神様のお仕事 3 (講談社ラノベ文庫)

【神様のお仕事 3】 幹/蜜桃まむ 講談社ラノベ文庫

Amazon

黒須神社から去ったと思われていた神・ククリ媛が真人の前に現れた。彼女はある理由から神力を失っていただけで、ずっと真人や千鳥のことを視ていたという。神力を取り戻し復活したいと願うククリ媛を想い、真人は復活のための祭りを開催することを決意するが、ククリが力を取り戻せば真人は神の力を捨て自分の元を去るのではと千鳥の心は揺れる。祭りの準備を進めていくごとに見えてくる、黒須神社とククリそして千鳥の秘密…。同時に大事な祭りを妨害するかのように現れた謎の影が街を襲う!
その正体は、厄神よりもやっかいな生きた人間の念…影の出現とククリ媛の出現に関係はあるのか!?
第2回講談社ラノベ文庫新人賞“大賞”作品完結編!
いくら慣れたと思っても、猛獣は猛獣です。鎖から解き放たれたら、そりゃあ襲われます。パックンチョでございます。御愁傷様でした。
というわけで、【かみちゅ!】の男子高校生版か、という印象を持った一作目から、幕引きとなるこの三巻まで、見事に良作でありつづけた逸品でした。正直、タイトルの地味さが勿体無いと思うくらい。もうちょっと特徴的なタイトルだと、人気も出たかもしれない、とまあそんな簡単な話ではないんだろうけれど、もっともっと読み続けていたい暖かさとスッパリとした切れ味が同居した物語であり、躍動的なキャラクターであり、しっとりと馴染む文章であり雰囲気でありリズムを持った作品でした。特に、現人神となった真人は、最後まで人間にも神にも比重がブレることなく、きっちりと両方務めていましたね。黒須神社の氏子の人との会談では、神とはいえ人としては高校生の子供にすぎないと見ていた相手の老人の顔色を変えさせるほどの、神としての威と一言でビシっと示していましたしね。あのシーンは見ているこっちまで、真人のあまりにキッパリとした言い方に首筋がひんやりする思いでした。彼の在り方については、周りの神も人も色々と窺ってかかっていたのですけれど、周りにどう見られていようと真人の神様としてのスタンスは一切迷いもブレもしていないんですよね。それでいて、頑迷だとかいう印象は一切ない。真ん中に、一本大きな柱が突き立っているような印象である。悩みも迷いもするけれど、その柱に基づいたものなので、ブレがないのである。
面白いことに、この在り方は決して神様になったからこうなった、というわけではなく、彼の友人のコメントからすると、以前から変わっていないそうなんですよね。基本的に、彼は自分の出来る範囲のことしかしない、割り切りのハッキリしたタイプの人間だったのではないでしょうか。だからこそ、できることの少なかった人間の頃は、むしろあまり他人に口出ししたり手を貸したりする方ではなかった、と。ところが、彼は実はできることしかしないけれど、できることはしちゃうタイプだったようで、出来ることが格段に広がった神様になったことで大きな確変を迎えたわけだ。そして、彼にとって出来る事と出来ない事の違いは大きいものであるけれど、事の大小はさして意味を見出してないんですよね。神様となりながら、小さな事件や願い事をちまちまと叶えて回ることにも何の苦も感じずに楽しそうにこなしているあたり、そして二通りの厄神の対処の仕方、氏子の人との線の引き方。見れば見るほど興味深い人物像の主人公でありました。彼が主人公だったからこそ、徹頭徹尾この作品ってちゃんと「神様」のお話だったんですよねえ。
そして、彼みたいな人が相手だったからこそ、千鳥は件の二つの要素を両立出来たのではないでしょうか。これは千鳥が純粋培養だった、という理由も大きいのでしょうけれど、真人が信仰対象であれるような存在でなかったら、なかなか両立は出来なかったと思いますよ。ククリヒメのケースは、相手の問題のような気もしますが。男は、どうしても邪念が交じるからなあ。昔の人ということもあるでしょうし、女性に対するスタンスも今と違うでしょうし、何より生まれた時から一緒に在り続けて結ばれるまでの経緯が経緯だけに、彼が想いの片割れを喪失してしまった事も無理からぬことだと。その結果はあまりにも残酷で、同情を禁じ得ないのですが。
哀しい顛末をたどってしまった神と人の物語だけれど、それが巡り巡って千鳥と真人という新しい人と神との関係へと辿りつけたのだとしたら、無駄ではなかったのだろう。無駄にしたくないからこそ、ククリヒメは今回のことに討って出たのだろうし。それが神としての人への愛か、女親としての愛情かはともかくとして。
千鳥と真人という二人に限らず、鋼牙が語ったように人と神との関係は新たな段階に入っているのかもしれない。現人神の真人や、彼が拾い上げた福神たるウツロが特別なのではなく、稲森天満の朱理さまのような一柱が既に御座していたことは象徴的とも言える。人を導く神ではなく、人と寄り添う神々の時代。思えばこの街の手力男やカグツチもまた、今回の祭りを通じて知った日々の様子を見る限り、人の世の中に溶け込んでいるようでしたし。
人も神も変わらず楽しめ、騒げるお祭り。真人が主導して開くことになった今回のお祭りは、コンセプトとしても千鳥との関係を刷新する意味でも、次の時代を招き入れる祭りになったのではないでしょうか。
……結果として、野獣が枷から解き放たれてしまったのですが。食われた、現人神さまが食べられたーーっ!!(笑

ほんと、最後まで味わい深く堪能できた良作でした。新人賞大賞受賞は伊達じゃなかったですね。次回作はさらなるパワーアップ、期待してしまいます。楽しみ。

1巻 2巻感想