スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの (ハヤカワ文庫JA)

【スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの】 籘真千歳/竹岡美穂 ハヤカワ文庫JA

Amazon

人間に奉仕するために造られた人工妖精。その一体の揚羽は、東京自治区の閣僚を殺戮し続けている人工妖精“麝香”の影を追っていた。その頃、揚羽の双子の妹である真白は、自治区総督の椛閣下が暗殺されたことを知る。自治区最大の危機を前に、揚羽と真白はそれぞれ、己の今後の人生を左右する選択を迫られる。守るべき者のために、己の全てを犠牲にする覚悟をした揚羽の運命は…揚羽をめぐるシリーズ4作のフィナーレ。
しばらく、時系列が錯綜している上に揚羽さんが複数人存在していらっしゃったので、大変混乱した。まあ、気づかなかった二巻での真白=揚羽は、今回は違いがよくわかったので致命的な事にはなりませんでしたけれど。ってか、揚羽と真白の違いはこうして並んで書かれると顕著に出てきますよね。思っていた以上に、真白が精神的に未熟だったように思います。それ以上に、揚羽が姉として非常に出来た人物だった、ってことなんでしょうけれど、椛閣下がこの愚妹にブチ切れてしまったのもさもありなんと納得してしまう。その生まれを考えても仕方ないとはいえ、あまりにも未成熟でメンタルが幼いもんなあ。それに、未熟であるという以上に拙いというかスペックが足りないというか、そもそも考えが足りない、というか揚羽を知っている身からするともどかしいし、その程度で揚羽を名乗り、アクアノートを襲名するなんておこがましい、と椛閣下が怒り心頭するのも完全同意なんですよね。揚羽も、結局この娘に身の丈以上のものを背負わせてしまったわけで、罪作りだわ。さらには挙句に、自分が就くはずだった立場に、真白を登らせてしまったわけですしね。椛閣下を除けば、やっぱり揚羽が一番総督の座にふさわしかったと思うんですよね。彼女の自己評価の低さの原因については今回、じっくり語られていますけれど、重ね重ね残念に思う所。
だいたい、揚羽さんは全部背負いすぎなんですよ。ただでさえ、男性側自治区を追放されることになった件だって彼女が全部負っ被った結果だったのに、更にこの上今回これですよ。この娘の献身には、身を切り刻まれるような切なさを感じてしまう。なんでもっと幸せになろうとしないんだろう。本当に細やかな幸福で、この娘は満足しちゃうんだから。せめて、何も期待していないような生き様だったならまだしも、陽平とのデートであれだけ心からの笑顔を浮かべていたのを見せられると、身につまされるなんてものじゃありません。ついに、陽平の旦那が亡き妻の事を棚に閉まって、今抱いている感情を剥き出しにして揚羽のことを掴もうとしてくれたのに。その手を、そっと包み込みぬくもりを刻んでから、握ることなくふわりと遠ざけるように行ってしまった別れ方は、あんまりにも切なすぎて寂しすぎて、ほんとに哀しかった。
鏡子さんが、このバカ姉妹をあれだけいつも怒鳴りつけ、慈しんだのもよく分かる。この娘たちは、本当に馬鹿だったんだから。でも、繋ぎ止められなかったんだよなあ。水淵のお父さんといい、こんなにも色々な人たちから愛されながら、この娘たちはその愛に報いて愛し返すやり方が不器用極まりなく、幾多の人を救いながら多くの人に痛みや苦悩や後悔を刻み込んでいってしまった。そのことに、多少なりとも憤りを感じずには居られない。
水淵先生が語っていたけれど、人類は他の知的生命にその存在を肯定し祝福してほしい、という根源的欲求を持っている、というお話。これは、他のSFでも度々見かける主題であり、すごく共感できる感覚なんですよね。人間という種の存在を知ってほしい、認めてほしい、肯定してほしい、いつまでも覚えていてほしい。いくつかの作品で、このテーマに沿った展開を目の当たりにしてすごく感激したこともありますし、本作でも揚羽という人工妖精という枠組みから外れた本当の意味での人と異なる知的生命体が、人をこれほど愛してくれたことに、水淵先生が抱いた感慨と感動は、とても胸に染み入るものであり、この方が感じた思いに共感できる。
でもね、その肯定は一方通行であって欲しくないんですよ。果たして水渕先生がどこまでもどかしさを感じていたかはわかりませんし、鏡子さんをはじめとする揚羽を知る人達がどれほど唇を噛み締めていたか、わかりませんけれど。揚羽が人を愛し肯定し祝福してくれるように、人と人工妖精の側もまた、揚羽を愛し肯定し祝福したかったはずなのです。もっとちゃんと晴れ晴れと、よくやったねと褒めてあげたかった。それを、きちんと受け取ってくれないことへの、もどかしさ、悔しさは如何ばかりだったか。貴女がたとえどれだけ満ち足りて幸せだったとしても、それに納得できるかは別である。また、納得できたからって悲しくないなんてことはないのです。でも、でも、みんなそんな揚羽の選択を、否定しないで肯定してあげてるんだろうなあ。
陽平も、鏡子さんも、椛閣下もそれぞれに悔しさを胸に秘めたまま、諦めることなく藻掻いて暴れて歩き続けていらっしゃいますが、その姿には敬意を払うと同時にやはり、胸に詰まるものがあるなあ、と思うのです。
真白さん、あーた呪詛ってる暇ないですよ、だから愚妹呼ばわりされるというのに、ほんとにこの娘は……この愚かしさこそが、愛おしむべきところなんだろうなあ。またぞろ、仕出かしそうで怖いのですけれど。

一応、シリーズはこれにてひとまずの完結。でも、場合によってはまた別の形でこの娘たちの行く末を見ることの出来る機会もありそうなので、そのあたりはぜひ期待したいところです。

それにして、まさかの「雪柳」の再登場と、鏡子さん相手の無双には思いっきり吹きました。あの鏡子さんが手も足も出ないとか、どんだけなんだ。なんか、彼女が出てる場面だけ雰囲気がぜんぜん違うあたり、このぶっ飛んだ風気質は、作者のお気に入りだったのかなあ、と思わざるを得ません。勿論、読者たる私も大のお気に入りで御座いましたよw
揚羽が総督で、雪柳が側近になってしまった東京自治区、という五稜郭の悪夢再び、な世紀末も見てみたかったなあ。世界、いい意味で破滅しそうですけどw

シリーズ感想