よろず屋退魔士の返済計画 2 魂縛りの少女 (オーバーラップ文庫)

【よろず屋退魔士の返済計画 2.魂縛りの少女】 SOW/蔓木 鋼音 オーバーラップ文庫

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洋館! 海! そして薄幸の美少女襲来!

「もう夏かぁ……海にでも行きたいものだな」
莫大な借金返済のため、「死者専門の何でも屋」を開業した追儺狗朗(ついな・くろう)と九十九みぎり、そして新たに押しかけてきた神堂葛(しんどう・かずら)の三人。
相変わらずのヘンテコな依頼にドタバタしつつも、たまにはということで海へ遊びに来ていた一行のもとに、狗朗を狙う術士の少女が現れる!
狗朗の実家でもある「追儺一族」の因縁に縛られた少女に隠された謎とは! ?
借金返済コメディ第二弾、今回もフルスロットル!
凄いなあ……いや、みぎりの度量の広さには思わず唸らされてしまった。彼女ってば、実質その人生を狗朗の為に捧げてきたようなもので、ずっと狗朗の事を待ち続けていたんですよね。それで、ようやく願い叶って狗朗の身請けが出来たと思ったら葛なんてお邪魔虫が後からくっついてきてしまった。正直、面白く無いと思うんですよ。葛という娘自体、酸いも甘いも噛み分けた狗朗と違って良い所のお嬢様で苦労知らずの世間知らずでプライドばかり高い扱いにくい娘で、決して無条件で仲良く出来るような娘さんじゃないわけですよ。その上、狗朗に対して憎からざる感情を抱いている。敵です、みぎりにとっちゃあ敵以外の何物でもない。自分と狗朗との生活に紛れ込んできた異分子であります。そんな葛に対して、当初から辛辣な態度を取っていたみぎりに、まあ無理もないよなあ、と思っていたのですが、ここからが彼女を見損なっていたところでして……。
葛は、前回の事件をきっかけにそれまで長い間狗朗を見下し酷い態度で接し続けていた事に大きな負い目を抱いていて、一生懸命自分を繕って不遜に振る舞ってはいましたけれど、一枚皮を剥くと心身ともに大きく傷ついて、自分を追い込んでいたのでした。その挙句、必死に自分は役に立つとアピールしようとして、尽く失敗してしまい、新堂の保護をハズレて裸一貫の自分がどれほど役立たずか思い知ってしまい、へこむやしぼむわ、報いようとした狗朗に逆に迷惑をかけてばかりだわ、とかなり深刻に精神的にメタメタになってしまっていたわけです。
みぎりは、狗朗が気付かないような深く細かい部分まで葛の状態をちゃんと見抜いていて、なんちゅうかなあ……ずっと息を止めてしまって膨らむ一方だった葛の張り詰めた心を、真っ向から突っ込むことで解き放ってしまったのでした。それも対等の立場で、これ以上引け目を与えないように、受け止めきって吐き出させたのです。あのお風呂で、葛が堰を切ったように泣きだしてしまったシーンにはほとほと感心してしまった次第。それ以降、葛が完全にみぎりに懐いちゃうんですよね。あの気難しかった娘が。
ほんと、大した女ですよ、九十九みぎりという人は。メインヒロインであるんだけれど、完全にこの娘を中心に物語やキャラクターが動いているのがよく分かる。女王というか女将さんというか、1巻でも彼女こそが牽引役だと感想で書いていましたけれど、単に狗朗を尻に敷いている、というだけではない多くの人の光となり、支えとなる人なのだというのが、この二巻を通じて実感した次第。そんなみぎりだけが、異能とは縁のない一般人である、というのが不思議で面白いんですよねえ。何の力もないにも関わらず、狗朗や葛を庇護してるのは間違いなくみぎりなんですもの。
そんなみぎりに対する狗朗の接し方も、幼なじみ故の気安さの中に確かに憧憬めいたものが感じられるんですよね。守られているが故に、絶対に守らなければならない、という確信。騎士の忠誠めいた絶対命題がかいま見えるわけです。それが、1巻でも触れた、お互いに自分の存在、人生を相手に捧げ尽くした関係につながっているんだろうなあ。そして、それこそがこの二人に幼馴染という関係以上の深度を感じさせる空気を醸しださせているのではないだろうか、と。いやね、そんな二人だからこそ、葛が介在する余地なんてどこにもないと思ってたんですよねえ。故に、その葛を懐に入れて家族に迎え入れたみぎりは、本当に凄い女だと感嘆させられたわけです。
やっぱり、魅力的なヒロインと、味わい深い人間関係があるとお話は面白くなりますよねえ。


1巻感想