憂鬱なヴィランズ 4 (ガガガ文庫)

【憂鬱なヴィランズ 4】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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“イラストレーター”急襲!村瀬一郎の反逆

夕陽ヶ丘恒例、獅子神神社の冬祭り。
その最中、月夜チームの面々によって行われた大捕り物。『不思議の国のアリス』の読み手である如月シェリーを捕獲し、村瀬一郎の自宅へと連行した月夜チームだったが、その時、事件は起きた――。
『天女の羽衣』の読み手である夏苅小雨による突然の襲撃。そこへさらに、新たな敵勢力となる絵本の作り手の一人“イラストレーター”のエルモ・ストーンヘブンとその部下の百伍が加わり、三つ巴の戦いに、事態は混乱を極める。やがて収束した時、月夜チームは、戦力の要である村瀬一郎が敵側に寝返るという危機的局面を迎えていることに気づく……。
謎の多い男・村瀬一郎と、彼がすべてをかけて捜し求めてきた『桃太郎』の絵本。その因果関係が明らかになる時、新たな悲劇を生む……。

最悪の結末が描かれた“絵本”ワーストエンド・シリーズを巡る物語、第四弾!


村瀬一郎が読み手となっている絵本『青髭』の悪役である「青髭」は、殺人鬼であり拷問を好む狂人である印象が強く、絵本『青髭』の拷問部屋を作る、という能力からも、他の絵本の悪役よりもより血生臭く陰惨で狂気を感じさせるもので、だからか村瀬一郎という人物そのものにも、どこか不気味な印象が付きまとっていた。彼自身、どこか冷徹というか倫理観を吹っ切っているような躊躇いのなさを感じさせる振る舞いが多かった事も印象を強くさせる理由だったのだろう。彼の言動を厳密に振り返ってみると、そこまで冷たいものではなかったはずなのだけれど、彼自身の他のメンツとどこか一線を引いた態度に目的の不鮮明さ、青髭の読み手というのも相まって、得体のしれない不気味さが付きまとっていたのだ。
村瀬一郎とは、何者なのか。
その答えが明らかにされたのが、この第四巻である。

『青髭』のモデルとなったかのジル・ド・レイという人物は、本来救国の英雄と言われたほどの「騎士」であった。その事実を、村瀬一郎の鮮烈な生き様を見て思い出した。
仄暗き清廉なる騎士。
あかん、こいつほんまもんのダークヒーローや!!

一瞬どころじゃなく、誰が主人公だったか忘れてしまうくらい、今回の一郎は主役を張っていたんじゃなかろうか。いや、本来の主人公である兼亮だって決してサボっていたわけじゃなく、月夜を守るための覚悟と力を十分見せつけ、振るってはいたのだけれど、今回ばかりは一郎があまりにも圧倒的すぎた。
いったい、どれほどの覚悟を持って彼は戦い続けてきたのだろう。まだ幼いと言ってすら良かった彼が辿った過去は、普通の家庭に普通の子どもとして生まれたものとしては、あまりにも残酷すぎる経験で、無邪気で…しかしこれ以上無く真摯で真剣だった騎士としての誓いに対しての、現実が示した答えがこれだったというのが、もう涙なしには見ていられない。優しくも明るい叔母に惹かれ、幼い騎士として大切な人を守ると誓った結果がこれなのか。
それでも、神に裏切られジャンヌ・ダルクを奪われ、心そのものを喪ったジル・ド・レイよりはマシだったのか。それとも、より残酷な悪夢が残されてしまったのか。いずれにしても、村瀬一郎は守るべきものを喪いながらも、なおも騎士で在り続けたのだ。彼女が遺してくれた、最後の宝物を守るために。最後のよすがを、助けるために。
しかし、彼の残された唯一それすらもが偽りのモノだったと知れた時、この時こそが彼にとってのターニングポイントだったのだろう。騎士か、青髭かの。
その意味では、「先生」の側の読み手であり、一郎たちと敵対する立場でありながら、なし崩しに一郎たちと行動を共にすることになった夏刈小雨の存在は、終わってみればとてつもなく大きかったのだと知れる。
彼女が花詠に示してみせた、全肯定こそが一郎と花詠の絶望を否定させた救いの縄となったんじゃなかろうか。うむむ、一体何がどうなって彼女がその立ち位置にハマりこんだのか、ほんとなし崩しとしか言いようのない流れでさっぱりわからないのだけれど、こればっかりは小雨姉さんがイイ女すぎるから、としか言えんよなあ。いやもう、まさか一郎とフラグ立てちゃうとか、びっくりだよ。花詠挟んで、若夫婦かっ! というような違和感のない佇まいにいつの間にかなってたし。男前度が高すぎるカップルになっちゃうじゃないか。

イラストレイターの介入により、「先生」を含めた三つ巴の争いになってきたワーストエンドシリーズをめぐる攻防。イラストレイターが所属する組織の底知れなさも去ることながら、先生は相変わらず悪意満載の不気味さで、正直どっちも敵対相手としてたちが悪すぎるんですよね。兼亮も、月夜を守るための覚悟を完了させ、一郎も一先ずではあるものの、囚われていた問題に対する答えを得て、今までよりも仲間として距離感を近づけることになり、身内としては結束しつつあるけれど、ぶっちゃけ「絵本」に対してどう対処すべきか見通しが真っ暗なんですよね。ただでさえ、絵本をレンタルし続けることに関しては、金の卵という抜け道があるにしろ厳しいものがあるし、そもそも花詠みたいな娘が出てきてしまったということは、全部無かったことにしてオシマイ、というわけには絶対いかなくなったわけで。
まさに、混迷深まるという感じで、ダークな方面に盛り上がってきました。むむむ、面白い、これはやっぱり面白いよ。作品の雰囲気そのものも、このほの暗さにキャラクターのコミカルさがうまくブレンドされて、なんかどっしりとした風格みたいなものも出てきたし。独特の世界観、と呼ぶにふさわしくなってきた。
ガガガ文庫の中でも要注目のシリーズであります。

シリーズ感想