デスニードラウンド ラウンド2 (オーバーラップ文庫)

【デスニードラウンド ラウンド2】 アサウラ/赤井てら オーバーラップ文庫

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女子高生傭兵VS警視庁
マスコットキャラクターを撃つ!

借金返済のために女子高生傭兵を続けるユリの前に、台湾から美鳳という狙撃手がやってくる。同年代だった美鳳とユリは自然と仲良くなっていき、いつしかユリの学校の先輩・宇佐美玲奈も一緒に遊ぶ関係になっていった。
そんなある夜、ユリの携帯に宇佐美から1本の電話が入る。
「ユリ…お願い、助けて。あ、あたし、殺される」
そして銃声と、甲高い子供のような人ならぬ声。はたしてユリは大切な人を守る事ができるのか…?
泥だらけの逃走、迎撃、そして事態は群馬県へ。現実を生き抜くためにユリが撃つ、今度の敵は――警察だ!
何が正義かわからない? 簡単だよ、美味しいご飯こそこの世の揺るがぬ正義ってもんだ。

という訳で、台湾から美鳳ちゃんという美少女成分も多分に加味され、殺伐とした世界の中にもほんのりと少女臭が香しくなってきました。なんか、あらすじだけ見ると宇佐美先輩が美鳳に狙われ、今度は仲良くなった少女同士で殺し合いか、と暗澹たる気持ちにもなったものですけれど、幸いにしてそんなえげつない展開にはならず、普通に美鳳ちゃん、いい子でした。何しろ、1巻が善性をおもいっきり踏みにじるようなひどい展開だったからなあ。思わず疑ってしまうのも仕方ないじゃないですか。そんな正義や善意よりもただただ生き残る、生き抜く選択をしてしまったユリは、あの体験を通じてメンタル的にスレちゃうんじゃ、と心配もしていたのですが、今回はひたすら大切な友達のために奮起し、銃把を握りしめ、血反吐を吐きながらも諦めずに走り回る、という情厚き行動に出て、少なからずホッとしました。色んな物を生き延びるために捨ててしまったユリですけれど、正義よりも倫理よりも大事な人間としての部分は、頑として譲らずにいてくれたわけですから。
ただ、そうなると情に流されずビジネスライクに徹する松倉さんとは、どうしても咬み合わない部分が出てきてしまう。たびたび、味方でも必要とあれば見捨てる人、と言及されてきた人ですしね。冷酷だったり非情だったりするのではなく、恐ろしく現実的であるからこそ、ソロバン勘定は譲らないというだけで、決して冷たい人ではないというのは伝わってくるのですけれど、だからこそこの理詰めの人を動かすのは難しい。実際に、宇佐美先輩に助けを請われて飛び出していってしまったユリに対して、松倉さんは一切手助けしようとせず、ユリは単独で宇佐美先輩を守っての逃避行を敢行するはめになってしまいます。
ここ、本シリーズ通じてのポイントだったんですよね。如何に、松倉さんが主義主張をかえることなくユリを助けに行く展開になるか。単に助けに行くだけじゃあ、ちょっと問題もあったんです。ただ条件が整ってユリを助けに行くだけの理が積み上がった、というだけじゃあ本当の意味でユリが松倉のチームに入ったことにならず、まだ身内になりきらない冷たい関係のままだったと思うんですよね。金と理の他に、松倉チームの面々がそれぞれに、自分の中のユリを助けたいと思う理由が必要だった。この点、武島と大野については情が移っていたから最初からハードルは低かったんだけれど、やっぱり松倉さんが問題だったんですよね。この松倉さんが、果たして損得以外でユリを助けてやりたい、なんて思うだけの何かが果たして見つかるんだろうか、と。
この滅茶苦茶高かったハードルを、本作は見事に飛び越えてくれました。
いやあ、松倉がユリを助けたいと思うだけの理由を見つけてしまったシーンは、思わず喝采をあげて頷いてしまいましたね。あれほど松倉さんがユリを必要と思う理由として納得できるモノはありませんでしたよ。松倉さんのキャラを曲げないまま、あそこまでストンと腑に落ちる理由を出してくるとは、ある意味痛快ですらありました。

