カクリヨの短い歌 2 (ガガガ文庫)

【カクリヨの短い歌 2】 大桑八代/pomodorosa ガガガ文庫

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真晴からの脅迫状が完道を歌典寮の巣窟に!

たまたま歌の家に生まれ、双子の兄よりも才能に恵まれていたという理由で、逃げることも許されず、絶えず歌をたたきこまれた。そのせいで体の弱かった妹は病に倒れ、早すぎる死を迎えようとしている。歌に支配された一生といっていい。
少年は妹に辞世を詠んでもらいたくなかった。詠めば妹の死が逃れられないものであることを思い知らされることになるという恐怖もあったが、それよりも大きかったのは「自分の言葉でしゃべってほしい」という願いだった。悔しいなら悔しいと、悲しいなら悲しいと、与えられた形式ではないむき出しの言葉を口にしてほしかった。しかし少女は、手を強く握っても握り返してくれなくなってしまった……。
不変なものなどなにもないのだ。だから、妹の辞世を覚えているなど無駄だ。

―――歌が憎い。妹を奪った歌を一首残らず、必ずこの世から―――
真晴という人はアレだな、人死も風雅の一端でしかないのかな。しばらく禊の期間だ、と嘯きながら、折さえすぎれば屈託なく取り下げる。真晴って、情の深いタイプだと思うんだけれど、常人と根本的に情の置所が異なってる気がするんですよね。それは、実のところ完道も似たようなもので、もしかしたら単純に静動のスタイルの違いに過ぎないのかもしれない。今回、情の深さで人道を踏み外すまでに至った二人の人間の物語が懇々と描かれたからこそ、真晴と完道の異質さと普遍的な優しさや慈しみが偏在しているありさまが浮き彫りになり、さらに翻って先述した二人の人間が、真っ当でありながら、まっすぐであったからこそ、より一心不乱に凶ってしまった姿が引きずり出されたように見える。
面白いことに、この凶った二人はそれぞれに、真晴と完道と対峙することになるのだけれど、一見まともな完道と対峙した方ではなく、真晴とガチンコしてフルボッコにされた人の方が正気に立ち戻っているんですよね。
さて、より深い狂気に中てられて人に立ち返ったか、単純に完道と退治した方と比べて時間的にも深度的にも踏み外しきっていなかったか。
でも、こうしてみると真晴の側で堕ちていく、というのは想像以上に魅力的な事なのかもしれない。実際、その道に惹かれながらも袖にしている完道は、随分とスレているなあ、とすら思う。不思議と、真晴の方が純粋無垢にすら見えてくる。まあ随分と捻くれて悪魔めいた無垢さだが。タヌキツネと真晴が相性悪そうに見えて、お互い実は相当にお気に入り同士、というところも、似たもの同士な側面があるからなのかもしれない。

しかし、これだけ一筋縄でいかない人間ばかりだと、黄川田さんの裏表のない善良さが癒やしに感じられて仕方がない。彼の後ろ暗さのない篤実さが、余計に忙しさや苦労の原因になっている気もするけれど、
彼にはそのままで居て欲しいなあ。藍佳も随分と懐いているようですし。

話自体は、最近巷を賑わせている喉貫事件を背景に巻き起こる歌に基づく事件の謎を追うミステリー仕立て。さて、喉貫事件の犯人は誰なのか。その犯人と、真晴が出した脅迫状には何の関連性があるのか。裏で蠢く怪しい意志が導く真実は。なかなか二転三転する内容で、誰が何を考え何をやったかが一見して浮かび上がってこない絡まりあった真実と、暗い情念が渦巻く代物で、こういうねっとりとした粘性のお話は好みなのですよ。
一方で、藍佳の天真爛漫さ、小糸の飄々とした人となり、夕暮さんのこども好きな優しさ、黄川田さんの善良さなど、人の暗い部分や悪意だけではない、明るく見ていてほっこりするシーンも多分にあったりして、決して仄暗い印象だけではないんですよね。真晴のぶっ壊れつつも痛快で淀みのない性格も、それを助長しているかもしれません。
短歌をテーマにしているせいか、全体的に情緒的で美しい描写が連なっていて、雰囲気も十分。このまま、流れに乗って良いシリーズになっていって欲しいものです。

1巻感想