魔王殺しと偽りの勇者1 (ファミ通文庫)

【魔王殺しと偽りの勇者 1】 田代裕彦/ぎん太 ファミ通文庫

Amazon

四人の“自称"勇者たち。魔王を殺したのは一体だれ?

“本当"に大魔王を打倒した勇者を見つけだせ――王宮戦士のエレインは、その不思議な命令に首を傾げた。
十日前、百年に一度復活すると云われる大魔王が打倒され、アルブリオ王国は歓喜で満ち溢れていた。
そんな中、国王に内密に呼び出されたエレインは四名もの人物が「自分こそが大魔王を倒した勇者である」と主張していることを知る。
さらに、堅物な彼女に用意された協力者は王族でありながら魔族に寝返り、牢に幽閉されていた青年、ユーサーだった。
魔族を尊重し、不遜な態度を貫くユーサーに苛立ちを覚えながらも自称勇者を訪ねるエレインだったが……。
果たしてエレインは勇者たちの嘘を暴き、真実を手繰り寄せることが出来るのか?
異色のクライム×ファンタジー、開幕。
なにこの「大魔王殺人事件」。百年に一度復活するという大魔王を倒したというのだから、どれだけ激戦が繰り広げられたのかと思ったら、なんとその死因はまさかの刺殺。それもどうやら不意打ち紛いの通り魔的犯行だったようで……だから普通に殺人事件じゃん!
ところが、この事件が普通のミステリーと違ってくるのはここからで、本来ならまず容疑者を選出し、犯行を否定する容疑者の中から真犯人を見つけ出す、という流れになるのだけれど、この事件は逆に容疑者全員が自分がやりました、と殺害を自供、ならぬ主張しているのであるので、主人公たちは彼らが犯行を行った証拠を見つけ出すのではなく、彼らが犯行を行わなかった事を証明していかなくてはならないのだ。
そして、エイレンとユーサーはこの四人の容疑者の嘘を暴き、主張を覆し、本当に大魔王を殺したのは誰なのかを探しださなくてはならない。そのために、順番に容疑者の元を訪れ、面談を開始するのである。
……完全に内容がミステリーそのものである。作者の田代さんというと、元々の出が今はなき富士見ミステリー文庫。富士見ミステリー文庫というと、ミステリーしてないじゃん、という側面でも有名な部分がありましたけれど、田代さんはその中でも真面目にミステリーやってた人なので、まわりまわって原点に帰ってきた、というべきなのかもしれない。
さて、事件解決に乗り出したでこぼこ二人組のエレインとユーサー。頭は回るが皮肉屋で口の悪い魔族のユーサーと、真面目で融通のきかない脳筋のエレインというあからさまに相性の悪そうなコンビなんだけれど、このエレインが単細胞な分異様に素直ないい子なので、ユーサーの口の悪さにムッとしたり、からかわれてプンスカと怒ったりもするのだけれど、彼の発言が正論だとどれほど不都合なものでもあっさり納得して受け入れてしまうので喧嘩らしい喧嘩もなく、ユーサーも肩透かしを受けてか決してエレインを必要以上に虐めることもしないので、案外と良いコンビで機能していたりする。ユーサーの身の上はかなり複雑なようで、魔族でありながら元は王族だったらしいややこしい事情が背景にあるようなのだけれど、敵である魔族であり大魔王の配下であり態度も悪い、という人物にも関わらず、彼の言うことに目立った反発もせずウンウンと頷いていうことを聞いているエレインは、ちょっとかわいくなってくるくらい素直な娘なんですよね。世間ずれしていないというか、わりと天然も入っているのかもしれない。そんな彼女に、ユーサーも段々いびるどころか逆にあまりの素直さに心配になってきたのか、結構気をつかって色々とフォローし出してしまったのにはちと笑ってしまった。
さて、大魔王殺害の真実を追求していく内に、そもそも大魔王とは何者なのか。魔族とはどういう存在なのか。今もリアルタイムに伝わっている大魔王の伝承と、アルブリオ王国建国の謎、勇者の真実、そもそもユーサーという人物が何者なのか、という国の歴史に纏わるようなあれこれが垣間見えてきて、単純に殺人事件の真相を紐解くだけ、とは行かなくなってきた模様。もっとも、まだ尋問は四人の容疑者のうち二人しか終わっておらず、まだまだ謎解きははじまったばかり、という様相。いや、1巻費やして容疑者全員にもまだ逢えない、というのはかなりゆっくり進行じゃないですか?

田代裕彦作品感想