パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)

【パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から】 似鳥鶏/森川聡子 幻冬舎文庫

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証拠よりメレンゲを、手錠よりケーキを。

パティシエに転向した繊細すぎる元・刑事。
事件解決の裏には、必ず彼がいる。

警察を突然辞めた惣司智は兄の季が継いだ喫茶店でパティシエとして働き始めた。鋭敏な推理力をもつ智の知恵を借りたい県警本部は秘書室の直ちゃんを送り込み難解な殺人事件ばかり相談させている。弟をお菓子作りに専念させたい兄は、なくなく捜査の手伝いを。人の良い兄の困り果てた事態を見かねた弟は、しぶしぶ事件解決に乗り出す羽目に……。
華麗な解決と究極のデザートを提供する、風味豊かなミステリー。
どうもこれ、探偵役の智が性格暗そうなので(作中でも兄にハッキリと暗いと明言されている)、読みにくそうだなあと思い込んでいたのですが、そうした雰囲気の暗い重いイメージを一瞬にして払拭してくれたのが、事件を持ち込んでくる直ちゃんなのでありました。
なにこの娘、キャラクター良すぎるじゃん!?
いやあ、いきなり「〜〜ッス!」と三下口調で現れた時には何事かと思いましたよ。ってか、まずこれ性別女なのか? と疑うところから。ベネットか、おまえは!!
しかし、三下キャラかと思いきやこれが相当の食わせ物。本部長の意を受けて、智を事件に引っ張り込むための手練手管は口八丁手の巧妙さで、喫茶のマスターである兄ちゃんを巧みに逃げ出せない状況に追い込んでいく腕利きなのである。これで刑事じゃなくて、秘書室の人間というのも不思議なのだけれど、本部長が使い勝手の良いエージェントとして囲っていると考えるなら非常に納得しやすい。
とまあ、これだけなら無理やり嫌がる兄弟を事件に引っ張り込む困った人なんだけれど、三下口調のみならず言動に人懐っこい愛嬌があって、その強かさも全然憎めないんですよね。それどころか、話が進んでいくと、そんな食わせ者のキャラも仕事として装っているところがあって、ふとした瞬間に兄弟を無理やり事件に巻き込む事に罪悪感を感じている誠実な人柄が垣間見えて、その時は凄く女性らしい儚さを感じさせたりして、もう兄貴じゃないけれど、これは絆されるわw
実のところ、この兄貴の方もなかなかの食わせ者で、一方的に直ちゃんに食い散らかされるわけでもなく、お人好しなせいかついつい直ちゃんを助けてしまうのだけれど、それ相応に条件を引き出したり、きっぱり釘を差したり、と振り回されるばかりの人ではなく、かなり頼もしい人なのである。時折、鋭い視点で直ちゃんに突っ込んだり、とさすがは名探偵である弟の智の兄、というような洞察力を見せたり、と決してただの驚き役じゃあないんですよね。すぐに直ちゃんも兄貴には一目置くようになって、傍から見ると仕事抜きで懐いているように見えますし、ふと弱気になった時には甘えて見せたり、となんかいい雰囲気にもなってたり、で。
探偵役はパティシエの智なんですが、メインは完全にこっちの二人ですね。概ね、事件の調査は兄貴と直ちゃんの二人でやって、安楽椅子探偵として聴きだしてきた調査情報を元に智が事件を解き明かす、と。
面白いのは、事件の後の関係者のフォローに、うまく智のパティシエとしての役割を利用しているところ。事件は何らかの形で関係者に心の傷を負わせているのですけれど、智が振る舞うお菓子がそれを和らげることで、事件の後味の悪さを甘やかに蕩かして、すっきりとまでは行かないものの、やるせなさを残さない結末にしているあたりは、ミステリー作品として素敵な心配りだと思うし、良い特徴なんじゃないでしょうか。
最後の事件の後味は、本当にキツかったからなあ。あれは、極めて予想外でしたし。この作者ってわりとキツい真実持ってくる傾向があるのですけれど、それにしてもこれはキツいや。直ちゃんと兄ちゃんは、その分もっと雰囲気になってくれてもいいんですよ?w


似鳥鶏作品感想