まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る! 」 (8) (カドカワコミックス・エース)

【まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る! 」  8】 石田あきら/原作:橙乃ままれ 角川コミックス・エース

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長らく続く人間との戦争に和平をもたらすべく、魔族の大会議・忽鄰塔(クリルタイ)を招集した魔王。各氏族の思惑を調整するための交渉と工作の末、光明が差したかに思えたその時、思いもよらぬ事態が――。
これまでほぼ人間界サイドでの描写が続いていた「まおゆう魔王勇者」ですが、この「忽鄰塔」から本格的に魔界サイドの描写も増えてくるんですよね。この8巻など、ほぼ全編にわたって魔界編。それも、忽鄰塔での高度な交渉戦が主体となるという贅沢な作り。
相変わらず、情報の取捨選択と伝達が抜群に上手いですわ、この漫画。交渉戦がメインというだけあって、各氏族の思惑や妥協点、それに当て込む魔王側の手練手管や彼女たちの外側で蠢く様々な思惑など、非常に情報量が多い上に、ちょっとでも重要な要点を逃すと何がなんだかわからなくなりかねないという危険性がかなり高い場面だったのですが、事前の下交渉や緊迫の駆け引き、そして大逆転の一手に至るまで過不足なく描かれていて、本当に面白かった。この構成力は特筆に値すると思う。
惜しむらくは、関門都市の砦将の登場のインパクトがもう少し大きければ、というところか。あれは、蒼魔族の思惑をギリギリでひっくり返すという大逆転の一手を、魔王や勇者の思惑の外から火竜大公などが動いて導いてくるまさに肝となるシーンであり、その辺りは実に痛快に決まっているのだけれど、あの「人間」を代表とする集団が魔界の大氏族の一角として最高決定機関の一員に加わる、という意味合いがちょっとまだはっきりと伝わっていなかった気がするんですよね。
あのシーンは、原作で読んだ時は価値観とか魔界と人間界の対立二極構造を根底から覆すというパラダイムシフトを決定的にしたシーンでしたからね。ここから、表舞台としても本当の意味で世界は「人間対魔族」という構図が消え去って混沌としていくわけですから。
とはいえ、十分といえばまずはこれで十分か。なにしろ、その後の魔王暗殺! がインパクト全部持ってっちゃいましたからねえ。あれは、執事の爺さんの仕事じゃないかと思っちゃうよなあ。爺さんの「弓兵」という肩書がどんなものか、この時点ではよくわかっていませんでしたから。

しかし、一番ニヤニヤさせられたのは火竜大公と青年商人のやりとりか。あの青年商人の嫌そうな顔が素晴らしい(笑
この人があそこまで主導権を誰かに一方的に握られてしまったことって、今までなかったんじゃないだろうか。勇者に振り回された時以来か。あそこでの出会いが年貢の納め時のスタート地点だったわけね。

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