかんじでしたねえ。
でも、このギャグセンスは前作の時から感じていた通り、ちょっと突き抜けたものがあります。いやあ、前作けっこうきつい展開の連続だったので、主人公たちの厳しい状況を思うとあんまり心から笑えなかったのからすると、久遠、春太、サタンのあんまり憂いのないのんびりとした家族間のバカ話は構える必要がなくて、安心して笑えたんですよね。その意味では、よりコメディとしての濃度は高まっていたんじゃないかと。
そう安心していたら、いきなりラスト近辺で急展開となり、終わってみるとほんのり目尻に涙が浮かぶイイ話になっていて驚愕!! いや、マジですごく良い話になっちゃったんですけれど。
今回の久遠と春太も、退魔師という仕事から世間から半ば排斥され孤立した過酷な状況であった上に、養子である春太に隠された日高見家の苦悩と秘密、そして早くして亡くなってしまった姉の残照など、切なくも重苦しい設定はしんなりと横たわっていたので、気になってはいたのですけれど、まさかこういう展開が待っているとは。春太に隠されていた秘密についてはなんとなく予想がついていたのですが、サタンについては全然気づかなかったなあ。うわぁ、全部わかってから振り返ってみると、こんなに愛情深い話もないですよ。切なくも胸があったかくなるイイ話じゃないですか。全員アホのくせに。アホのくせに。良かったねえ。
まわりまわって、みなが笑顔になれるハッピーエンドになれて、本当に良かったです。
これ、シリーズ続くのかな。このままここで終わっても綺麗ですし、そのまま続いてくれるのもこのアホな子たちを愛でられるので嬉しいのですけれど、この調子なら新作に新たにとりかかっても全然大丈夫そうなので、どっちでもばっちこーい、な感じです。
あー、面白かった。

壱日千次作品感想