アリストクライシII Dear Queen (ファミ通文庫)

【アリストクライシ 2.Dear Queen】 綾里けいし/るろお ファミ通文庫

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滅んだ村の終わらない戦争は続く――

「黒森に近づく人間は姿を消す」その噂に『穴蔵の悪魔』の気配を感じたエリーゼとグランは、
黒森の中にあるという廃村を目指していた。
そこで出会ったのは明るく居丈高な少女・アリシア。
エリーゼの忠告で逃げだそうとした彼女を、突如として現れた巨大な鎧が連れ去った。
鎧を追い『領地』へ侵入した2人が見たのは、
傷は治され死も終りも訪れない、永遠に続く『戦争』を行う人間達だった――。
儚く哀しい化け物たちのダーク・ファンタジー第2幕!
第一巻がどうしようもなく「人間」である化物たちの話であったとしたなら、この2巻は人間はどこまで「人間」で在れるかが試されている、人の業に纏わる話でした。
永遠に戦い続けることを強要される、というとヴァルハラなんかを思い起こさせてちょっとカッコいいと思ってしまうかもしれませんが、ここで行われている戦争と、人間たちが置かれた環境は栄光も勇気も存在しない、ただ怠惰に傷つけあうだけの腐臭のする腐れ果てた地獄でした。そんな中で人間たちは自ら考えることをやめ、獣のように落ちぶれて、醜いエゴを剥き出しにして暗い眼差して他者を踏みにじっていくのです。彼らを、この退廃に溺れた家畜たちを果たして人間と呼んでいいものか。彼らを人間として認めてよいものか。
自らを化け物と認めながら、それでも人の心を他持ち続けようとしているエリーゼとグランの前にぶちまけられた、あまりにも浅ましい人の業。まったく、悪趣味な話じゃないですか。
彼ら自身の力ではどうにもならない環境に置かれ、腐ることを強いられたのですから、同情の余地はあるのでしょうけれど、それでも彼らの澱みきった言動は見るに耐えれるものではなく、そもそもこの「領地」が誕生した原因を知ってしまうと、その同情の余地すら果たして保ち続けられるか……。
しかし、こんな澱み腐りきった環境の中でも、心を喪い飼われた人畜と化す人々の中でも、人としての尊厳を保ち続けよう。戦って、この世界を抜けだそうとしている人がいることに、自分でも思っていた以上に救いを感じ……それがより大きな理不尽に踏みにじられていく様に、さらなる絶望を味わわされるのです。

こんな、救いのない話があるものか……そう思っていたはずなのに。

とある男性の、最後の想いを目の当たりにした時に、「ああ、この人は報われたんだ」、そう感じてしまった事が、我に返ってひたすらに悲しかった。こんな結末を迎えてしまった人が、こんなに報われ救われたんだ、と安堵してしまった、それがただただ悲しい。
もっと、もっと報われてよかったのに。もっと救われてよかったのに。もっと良い世界を、素晴らしい時間を、人らしい幸せを、心を、愛情を、手に入れる事だって出来ただろうに。この人にとっては、これで本当に満足だった、という事実が「良かった」と思うと同時に、痛切なまでに哀れだったのだ。
こんなにも相反する感情で胸が一杯になってしまったことは、あまり記憶に無い経験だ。グルグルと渦巻いて溢れそうになる言葉にならない複雑な想いに、ため息が漏れる。
辛く苦しく、重たい世界だ。そう思うよりほかない。
そんな残酷で無慈悲な世界で、必死にあがいているエリーゼとグランの前に現れたのは、純粋無垢な悪意。邪気のない邪悪。
愛を知らない、天使のような悪魔だ。
よりにもよってこんなものを寄越すだなんて、あの存在のおぞましいまでの粘性の悪意の凄まじさを、狂気然とした好意の異様さを思い知らされる。
エリーゼもグランも、お互いを離さないで欲しい。こんな悪意にさらされて、とても一人じゃ耐えられそうにないだけに、余計にそう思う。二人のお互いをおもう強さだけが拠り所だと、改めて思い縋る顛末でした。
願わくば、グランに似た彼のあまりにも哀しい救いは、グランとエリーゼには与えられないように。二人には本当の報いと幸せを、手に入れて欲しい。

1巻感想