月花の歌姫と魔技の王IV (HJ文庫)

【月花の歌姫と魔技の王 4】 翅田大介/大場陽炎 HJ文庫

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歌姫の舞台の幕が上がり、戦いの火ぶたが切られる!!

「月花の歌姫」として大舞台に立つことになったルーナリア。
その美しさと歌声は人々を魅了し、ライルに涙を流させるが、人と幻想種との戦争を止めることは出来なかった。
舞台の幕開けはそのまま惨劇の幕開けとなり、戦いの火蓋が切られる。
その中で下されるライルの大きな決断、そして運命に翻弄されるヒロイン達が選択する、それぞれの道とは?
いやあ、ホンマにホンマに。こんだけイイ女が出揃ってる作品は早々ありませんよ。マリーアにしてもルーナリアにしても、イルザにしてもツェツィーリアも、他の作品なら他の追随を許さない抜きん出た超抜ヒロインとして君臨できそうな逸材にも関わらず、それが全員揃っちゃってるんだもんなあ。なんて贅沢な。
いやあ、もう心の底から惚れ惚れさせていただきました、今回は。特にマリーアとルーナリア、この二人はちょっと極まっちゃってましたよ。
マリーア、なんですかあの全身全霊で捧げた献身の中に一輪の花のようにひっそりとささやかな、しかし頑なに飾り立てた乙女の願いは。本気で胸がキュンとさせられてしまったんですが。
その直前の、髪の毛の一本に至るまで自分の全てはライルのものだという気負いも何もない当然の事のように告げた宣言だけでも致死量に等しい凄まじい威力の兵器にも関わらず、対価がそんな事で構わないのかと思ってしまうような細やかな乙女の意地が、胸どころか心臓まるごと首根っこも含めて締め付けられそうな可憐な可愛らしさで、もうあきません、参りました、完敗です。
これほどの女性にこれほどまでに惚れられるって、男の本懐ここに極まれる、だよなあ。
マリーアの魅力というのは、決してライルだけに向けられているものじゃなくて、彼女の心意気に救われ、支えられ、生まれ変わったルーナリアは、半ばマリーアの信奉者みたいになっているのがまた面白いところ。彼女、ダブルヒロインの片割れにも関わらず、どうも途中からライルよりもマリーアの方を向いている傾向が強くなってるんですよね。親友であり、ライルをめぐる恋のライバル同士、という関係ではあるものの、どうやってライルの気を引くかではなくて、どうやってマリーアと対等になれるか、マリーアに張り合うに相応しいだけのイイ女になるか。マリーアのライバルに見合う女性になれるか。と、とにかく基準がマリーアなんですよ、ルーナリアって。一生懸命マリーアのことばかり注視しているのです、この娘。決してライルをないがしろにしているわけではなく、ちゃんと真っ向からライルに告白という宣戦布告をして、雄々しいまでに堂々とライルへの恋に没頭しているのは間違いありません。けれど、それ以上にルーナリアって、マリーアマリーアマリーアなんですよ。それがなんとも微笑ましいというか、恋している相手と恋を争っている相手のことがこんなのも好きでいられるというのは、とても幸せなことなんだろうなあ、とついつい笑顔になってしまいます。
ルナーリアはライルが好きで、マリーアが大好きだ。
この一文が、ある意味すべてを表しているのではないでしょうか。
ルーナリア、ガチでブチキレ!!のあのシーンも、マリーアが傷つけられた事で完全にプッツンきてしまったわけですし。
主人公がヒロインを傷つけられてぶちきれるシーンはありますけれど、ヒロインの片割れが同じヒロインの娘が傷つけられたことで、あれだけ本気で正体失うほどにブチキレるシーンはお目にかかったことありませんよ。もう、どれだけマリーアの事好きなんだ、と。
それでフルボッコにされるのがライルというのがまた……何とも微苦笑を禁じ得ないのですが。いや、でも痛快でしたよ。女の子を哀しませた男は、相応の報いを受けニャアなりません。それが善意にしろ後ろめたさにしろ、真実の愛情だったにしろ、です。何しろ女の子たちは、何の助けもフォローもなく、自力で立ち上がったわけですから、そうするだけの権利があり、義務すらあったに違いないのですから。
お陰で、最後のルーナリアの結論もスッと理解出来ました。そりゃあ、それだけ好きなら諦められんよなあ。好きなもの同士結ばれて幸せになってくれるなら、それであきらめが付く……という範疇をとっくにぶっちぎってますもの、これ。ある意味一番肉食じゃないか、ルーナリアって。
これほど恐ろしいお目付け役は居ませんよ。なるほど、最後のこの二人の組み合わせはちょっと納得です。ルーナリアの据わりっぷりに加えて、何だかんだとライルだってマリーアに若干頭おかしくなるほどべた惚れである事が発覚した上ルーナリアに焼き入れられたことで心境に変化もあったようですし、この二人組に今マリーアを放り込んでしまうと、色んな意味で「蹂躙」されてしまいそうな気がします(笑

民族問題の様相もはらんだ幻想種との争いも、お為ごかしの倫理を振りかざした決着ではなく、いわゆる剣と闘争による対話をもって決着を付けたのも、子供騙しの和解ではなく、逃げない真っ向からの解決法で思わず頷いてしまいました。これって、人間種と幻想種がお互いに接触が少なく未知の相手であったからこその争いであり、和解でもあるんですよね。本当の民族紛争だと数百年千年単位で遺恨が根付いてしまっているので、どうにもならないケースが多々あるのですが、未知と利権が発端で始まった争いは、お互いを知ること、出会いの先に進もうとする意志を結び合うこと、そして利益調整さえ叶えば、相応に形が出来ますし。そして、お互いを知ることには、痛みと血を流すことでようやく理解できる事も含まれるわけで、ようはそれをどれだけ限定的な形に留めることが出来るか。その理性と強かさが試されるわけで。ライルにしても、ベルンハルト王子にしてもイルザにしても、そこを冷徹に判断して実行してのけたのは、感心させられることばかりでした。

一方で、明確な野望を持たずひたすらに享楽で人と国と世界を弄ぼうとしたアルベルトや、復讐に囚われたマルガレーテについては、これまた見事な決着の付け方をしてみせてくれました。
ライルは、二人のいびつな精神の正体を、見事に細片まで解体してみせ、マルガレーテには解放を、不気味で底の知れなかったアルベルトには馬脚を現させて、見えなかった底をあからさまにして矮小化して徹底的に叩き潰してしまったわけです。特にアルベルトは、野心家ではなく快楽主義者という点から最悪その悪事を潰しても、破滅することすら含めて楽しみそうな気配があって、たとえやっつけてもスッキリしない終わり方になるんじゃないかな、と思っていたところに、見事にその歪んだ心をライルが折りたたんで踏みつぶしてくれたので、こっちの方も痛快だったんですよね。

改めて振り返っても、面白いと諸手を上げて喝采する展開、シーンの連続で、実に密度の濃いエンターテイメトでした。これで終わりというのが勿体無い、あまりに勿体無い……シリーズ、これで終わりじゃないですよね!?
とりあえず一区切り、と作者はおっしゃっているようですけれど、十分続いて然るべきですよ。幸いにして、締めの英文はパート1の幕であって、パート2の開幕を可能性として内包している文章でしたから、全然オッケーですし。やりましょうやりましょう。
その前に、【マリーア・ザ・フレイムダンサー】というスピンオフの可能性もあるのか。マリーアも主人公やって全然役不足じゃないもんなあ。これはこれで有りかも。
何れにしても、彼らとお目にかかれることを真剣に願いつつ……ああ、面白かった!!

シリーズ感想