ストレンジムーン (2) 月夜に踊る獣の夢 (電撃文庫)

【ストレンジムーン 2.月夜に踊る獣の夢】 渡瀬草一郎/桑島黎音 電撃文庫

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十和田静枝の中で遂に目覚めた“皇帝”ブロスペクト―その桁外れの能力に動揺しつつ、月代玲音は静枝の説得を試みる。だが、キャラバンを憎む皇帝にその言葉は届かず、更には将軍・周皓月と因縁を持つ異能者の参戦により、戦況は激しさを増していく。そして戦いの中、玲音の身に宿った“星詠みの加護”にも覚醒の時が―!人に異能をもたらす異形の神々、迷宮神群。人はその不可思議な力に魅せられ、時には忌避し、翻弄されていく―『輪環の魔導師』『パラサイトムーン』の渡瀬草一郎が贈る、現代神話ファンタジー第2巻!
皇帝ブロスペクトって、調べてみると既に【クレセントムーン】の三巻あたりで微妙に触れられていたみたいですね。キャラバン側からの視点になるので、かなりの極悪な集団として描かれています。キャラバンが創設された理由の一つが、ブロスペクト派による迫害から互助的に身を守るためだった、とあるくらいですし。実際、パラサイトムーンの三巻で登場したリセルは、一族ごとブロスペクトに追われて流れてきた、という設定でしたしね。
とはいえ、ブロスペクト派からするとまた意見は違ってくるようで。彼らのキャラバンへの憎悪は、果たして単に敵対して自分たちを追い詰め衰退させるに至った相手へのもの、だけなのか。かなり過剰な感情が込められているような気がします。まあ、その一端として、ブロスペクト派が単に皇帝によって支配された集団ではなく、家族と変わりなく身内を大切にしていた一団だったからなのかもしれません。
いずれにしても、ブロスペクト派の絆は他人の体に記憶と能力を再現した状態でも綻ぶ事はなかったようで。だからこそ、ここまで一瞬にしてブロスペクト派がかつての全盛期の威容そのままに復活してしまったのでしょうが。
もっとも、その中でもかつての記憶を持ち越さなかった者。現代の肉体の主の意志が混ざることで大きく変容してしまったものも多いわけで、決してかつてと同じようにはいかない、ある種の齟齬が出てくるのではないでしょうか。現在のところ、その不具合は顕在化していないものの、皇帝となった十和田静枝さんからして、かつてのブロスペクトそのままではなく、静枝さんとしての意志が多分に混ざってしまっているようですし、女王となった香恋は見事にヤンデレ化してしまって、かなり理性飛んじゃってますし、周皓月の悪辣さはどうやらそのままのようですし。さて、いったいどこからほころんでくるのか。

