剣刻の銀乙女5 (一迅社文庫)

【剣刻の銀乙女(ユングフラウ)5】 手島史詞/八坂ミナト 一迅社文庫

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エステルに続き騎士姫ルチルも王宮の動乱を鎮めるためにヒースの元を去った。小隊をまとめる中核を失った一行は残り3つの剣刻を集めるため、エリナが発案したヒースとエリナ自身を囮にした誘き出し作戦を実行するのだが、剣刻の所有者は現れず、剣刻目当ての欲にかられた者たちに襲われるばかりの結果に。そんな中、ヒースたちに助力する男女の傭兵が現れる。どこか憎めない風情の兄貴分めいた雰囲気のベニートと、ヒースたちとさほどの歳の変わらない少女ドゥルセの二人は、ヒースたちの剣刻を狙ったならず者を瞬く間に倒してしまう。二人の助力に感謝するヒースとエリナは言葉を交わすうちに二人に親しみを覚えるのだが、そんな二人に剣刻の封印を解かんと画策する悪魔の道化師クラウンの仕掛けが襲いかかる。ヒースたちは剣刻の封印を守りきることができるのか。そして最後の剣刻の持ち主とは?剣刻争奪ファンタジー、急転の第五弾!
ちょっ、最近はあれなのか? 弓使いの時代が来たのですか!? 小隊メンバーの中では唯一、剣刻持ちではないマナ。所謂「魔法使い」ポジションに近い<占刻使い(オーメントーカー)>であることから、マナは後衛での支援要員と考えていて、実際そのとおりではあったんですけれど、ぶっちゃけ思っていたのとマナの戦闘力が違いすぎた! め、めちゃくちゃ強いじゃないかっ!! しかも、火力押しじゃなく、戦慄するような神がかった技量の弓術と占刻のコラボレーション。この弓の人間離れした神技の数々は、【魔弾の王と戦姫】のティグルを彷彿とさせるような凄まじいモノで、魔弾の射手の名に相応しい代物でした。いや、バトルシーンでここまでゾクッとさせられることはなかなかないですよ。その意味でも、マナのそれはティグル並みと言ってもいいかも。いやあ、川口さん以外にもここまで弓矢を映えさせる事の出来る人がいるとは。久々に鼻息荒く興奮させていただきました。

ダブルヒロインであるエステルとルチルの両方が一時的に剣刻を巡る現場から離脱し、残されたヒースとエリナ、そしてマナにシルヴィアたちだけで、残る剣刻3つを集めるために策を練ることになったのですけれど……正直、これは読んでるこっちも騙された。よくよく考えると、最大戦力である二人が抜けるって、誰がどう見てもあからさまに大ピンチなわけだけれど、それって=釣りの餌としてもあからさまなくらい魅力的なんですよね。残されたヒースたちが、自分たちの中で囮を選び出して動いていたために、その外側の大枠をまったく意識できなかった。ルチルとエステルが離脱した理由が、それぞれどうしても避けられないものであったことから、彼女たちの離脱が意図したものではない苦渋の決断だった、と思ってしまったんですよね。思うよなあ、これ。誘引策としては、鮮やかなくらい見事ですわ。
この策の唯一のネックは、ターゲットを完全に捕まえられるところまで対象を引きずり込めるまで、囮となったヒースたちが耐えられるか、という点だったわけだけれど、これについてはルチルもエステルもよく決断したものである。場合によっては比喩抜きで死地送りでしたしね。相手は何しろ、今までずっと手玉に取られ続けていたあのクラウンだったわけですから。それでも、敢えて任せたルチルは男前ですわ。自分を死地に置く事を厭わないヒロインは珍しくはないですけれど、好きな相手を死地に送り込めるヒロインはやっぱりなかなか居ませんよ。
その意味では、ルチルって実は主人公枠なんですよね。で、ヒースの方がヒロイン、と(笑
だって、ラストのルチルとエステルのイチャイチャっぷりを見せられるとねえ。あのパターンは読めなかった。これって、ルチルとエステルのダブルヒロインじゃなくって、ルチルがメインでエステルとヒースのダブルヒロインじゃないのか、マジでw
一応、エリナとシルヴィアもヒースにくっついてヒロインちゃんとしてますけれど、この二人もルチルやエステルには結構メロメロだしなあ。
クラウンが仕掛けてきた極悪極まる謀の数々は、これまでと同様かそれ以上に悪辣で外道でヒースたちの警戒を安々と打ち砕き死角から襲いかかってくる壮絶なものでした。甘さなんか何処にもない、謀略戦の極みだったと言えるでしょう。だからこそ、そんなクラウンを最終的に手玉に取る形で手のひらの上に収めてみせたルチルの王器は文句なしの大器を感じさせるものでした。エステルも無事に魔王座につけたみたいだし、これでようやく剣刻戦争も受け身に回る段階はくぐり抜け、収拾をつける段階に辿りつけた……と、思いたいところなんだけれど、果たしてあのクラウンが本当にこれで退場させることが出来たのか。ちょっと、未だに信じられないんですよね。それに、剣刻の真実についてまだ全然明らかになってないし。クラウンが、ちょっぴり新たな真実とそれに付随する新たな謎をもたらしてしまい、結局余計に剣刻の裏には深遠に似た真実が横たわっているというのがわかってしまったわけで……こりゃあ、戦力が整ったこれからこそが本番、と言う事になってしまうのか。いずれにしても、それは盛り上がるのもこれから本番よ、と言っているようなものでもあり、楽しみなことこの上ない。

シリーズ感想