百錬の覇王と聖約の戦乙女2 (HJ文庫)

【百錬の覇王と聖約の戦乙女(ヴァルキュリア) 2】 鷹山誠一/ゆきさん HJ文庫

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姫君たちから求婚の嵐!?
絶好調の異世界無双ファンタジー第2弾!

《蹄》の宗主ユングヴィを打ち破ったことで大陸中に衝撃を与えた勇斗。
リネーアから結婚の申し込みをされるが、現代に残してきた美月を想い困惑を隠せない。
そんな折、《雷》の若き宗主"虎心王"ステインソールが祝勝式典に突如現れ、勇斗と一触即発の状況に。
再び戦の気配が迫る中、弟国《爪》の双子の姫君まで妻にしてくれと押しかけてきて……!?
おおっ、だいぶ全体にスッキリしたというか、戦記モノとしての体裁が整ってきたんじゃないだろうか。初巻は異世界に迷い込んで一番大変だった時期をすっ飛ばして、いきなり配下の信頼度マックスに思想の浸透、支配地域の国力充実が済んだあとのイージーモードからのはじまりましたからね。それはそれで構わないんですけれど、それを成し遂げた勇斗が、チートチートと軽い発言ばかり繰り返して、積み重ねたであろう実績や経験が感じられない態度を取っていたので、どうも上っ面だけ今の流行りを取り入れただけの戦記モノみたいな印象だったのでした。
ところが、この2巻に入ってからは先にあったような主人公の軽々しい言動が鳴りを潜めて、複数の氏族を強力な指導力でとりまとめる王としての姿が前面に押し出されるようになって、一気に面白くなってきました。
貫目、というのでしょうか。基本的にこの作品の世界観の文化レベルは、蛮族レベルのそれで、他者よりも力を見せることがそのまま支配力に繋がるような原始的な側面が強く残っている文化でもあるので、氏族の宗主であり他氏族の父であり兄と崇められる立場となった勇斗には、平凡な元高校生という弱さを垣間見せる側面は邪魔でしかないのです。勿論、物語的には彼の一般人としての精神は重要ではあるのですけれど、彼のそういう弱い部分を受け止める役は、見事に元の世界に残っている幼馴染がゲットして強力なアンカーとして機能しているので、異世界側では獅子にして覇王たる気風を備えた偉大な宗主としての威を示し続けてくれないと、話が回らないんですよね。
また、借り物の知識でずるをして勝つのではなく、得た知識を自分の血肉として取り込み、縦横に駆使するだけの辣腕。そして、強大な敵を逆に蹂躙して圧倒するだけの凶暴な気概。勇斗が魅力的な主人公として動き出したことが、作品自体に躍動感をもたらしてきたような気がします。
また、主人公だけじゃなく、脇を固める人材が揃ってきたことが、戦記モノとしてのスケールを育てはじめたんじゃないかと。これは、ただ主を崇拝するだけの味方と、やられ役でしかなかった敵が、きっちりとキャラを立ててきたというのも大きいのでしょう。戦記モノというものは、敵味方ともに人材が充実してきてからが肝ですからねえ。……正直思うところですけれど、メインヒロイン候補であったジークリンデとフェリシアがちょっとキャラ弱かったんじゃないだろうか。ジークリンデは本来ツンキャラなので、最初からデレマックスだとイマイチ威力が少ないんですよね。脳筋で戦闘でしか役に立たないところが微妙に存在感を薄くしている気もします。フェリシアは勇斗の側近として結構頑張ってはいるのですが、角の宗主であるリネーアが実は際立った内政の見地を持った宰相候補であり、この時代としては埒外の柔軟かつ合理的な頭脳の持ち主で、勇斗のもたらす先進的な思想や技術も、観念的な旧弊さにとらわれることなくスポンジが水を吸うように理解を示してしまってるんですよね。リネーアのあまりの有能さを見てしまうと、フェリシアはどう頑張っても秘書官相当で、事実上右腕として機能しそうなのはリネーアの法なんですよねえ、これ。
また、組織の汚れ役を担いつつ、戦場でも要の働きを示す忠誠心の塊みたいな影の手・スカーウィルという存在、これは壮年の男性というのもポイントで、こういう規律をしっかりさせてくれる人をちゃんと抑えているのはいいなあ、と。そして、今回加わった爪の氏族の双子たち。諜報と暗殺を任され、同時にキャラも立てまくりで、正直リネーアと双子のアルとクリスが、ジークリンデとフェリシアを押さえて随分と存在感を示していました。尤も、こちらの世界に居ないにも関わらず、ヒロインとして圧倒的な存在感を示しているのは幼馴染の美月なんですが。

この作品、興味深いのが他の戦記モノが中世から近代あたりに相当する時代を舞台にしているのに比べると、ちと古くて青銅器から鉄器に武器が変わろうとしている過渡期の時代を舞台にしてるんですよね。王権についてもかなり古い考え方のもので、氏族単位でまとまり、支配についても家長制度が一族単位にまで拡大した、どちらかというと儀式的な側面が優先される代物なのです。
これを、勇斗は徐々にですが支配体制を氏族単位のものから脱した、組織として整った集団へと再編しているわけです。今回、爪の氏族という大氏族を取り込み、支配領域的にも人口的にも人材的にも巨大化したことで、自然と多種多様の氏族を糾合する形になっていっているわけですが、これは事実上の帝国化への進展でもあるっぽいんですよね。どうも最初期のローマ帝国の成立あたりが連想出来るんですが、それも含めて氏族体制からの脱却の傾向が強く伺えるのが、軍制でした。
雷の氏族との会戦なんか、モロにローマ帝国とガリアやゲルマンの蛮族との戦いを想起させるものでしたし。普通なら完全無双状態のあれだけ強大な個の力であり武の化身である雷の氏族の宗主ステインソール。項羽とも呂布とも評したその王を、ああいう形で降したのは痛快でありましたよ。
鉄器についても、かなり強く意識しているようで、大元になる狼の氏族の根拠地が鉄の生産地であり、主人公の勇斗が、現代の刀鍛冶の息子であり彼自身鍛鉄について深い知識と経験を有している、というあたりを見るとまず間違いないかと。それに、鉄器の価値を利用した策も、戦場で活用してますしね。
青銅器時代から鉄器時代への転換は、とてつもなく大きな文明レベルのパラダイム・シフトになりますからね。果たして、そこまで大きな見地で本作を構築していっているのか。もし、そうだとしたらどこまでスケール大きくなるのか、楽しみで仕方ありません。
二巻に入って、抜群に面白くなってきましたよっと。

鷹山誠一作品感想