断罪のレガリア (2) ―星の偶像― (電撃文庫)

【断罪のレガリア 2.星の偶像】 多宇部貞人/すーぱーぞんび 電撃文庫

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世界は静かに混乱していた。多数の人間が消失するという謎の六芒星事件―地球上に巨大な六芒星の魔方陣が描かれ、何者かによって儀式が行われている。シオンたちは黒装退魔師団よりも高位の組織・極東教会直属の『熾天使の六翼』の命により、魔王級の悪魔が絡むであろう不可解な事件の調査へ乗り出すことに。その一方で、八慧は幼い頃に亡くした母を思い出し、感傷に浸る日々が続いていた。そんなある日、八慧は自身と同じく母を亡くしたアイドル・JUNEと出会い、何でも願いが叶うと噂されるウェブサイトのことを知ることになり…!?退魔の宿命を継ぐ者たちのアンホーリー・アクション第2弾!

うむむ、本作の何が気に入らないかというと、なんかあんまり人気なさそうなところが気に入らない!!
あれ? 結構面白いしよく出来ていると思うんだけれどなあ。
前作の【シロクロネクロ】の頃から、この作者さんの主人公とヒロインの関係の書き方に面白味を感じていたのですけれど、あちらは中途半端なコメディ要素と主人公の砕けたキャラクターが逆効果になって人間関係の妙味を打ち消してしまっている節があったのですが、作風を硬派なベクトルに向けたこの【断罪のレガリア】はその辺りを丁寧かつシットリと描く余地が生まれていて、良い味が出てきてるように思います。
面白いなあ、と思うのが主人公のシオンが非常に正しい選択を選び続けている点。彼の過去やトラウマの大きさから、容易に「囚われる」だけの重たいものを背負っているにも関わらず、彼は常に一番大切なもの、守るべきものである八慧の存在を見失わないのであります。まず最優先で、幼馴染であり家族であり大切な人である八慧を守ることを意識している。これは表層的な意味だけではなく、彼女のメンタル面にも踏み込んでいて、傍から見ていても独り善がりではないかなり理想的な距離感で八慧の側に居続けてるんですね。八慧からすると、鬱陶しくなさすぎず素っ気なさすぎずの絶妙な距離感でもあり、熱血漢でありながら冷静さを失わないシオンのキャラクターは、仕事のパートナーとしても家族としても想い人としても大きな信頼を寄せるに足る人物なのです。翻って八慧の方も、変に暴走したり自分勝手に動いたりせず、かといってシオンにべったりとした自立性がないような女性でもなく、ちゃんと一人で立っている大人なヒロインなんですね。
辛い過去を持つ者同士、大切なものを喪ったもの同士、様々な局面で彼らを揺さぶる展開や悪意が襲ってくるものの、二人をつなぐ信頼感と強い心根は揺さぶられながらもキチンとそれらを跳ね飛ばしてくれるので、見ていても非常に安心感があります。ホント、いいパートナーなあ、というのが折々に触れて実感出来るのです。
さらに、周りを固める人材も信頼の置ける人物ばかりで、彼らへの助言や手助けを欠かしてくれないんですよね。特に、天津架ヶ世という青年は彼自身、大切なモノを守りきれず喪ったという後悔に苛まれているからか、すべてを復讐に捧げているという身の上でありながら、シオンが自分の二の舞いにならないようにとても気を遣っていて、態度だけはそっけないけれど実際は非常に親身になって時に彼に助言し、時に身を挺して手を差し伸べ、とあんた自称復讐鬼じゃなかったのか、と思わずツッコミたくなるイイ人で、登場時の何にでも噛み付きそうな狂犬みたいな印象は何処へいった、という感じになってます。でも、頼もしいことこの上ない。
ただ、これだけ親身になってくれていながら、一方で復讐に自分の全身全霊を燃やし尽くす覚悟は一切ブレないのは、彼自身が救われる余地がもう残っていなさそうで、ちょっと心配なんですよね。これで復讐に凝り固まっていたのが、徐々に打ち解けてきた、というのなら呪縛から解き放たれる余地がありそうなものですが。

今回、一番お気に入りだったのが、家出少女と八慧の交流でした。わりとパターンだとこの手の新キャラは主人公が拾ってしまうのですけれど、八慧が拾ってしまうというあたりにシオン=八慧というカップリングのブレなさを感じます。基本的に、シオンには他のヒロインが入る余地がさっぱりないんですよね。完全に八慧に一途ですし。
仕事から逃げ出してきたアイドルと、喪失感に心を弱めていた少女との何気のない交流。捨て猫を拾うように、自宅に招いた行き場のない旬という少女との気の置けない女の子同士のやりとりは、どこかホッと心のあたたまるもので、目立たないけれどこの二人が友達になる一連のシーンはなんかえらい好きでした。
結果として、彼女との接触が新たな事件へ不用意に踏み込むことになってしまうのですけれど、八慧にとってシオンや父親だけが拠り所ではなく、こうやってシオンとは関係のないところで育んだ人間関係が彼女を励ます、というのは人間関係の枠をググっと広げる効果もあって、良かったと思います。これだけ主人公とヒロインが強固な絆と信頼で結ばれていながら、そこだけに関係が閉じずにちゃんと黒装退魔師団というファミリー内の仲間同士や、外での一般人である友人で成長を促すような関係が育まれているのは良い感じなんじゃないでしょうか。
そういう外枠を大きく広げておいたからこそ、一番大事なところでやっぱりシオンと八慧の二人の想いが強く作用する展開が映える気がします。
シオンって、ほんと素直クールというか、わりと恥ずかしい台詞をシラフでズケズケと言ってしまうので、ラストらへんちょいと赤面ものです。これまで八慧はもう少しシオンに対してはサバサバした感じ、というか家族的な親愛が強かった気がしますけれど、ラストではさりげないながらも明確に態度が変わってましたね。あの甘え方や自分の見せ方は、シオンを家族として見ていた時とは完全に意識が異なっているように見えました。
むふふ、甘酸っぱいのう!

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