Fランクの暴君 (2) ―天才の華麗なる暴虐― (電撃文庫)

【Fランクの暴君 2.天才の華麗なる暴虐】 御影瑛路/南方純 電撃文庫

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弱肉強食の学園に君臨する“七君主”。藤白カンナは、学園の最底Fランクでありながら、そのうち2つの称号を手中に収めた。彼の次なる標的は、反派閥“アンチリヴァイアサン”のカリスマ、“虚構”のエフ。自身をエフと偽り、組織乗っ取りを企てるカンナと、それを阻止せんとする本物のエフ・茅ヶ崎ユキトだったが、しかしカンナは、その更に上をいった。“七君主”のひとつ、“憤怒”の称号をも手中に収めんと、彼は行動を開始する。『空ろの箱と零のマリア』の御影瑛路が描く、知能と知能がぶつかり合う裏切り下克上ストーリー!
凄いな、ここまで徹底して鬼畜外道を貫く主人公は滅多と居ないぞ。普通ならどんな外道な主人公でも、内なる良心との鬩ぎ合いに苦しんでいるものだったり、善に通じる目的のために敢えて心を殺しているパターンが多いんだが。或いは、本当に心の底から邪悪な存在であるかするものなんですが、このカンナはどちらの傾向からも外れている。
彼は心から他人を蔑み利用するだけの存在と見下し、誰にも心を許さず信頼もしていないのですけれど、1巻を読めばわかるだろうけど決して生来悪人だったわけじゃなく、ある意味エリカに成り代わり、彼女の代わりにその在り方を体現しているとも言えます。
1巻のあれを、エリカを絶対女王の牢獄から開放した、と捉えるのなら、カンナは彼女の代わりに彼女の思想の正しさという牢獄に身を置いたのでしょう。だけれど、カンナ自身は果たして明確にそれを自覚しているとは到底思えません。だからか、1巻のエリカを倒そうとしていた時と違って、彼の飽くなき野心には熱量が足りないような気がします。目標は明確でありながら、そこに到達した後に自分が得たいものがなんなのか、彼は一切考えているようには見えないのです。いや、そんな発想すらないような気すらします。
空虚、或いは抜け殻めいた無機質さが、彼の野心には垣間見えるのです。
ですが、その無機質さこそが、彼の中から人の心を取り除き、より効率的に、悪魔的に人心を弄び、手のひらの上で転がすだけの才覚と技量と冴え渡らせているようなのです。今のカンナは、むしろエリカを追い落とそうとしているときよりも、遥かにその権謀術数に切れ味、鋭さを増し、人間性を逸した手段の選ばなさを際立たせている。
彼に歯向かおうとする幾多の人々の思惑をすべて先読みし、シナリオを棒読みする大根役者のように無様に立ち回らせ、軽々と尊厳を踏みにじり、贄として食いちぎる。まさにこの2巻は藤白カンナの独壇場でした。今回の一件で、彼の肝を冷やすようなことを仕出かしたモノはいたでしょうか。ほぼ一から十まで、彼の思うとおりに学園は蹂躙されました。

しかし、藤白カンナは本当に、今の自分自身にこれからも耐え続けられるのか。
完璧に思われた彼の非人間的な心を、しかし七海がかつて発したいずれ誰もいなくなる、という言葉が繰り返し苛み続けています。ふとした瞬間、ぐらりと揺れる彼の人間である部分。本当に一抹だけ、この2巻においてわずか一度か二度のゆらぎは、しかし彼がやはり人間である事を示していて、彼が知らず知らず心をすり減らしているのではないかという危惧を感じさせるのです。七海に心を許してしまいそうになった僅かな刹那、かいま見えた彼の弱さが、なんだか無性に愛おしくなってしまいました。
どれほど非道で冷酷で外道であっても、彼はどこまでも人間なのです。

比して、仮面を被った藤白カンナの偽りのキレイ事を、素顔と本心で同じように綺麗な言葉で語る本物の善人がいます。正義の担い手がいます。弱者たちを助けようとする改革者が居ます。本物のエフ、茅ヶ崎ユキト。カンナの絶対に相容れぬ敵、不倶戴天。
しかし、絶対的な善である、混じりけのない純白の綺麗さを誇る彼は、それ故に心底気持ち悪い。彼はさながら聖人で、だからこそ非人間的で、ああともかく、気持ち悪くて吐き気がする。嫌だ、こいつは本当に嫌だ。
本物のユキトにしろ、偽物のカンナにしろ、彼らの口から吐き出される綺麗な言葉に惹かれ魅了されるこの学園の生徒たちは、どれほど救いのない世界に住んでいるんだろう。あんな、うそ臭い綺麗事にのめり込んでしまうなんて。嫌悪や忌避感を覚えるのではなく、麻薬でもかがされたみたいに感涙し感動して打ち震えるなんて。この学園、カルトそのものだな。
芽衣の変貌も、左から右への極端の移行と考えると、カルトの俎上ではさほど変わっていないのかもしれません。確かに彼女の変化はカンナにとっても予想外にあたるのかもしれませんけれど、正直同じ俎上にある限りはそこまで脅威になるとは思えません。それよりも、むしろ彼に致命的な影響を与えるのは七海であるのでしょう、やはり。そして、もう一人。
エリカ様、再誕。
果たして、もう一度彼の前に立とうとするかつての絶対女王が、あれからどうなったのか。もし、変化しているのなら、それは七海と同じくカンナにとって再び致命的な敵として、或いは救いとなるのかもしれません。もし変わっていないのなら……もしくは、より完璧な絶対女王となって帰ってきたのなら、再び王座が入れ替わるだけで何も変わらない気がします。牢獄に誰も残ることなく囚人たちが開放されるのか。物語の決着点を、そろそろ想像し出してもいいのではないかと。

1巻感想