引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている (一迅社文庫)

【引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている】 棺悠介/のん 一迅社文庫

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いじめられっ子の蒼衣春哉は、『凶鳥』の異名で恐れられる美少女・瑞鳥紫羽に助けられた。厳しくも美しい彼女の隣に並びたいと願う春哉だったが、自身の転校によって離れ離れに。六年後、高校生になった春哉は誰もが憧れる強い男へと成長していた。かつて紫羽と過ごした地に戻った春哉は彼女と再会するが、紫羽は重度の引きこもりに変わり果てていた…!?一迅社文庫新人賞、初の大賞受賞作品登場!!
おいおいおい、これは大当たりなんじゃないですか!? なんで一迅社文庫に!? というくらいの出来物ですよ。一迅社文庫も創設されてから随分と経ちましたけれど、自前の新人さんとしてはようやく恒星級を捕まえる事が出来たんじゃないでしょうか。これは絶対に逃したらアカン魚ですよ。これまで出していなかった大賞を送ったのも宜なるかな。確かに新人らしく、様々なところに粗やらおかしなところ、バランスの悪さは見受けられるのだけれど、そういうのをポイっと無視してしまえるポテンシャルの高さがそこかしこから伺える。手応えがねえ……ガッツリあるんですわ。まだ土台となる基礎部分がシャンとしていなくてフラフラしているので、先々このままスクスクと伸びていけるかはわからないんですけれど、ドシッと揺るがないものを掴むことが出来たなら、これは一掴みの領分に入れるという感触を感じ取れましたね。いいよいいよ、これはいいよ〜〜。

ひきこもりを社会復帰させる、という類の物語は決して珍しいとまでは言えないものです。そのひきこもりになっている子は、大概内向的な性格だったりする傾向が多いのですけれど、この作品は瑞鳥紫羽という本来なら性格的にも能力的にも他者よりも高みにあるような、自信満々で実力もそれに比例して卓抜していて、下々の者が見上げる他ないタイプの誇り高き女王様、という風な子でした。それが、何らかの理由で挫折しドロップアウトして、主人公が再会した時には見る影もないほど落ちぶれてしまっていたのです。
幸いにして、性格まで暗く内向的になってしまっているわけではなく、しかし強気でガンガン行こうぜという性格に卑屈さと下品さとネガティブさが変に混入されてしまった結果、随分と奇怪なひきこもりに成り果てているのですが、この紫羽のバランスが崩れてしまったキャラクターが最後までこの作品を牽引していくことになりました。
そもそも、本来の紫羽のキャラクターというのはどんどん他を置き去りにして付いてこれるものだけ付いてきなさい、とでもいう感じのもので、主人公も多分にもれず必死に彼女に追いすがって追いつこうと頑張るはずの立ち位置だったのですね。それが、何がどうしてこうなってしまったのか、蹲って動かなくなってしまった彼女を逆に引っ張り励まし先に立って手を差し伸べる立場になってしまった。手を伸ばしても届かないかもしれなかった人が、そりゃもう自分が居ないとどうしようもないと言った感じに、ベタベタとくっつき擦り寄ってきてごろにゃ〜んと甘えてくる。自分には貴方しかいないのだ、と言わんばかりにしがみついてくる。
追いかけて追いかけて、憧れるばかりだったあの人が、である。
こりゃあ、ちょっとした「愉悦」です。なんだかイケナイ負の部分を擽るようなシチュエーションなんですよね。
もっとも、幸いにして春哉は、そうした仄暗い征服欲に溺れてしまうような子ではなく、ちょっと惚れ惚れするような性格イケメンで、危ない感じのする依存関係には陥らず、相手がどんなに堕落しても失望せず一途に想いて尽くす事に徹していたので、二人の関係はかなりイチャラブに近いものになっていたんですけどね。それでも、紫羽みたいな子がデレデレにデレまくっているのは、見ていてニヤニヤが収まらないものでしたが。
まあ、紫羽がメロメロになるのもわかるんですよ。彼女の立場からすると、春哉の存在ってもう自分の妄想かドリーム小説か、というくらいのどこのおとぎ話の王子様やねん、というくらいの代物ですからね。かつて手を差し伸べて助けたいじめられっ子が、長じてイケメンの好青年になって帰ってきて、心折れて見る陰もなく引きこもってきた自分と再会しながら、失望することもなく見捨てることなくかつてと同じように一途に想いを向けてくれた上に、颯爽と救いあげてくれたのですから。
惚れますよ、そりゃ。
他にも何人か女性は登場しますけれど、この二人に関しては間に割って入る余地はなさそうです。若干一名、間に割って入るために無茶苦茶しやがりましたが。
まああの娘に関しては、正直心変わりの説得力が足りない気がしましたけれど。あそこまでやらかす娘が、あの程度の言葉と行動で心を入れ替えるかというと、ちょっと信じられないんですよね。じゃあどうするんだ、と言われると、あれはどうしようもないだろう、としか思えないのですけど。
先生も、あれは出来すぎな人だわなあ。逆に、あそこまで都合のいい人が居ていいのか、と思うくらい。特にお肉を奢ってくれるあたりとか! 

そこそこ綺麗にまとまっているのだけれど、どうやら続くようですが、ひきこもり対策部ということはどんどん変なひきこもりが出てくるんだろうか。あくまでメインは紫羽と春哉の二人に絞って欲しい気持ちも強いので、キャラ増やしすぎて迷走しないように願うところ。
いずれにしても、このまま順調に伸びていって欲しいなあ。期待株出現、ということで。