ブレイブレイド4 - 神葬の魔剣 (C・NOVELSファンタジア)


【ブレイブレイド 4.神葬の魔剣】 あやめゆう/しばの番茶 C・NOVELSファンタジア

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殺戮と破壊をくりかえす『虚工物』をばらまき、帝都を百年戦争以来の恐慌に陥れて飛び去ったウィル。勇者として覚醒したローズは、力ずくでも彼を止めることを決意し、アニスとユスティンも従う。いっぽう、ジンもまたウィルのあとを追うが、「友達」に対し、どうしたいのかわからないまま。そんな彼に父は言う。「これが終われば―ジン、おまえが『英雄』だ。世界を救って来い」と。百年戦争の英雄の言葉にジンは!?シリーズ堂々完結!
いやあ、参った。ジンは最後まで凄まじい主人公だった。何しろ、最後の最後まで敵か味方かわからなかったもんなあ。
ジンという少年が定めている基準・ルールというものは、実際はすこぶるシンプルなもののはずなんですよ。これまでの彼の言動や彼を評する周囲の人達の解釈からしても、単純明快というのは間違っていないと思う。一本線を引いて、そのラインを超えるか超えないか、ただそれだけの基準のはず。なのですが、そのラインがどうしても他の人間には理解できない。いや、理解できないわけではないのか、感覚として捉えられないんですよね。これは、読んでいる側のこちらも同様で、彼の考え方は全く複雑でもなんでもなく、一本筋の通った明快なものであるはずなのに、どうしてもよく分からない。あまりにも想像の上を行き過ぎてて、認識し切れなかった、というのが正しいか。
お陰で、ジンという人物はとにかく何を仕出かすかわからない得体のしれないとんでもない人間、という認識になってしまう。これは、ジンという人間のあり様を十全理解している人たちにとっては、なんでこんなわかりやすいのに分からないんだ? と首を傾げてしまうところなんでしょう。ウィルやマキナなんかはこの類で、エリスなんかは自分ではわかっているけれど、他人には説明できない感覚的な理解、といったところか。
面白いことに、ジンの在り様というのは理解する=同調してしまう、という傾向があるらしく、ローズを筆頭に彼の生き様がどんなものか認識してしまった人たちは、それを嫌悪するか興味を抱くか無関心かの区別なく、それぞれがくびきを脱して自分に正直になっていく。それはしがらみや他人からの干渉を無視するということであり、結果として好き勝手に動き出すという事になる。ただ、そうやって自由になった人たちは同時にその束縛から脱した自由に対して責任を積極的に負おうとするので、みなが片っ端から好き勝手しだしたわりには悲惨なことにはなってないんですよね。ひどいことにはなっているけれど(苦笑
でも、その中でもジンはやっぱり特別というか逸脱していて……こいつ、ほんとに自分の設定したルールに対して妥協とかしないんだよなあ。そこには例外がまるでなく、相手が神様だろうが自分であろうが容赦がない。
彼を評する言葉は色々尽くされていたけれど、一番興味深かったのが、彼は死ぬほど我慢できないことは絶対に我慢しないけれど、死ぬほど我慢できないことでなければ概ね我慢してしまう、という感じの誰が言ったか忘れてしまったけれど、こんなセリフがあったんですよね。
そうなんだよなあ、一度行動を始めたあとのジンのあまりにも苛烈で容赦のない激動に目を奪われがちでついつい触れると爆発する危険人物みたいな印象があるけれど、むしろジンって尋常じゃなく我慢強い人物なんですよね。常軌を逸しているほど、自分を殺せるといっていいくらい。撃発するまでの安全性という意味では、そこらの人間よりもよほど安全なのかもしれない。ただ、一度火がついてしまったあとの不可逆性が筆舌しがたいというだけで。
そんな意味でも、ほんとシンプルなはずなのです。その単純明快さを明瞭に見極めていたのが、今回の騒動を引き起こしたウィルだったわけですね。彼の真意については、終わってみるまでほんとさっぱりわからなかったんですけれど、一旦全部ことが終わってから、イルマの指摘通りに彼のやったこととその結果を見ると、思わず呻いてしまうほど巧妙で、しかし明快だったわけです。
いやほんとに、ジンといいウィルといい、こんなにわかりにくい明快さという矛盾には心地よさすら感じるわけで。やっぱりこいつらが捻くれてるからですよね!!
だから、マキナのストレートな感情表現は、実にまっすぐで清涼ですらありました。あれを真っ直ぐとかストレートとか感じる時点で相当に感覚が歪められているような気がしないでもないですが、少なくともこの娘のカクカクと角ばった乙女心はちょっとマシーナリー掛かってるけれど、むしろそれが良いという、ちゃんとわかりやすく乙女心していて、ある種の癒やしでありました。普通に読んでると、どうも超悪そうな薄ら笑いしか浮かんでこないもんなあ、これ。

勧善懲悪モノとは一線を画した、かといってピカレスクロマンともまた違う、「みんな」ではなく「自分」に従った善悪の軛を脱したルールに基づくダークヒーローの、常識を吹き飛ばす痛快さを、どこか怖気じみたものと共に味わえる、なんとも凄い物語でした。
これで、ちゃんと爽やかなハッピーエンドで終わるんだから、大したものです。
最初のシリーズといい、この二番目のシリーズといい、他とはひと味もふた味も違う独特の感覚を味わえました。こりゃ、次の新作も期待せざるを得ないですなあ。あー、面白かった!

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