聖剣の姫と神盟騎士団 III (角川スニーカー文庫)

【聖剣の姫と神盟騎士団 3】 杉原智則/Nidy‐2D‐ 角川スニーカー文庫

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聖剣団部隊長のスィー・ランの知らせを受けて湖の王国ベリンダを訪れたフィーネとダーク。ベリンダの女王が、失われた魂を呼び戻す神器「反魂珠」を託すというのだ。女王からその条件を聞いたフィーネは、スィーの忠告に反してすぐさま妖精族の“試練”に挑む。かくして黒魔術との因縁深い“ガクレオの城”に向かったフィーネたちだが、そこには神話の時代から続く恐るべき真実が待ち受けていた―!?
えええええーー!?(笑
いやいやいやいや、イアンとハスターさんなにやってんすか!!
よりにもよって復讐しに来た相手のダークに口先で誤魔化されて、良いように使われてしまう二人に唖然というか爆笑というか、アホだろうあんたら!!
カラー口絵に描かれていたフィーネとダークにハスターとイアンが加わった四人パーティーで怪物に立ち向かってる構図を見た時は、なんぞこれ、とあんぐりと口を開けてしまったものですが、実際の内容ときたらまさになんぞこれ、というチョロさで、もう「えええええ」と笑うばっかり。
ダークの口先だけで自分を恨みつらみで殺しに来た相手を指揮下に収めて、ダンジョン攻略の先兵にしてしまう手練手管も凄いけれど、それ以上にこの二人、頭が弱すぎる。いや、だからイアンは良いようにダークにあしらわれていたわけだし、ハスターさんはわりと切実に軍人として無能を晒してしまっていたわけだけれど。
でも、ダークを頭に据えてとりあえず戦うことに専念した時のイアンとハスターの強いこと強いこと。ダンジョンのモンスター群を殆どもろともしなかったことも大したものだけれど、あの竜もどきの凶悪な兵器を相手に曲がりなりにも太刀打ち出来ていたのは冗談じゃなく凄い。ダークがイアンをあれでも聖剣団の幹部連中に準じるぐらいの強さはあると評してますけれど、マジで一騎当百ぐらいは行ってるんじゃないだろうか。頭使わなかったら優秀なのねw
まあ頭の弱さについては、我らがヒロインのフィーネさんもあんまり変わらんレベルなので、ダークの苦労が忍ばれるばかりであります。最近のダークときたら、かなり切実にフィーネの教育か調教かわからんけれど、躾の必要性を痛感しているようですし。……でも、ちょっと前みたいに他人事で腰が引けていて逃げ出す素振りはあんまりなくなってるんですよね。フィーネと一緒くたにされることについても諦めているのもあるんだろうけれど、あまり嫌がらずについてきているようになってるし、フィーネの本心から求める事柄については先回りして手を差し伸べられるように立ちまわっているし。果たして、彼がどれだけ自分の立ち位置、立ちまわっている現状を理解しているかは不明だけれど。この捻くれ者は、自分の本心は持て余しそうだしなあ。
一方で、単純バカで鈍さ極まっているフィーネなんだけれど、今回わりと決定的なシーンで気づくべき所に直面してるんですよね。敵の手に落ち、精神的にも弱り、自分がどれだけ一人きりになることを恐れていたか、慕っていた兄を失った事への恐怖、母と決別してしまった事への悲しみ、そして聖剣団から次々に仲間たちが姿を消し、拠り所だった父親は魂を抜かれて居なくなってしまった。彼女自身が実感していた以上に、フィーネは孤独感を胸中にわだかまらせていたわけです。それが、渦中において顕在化してしまったまさにその時に、自分が一番つらかった時から今の今まで文句も言わず(フィーネ主観)、ずっと側にいてくれた人が居たことに気づいたわけです。そして、心折れそうになったまさにその時に、その人が自分を迎えに来てくれた。
これ、何気に決定的なシーンですよ。
フィーネの側からこれほどダークという存在を意識してしまうシーンはこれが初めてだったんじゃないでしょうか。
と、フィーネの視線がダークに向いたと時を同じくして、逆にダークはフィーネの周りに元の仲間たちが戻り始めて、逆に自分の居場所がなくなっていくような感覚に苛まれ、狼狽し始めてるんですよね、これ面白い構図だなあ。1巻で既にダークのこの迷走は予期していた所だったのですけれど、この男ホントに自分の居場所を作るの下手だったんだなあ。虚言だけで世渡りしてきて、自分すらもそれを信じて立ちまわってきただけに、集団の中で身の置きどころを持った事が今までなかったのでしょう。これって、結局自分でのたまわっているほど自分に自信があるわけではなく、むしろ自分が人の輪に入れない弱くてヘタレた人間だと心の奥底では思っているのではないでしょうか。ダークの自分を大きく見せようとする口上や発言は、自分を鼓舞している部分も多いんだろうなあ。
これはどうやら、ダークの方が腰引けて逃げに入る感じなので、ここは後ろ振り返らずに突っ走ってきたフィーネが今度は後ろ振り向いて逃げ出すこいつを踏ん捕まえて欲しいところです。ダークからの片想いってだけだと、やっぱり寂しいですもんね。

さて、今回はランの故郷である妖精族の国に訪れることで、これまであんまり知られていなかった神話の中の真実と、そこから帝国が黒魔術と関わった理由の一端が垣間見えてきて、どうやら黒魔術が皇帝の単なる趣味の産物と限らないんじゃないか、という可能性が出てきたわけだけれど、もう実家捨てて帝国出奔したイアンはともかくとして、愛する弟を帝国に残しているハスターさんはどう立ち回るつもりなんだろう。このままダークと関わりあうのはかなり危ない橋だと思うんだけれど。

杉原智則作品感想