しかし、ユリって松倉チームの面々からは実戦能力については随分と低く、というかあんまり役に立ってないみたいに言われてるけれど、今回殆ど独力でPくんの追撃から一般人の宇佐美先輩を抱えたまま逃げ切ったんだから、生存能力については結構なもんだよなあ。ここぞという時の危機回避能力、突発的な判断力は今回見てる限りでもなかなかのものだったんじゃないかと。前回のロナウドに比べて、今回のPくんは怪物性ではかなり劣るんですが……いや、これロナウドがヤバすぎたんですよね。あんな不条理で滅茶苦茶な怪物が居てたまるか。デビュー戦の相手としては破格もいいところです。あれと比べるほうが間違っていて、P君も十分バケモノなんですが……警察もなんだってこんなあからさまにヤバイもん運用してるんだ。これで正式にはP君シリーズ、ファミリーとして一通り祖父母両親に恋人、と一家族まとめて運用しているあたり、表向きと実態の凄まじいギャップのグロテスクさは、ドン引きものです。よくまあこんなん考えるよなあ。
ともあれ、暴走するP君の追撃から辛うじて逃げ続けるユリは、よっぽどロナウドとの戦いが経験値になってたんでしょう。あんまり普通の任務には役に立ってなかったみたいですけれど、土壇場の度胸やらどうしようもない相手とどう立ち向かうか、についてはそこそこ一端になってたんじゃないかと。面白いことに、今回ゲストの美鳳ちゃんが腕前こそピカ一なものの、実戦については殆どバージンというある意味ユリよりも未熟なところのある子だったのも、今回ユリが頼もしいなあ、と思えた要因だったんじゃないでしょうか。孤立無援でほんと、折れずめげず頑張ったよなあ、ユリは。
そのユリが守ろうとした宇佐美先輩が、実はろくでもない人でした、なんてこともなく、日常生活で借金抱えて他の生徒達からも距離を置かれている中で、一人ユリに積極的にかまってくれた人となり通りの、芯からイイ人だった、というのもユリのガンバレた原動力なのでしょう。今回、美鳳ちゃんも宇佐美先輩もちゃんとイイ人で良かったですよ。これで、実はひとでなしでした、庇った意味ありませんでした、助けてしまったのが間違いでした、なんてなると本格的にめげますもんね。
少女二人が寄り添っての逃亡劇、というと同じアサウラさんの【バニラ】を容易に連想できて、懐かしかったです。まあ、あれは本当に二人きりの世界すべてを敵に回して暴れまわる話でしたから、同じB級アクション風味でも随分と種類は違ってくるのですけれど。

そして、今回もほんとにご飯、美味しそうでした。【ベン・トー】って、実のところ「お弁当」がメインであって本当の調理した料理、というのはあんまり出てこない、出てこれないんですけれど、こっちには松倉さんという生粋の料理好きが居てくれるので、こう、ほかほかで熱々のできたてのご飯が出てくるわけですよ。「お弁当」でさえ、あれだけ美味しそうなのに、この作りたての御飯のまた、美味しそうなこと美味しそうなこと。それを、ユリがまた実に美味しそうに食べるんだわ。やっぱり、飯が美味そう、という描写力についてはこの作者は頭一つ二つ抜けてます。これを体験してしまってると、ライトノベルで料理モノが出てきても、生半可なものではぴくりとも琴線に触れそうもありません、ハードル上がるなあ。
……焼きサンマの美味しそうなこと……うはあ。そして、ラストのお握りのっ、お握りの……。やっぱりお弁当も最高です!! くぅぅぅ……お腹すいた。松倉さん、ウインナーきちんとたこさんに切るんだ。この人、男の料理的な大雑把とは程遠い細やかさだよなあ。

1巻感想