話は変わってキャラバンサイド、いや主人公サイド、というよりもこの場合は旧主人公サイドですか。心弥と弓につづいて、ついに真砂と由姫が登場。やあ、こっちのカップルも既に結婚済みですか!! 心弥と弓については、月日も経ってるしこの二人は普通に結婚してるだろうなあ、というイメージがあったんですが、真砂と由姫の方は籍を入れて落ち着くという印象がなかったので、由姫の姓が真砂のものになっていたのを見た時はおっもわず「おおっ」と声を上げてしまいました。
心弥たちと、真砂をハジメとする実験室の子供たちが味方になってくれるのは頼もしいなあ。肝心のメインの二人、玲音とクレアが見事なポンコツカップルなだけに(笑
いや、玲音については抜けてるようで抜け目ないところもあるし、その境遇から若干精神的に壊れた所があるけれど、それが破綻ではなく度量と覚悟を与えていて、これで意外と頼もしい主人公しているんですが。その分、クレアが色々と酷い(笑
一見してまともで出来る女性を装えている分、ポロポロと取り落として垣間見えてしまう素のポンコツさが本当にもう笑えてしまって、ああ可愛いなあもう!! あざとさが天然すぎて防ぎようがない。これで、玲音側からスルーされてしまってたら、痛々しかったり可愛そうだったりするんだけれど、噛み合っちゃってるんだよなあ。お陰で、渡瀬史上でも類を見ない幼馴染バカップルになっちゃってます。電撃文庫の歴史において三指に入るであろう歴戦にして屈指の幼馴染ストであらせられる渡瀬さんですけれど、ここまでバカップルに仕上がった幼馴染カップルは初めてざんしょ。先のヤンデレ幼馴染もまたすんげえインパクトでしたけれど、今回のポンコツバカップルも素晴らしいのヒトコトです。いや、今回希崎さんご夫婦も、目も覆わんばかりのバカっぷりっぷりを披露してましたから、張り合ってのことかもしれませんけど。張り合うなよ!
クレアの側の母親や伯父さんが、思いっきり玲音押しで既に結婚前提で考えているあたり、家族ぐるみで包囲網完了してますし。残念ながら、今回はヤンデレの入り込む隙はなさそうだなあ。妹ちゃんよ、ヤンデレを極めるなら、【輪環の魔導師】のフィノのレベルに達しないと、この二人には割ってはいれませんよ? いや、あのレベルのヤンデレになってしまうと、ヘタすると登場人物の半分くらいは血の海に沈んで、残る半分くらいは精神的に抹殺されそうなんですが。……【輪環の魔導師】が平穏にハッピーエンドに終わったのは、いまさらながら奇跡だわなあw
その意味では、香恋がまだこの程度のヤンデレに収まっているのは安心材料なのですけれど。これで収まってる方、と感じてしまうあたり、感性がややヤバイ気もしますが。
なぜか関係ないクロトラくんが、ヤンデレ怖いで異次元の黒猫さんと共感状態に入ってるんですが(笑
とはいえ、クレア一強かというと、皓月が玲音にちょっかいをかけようとした瞬間、静枝さん含めて総出で玲音守りに入った陣容の凄味を見てしまうと、なにげに女っ気は強いんですよねえ。あのシーンは思わず笑ってしまった。記録者も実は女だったというし。

一応、旧主人公サイドが味方に入ってくれて、さらにキャラバンの良識派でもある文槻派がクレアの親族ということで全面的にバックアップに入ってくれた、というかなり良い陣容に思えたものの、やっぱりブロスペクト派は強大で手段を選ばず、しかもキャラバンの側も危ない連中がかさにかかってちょっかいをかけてきたことで、とたんに瀬戸際の崖っぷち状態に。
この玲音たちの追い詰められっぷりもさることながら、羽矢田さんの板挟みっぷりがさらに酷いことに。情深い人だけに、ブロスペクト派の記憶に乗り移られた静枝さんたち身内や部下たちは見捨てられないし、逆に彼らに追いかけられる玲音たちも見捨てられないし、キャラバンの暗部を務めていた人だけにその危険性は重々承知していてキャラバンに身は任せられないし、しかしブロスペクト派は完全に突っ走りはじめて歯止めがきかなくなってて自分がいないとどうなっちゃうかわからないし、皓月は危なっかしくてどうしようもないし、ともう誰かどうにかしてあげて、と思わず見ているこっちまで悲鳴を上げてしまうような大変な状況に置かれて、この人そろそろ胃に穴があくか、偏頭痛で倒れるかしちゃうんじゃないかと真剣に心配になってしまった。カラー口絵も、頭痛をこらえている絵になってるし(笑
幸いにして、この羽矢田さん自身が相当の実力者で、ブロスペクト派として受け継いだ能力は全然戦闘系じゃないにも関わらず、彼自身の強さとしてべらぼうな上に強かで慎重な人物でもあるので下手は打たない安心感があります。一応、彼の側に立って動いてくれそうな人も何人かブロスペクト派の中にも居るようですし。……その時緒にしても、くろとらくんにしても、若干会話が通じないタイプの人のような気がして、そこがさらに心労が重なるところなんですがw
ってか、くろとらくんってマジで誰なんだ? 
くろとらくんQ&Aを見る限りだと、由姫と顔見知りっぽいんだけれど、実験室メンバーっぽいなあ。だけど、こんな変な性格の子、居なかったと思うんだけど。着ぐるみ装着でキャラ変わってる!?

くろとらくんみたいなモドキじゃなくて、しっかり本物(?)のクロネコまで登場してしまうあたり、ネコネコフィーバーが続いてる(笑
……香夜子さん、やっぱり結婚できてないのか。文槻院長、確実に獲物を確保している可愛い姪っ子に現実逃避してないかw

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